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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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112/120

階段状の昇降装置

 僕はエスカレータの左側に寄り手摺に片手を置いて、フロアを降りている。


 さっきは五階から降りたのに、降りたフロアはまた五階だった。

「すいません、ここも五階なのでしょうか?」

 僕は周りを見渡し、近くにいた時間を持て余してそうな男性の老人に尋ねてみた。

「ハイ、そうですよ。この建物には五階しかないんです」

 彼は言った。

「ソウヨ、だってこの建物にはこの下りのエスカレータしかないんだもの」

 隣にいた彼の妻のようにも養老施設で知り合った友人とも見える女性は、鈴を鳴らしたような声で男性の老人に賛同を示した。

 そうなのか、だからいつまでたっても五階にいるわけか。

 恐らく、いまこのフロアにいる人々はここから離れたくないようだ。

 だからいくら降りても五階なのだと、僕は悟った。

 先ほどから不審に思っていたが、上りのエスカレータが無いのはこの階に留まりたいという願いの顕れなのだろうか。


 僕は五階を満喫する事にした。皆がここから離れたくないくらい素敵なところなのだとしたら、それなりの理由があるはずであり、時間を持て余しているとも云える立場の僕にしてみれば、急いで降りる必要がなければ焦って昇る程に何かに追われているわけでもないのだから。


 誰かが僕に体当たりをしてきたので、僕は多少よろめいた。いきなり体当たりをするなどは非常識な行為であり僕は一瞬で怒りを覚えたが、しかし許してあげなければなるまい。なんと言ってもここは五階なんだから。

「ああ、ごめんなさい」

 僕にぶつかった彼はそう言い残して、降りのエスカレータを駆け足で上って行った。どうして降るはずのエスカレータを登っていったのだろうか。不思議な行為をする人である。

 そのように考えていると、もう一人降りのエスカレータを駆け上がってきた人がいたので、僕は聴いてみることにした。

「あの、何で上っているんですか?」

「どうして、あなたは降り続けているのですか?」

 問うた僕へ駆け上がってきた人物は息を切らしながら逆に質問を投げかけるや否や、急いでまた昇っていった。だって、エスカレータは降りのものだから降りていくしかないのではないか。

 彼は何を言っているのか僕には理解することができなかった。彼らはきっとこの五階に居たくないんだろうな。

 こんな素敵なところなのに。

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