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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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愛おしい

 噴水の中から漏れてくる光は、緑色であったり、黄色に向日葵を連想させられたかと思えば隣から溢れている紅い光と混ざっている。それらが皆、お互いを溶け合わせながら天へ向けてあがっていた。縁石の淵に腰をかけている僕の後ろで吹き上がる噴水、それ自体は透明な水を彩色しながら、縁石で囲われた池の中で一列に並んでいた。僕が見ているのは、遊園地の中に出店されている僕の向かいにあるカフェのウィンドウに映っている水たちであり、カフェの中に居る人々は色とりどりの水中で泳ぎ疲れて休憩をしているように見えなくもない。

 青空ではなく夏の夜空を覆うように聳える木々は下からライトアップされ植物の作り物めいた緑で周囲を照らしている為に、模造の木々と間違えそうにもなる。


 僕は既にこの場所で、五時間以上座り続けている。午後三時に待ち合わせをした奈々は、一向に現れる気配も無かった。何度か休日にデートへ誘って、ようやくオーケーをもらったというのに、この仕打ちだ。僕はその日の予定は完全に空いていたので、侘しさが心の中から消えるまでこの場所にいようと思っていたら、既にこんな時間になってしまっていたのだ。

 僕が本来奈々が座るべき場所に視線を預けていると、噴水やライトアップされた木々からの光が、――ふっ、と消えてなくなり、代わりに何か黒いの影が縁石を覆ってしまった。僕がつと顔を上げるとそこには奈々が立っていた。

「ごめんね、遅れてしまって」と奈々は謝る。僕は座ったままで奈々を見上げていたのだが、いつもの奈々ではなかった。正面から見れば凹凸が全く無いことに気付き、すこし顔を傾けて横からみたら厚さが殆どというよりも全く無いことが分かる。言うなれば、写真の奈々が奈々自身の身体の輪郭に沿って切り取られて、その写真に写った奈々が身体を動かして喋っているのだ。

「ううん、いいんだ。来てくれれば、それで僕はかまわないんだ」

「まさか、まだ居てくれているとは思わなかったけれど」

 写真の奈々は僕の問いに答えた。実物だろうと、写真だろうと紙っぺらだろうと僕と会話が出来るなら、それで良いじゃないかと僕は思った。

「さあ、どこに行きましょうか。もうじき閉まっちゃうから、早く乗り物に乗っておきましょうよ」

「そうだね、じゃあ……まずはあそこに行こう」と僕はこの遊園地で一番有名であるジェットコースタを指差しながら奈々に答えた。 奈々は、いいわねといって頷いてくれた。そして僕は縁石から立ち上がり奈々とほぼ同じ高さで視線を交わすと、二人でジェットコースタの切符が売られているゲートへ向かって歩き始めた。


 レンガ造りの歩道をしばらく奈々と並んで歩き、階段を二箇所上った。今日はそれほど風が強くないのだけれど、歩くたびに奈々は薄い身体を海中で漂うワカメのように揺らしていた。僕はどうしても奈々と手を繋ぎたかった。本当は腕を組みたいところだけど、初めてのデートでそこまで求める勇気は僕には無かったのだ。笑いたければ、笑え。だが、世間の嘲笑なにするものぞ。僕の手を握るために奮い起こした勇気は、きっと誰もが認めることになるだろうという自信があった。

 僕が右手がそうっと奈々の左手に触れると、奈々は厭な顔ひとつせずに僕を見返してきた。いいのよ、手を繋いでもと奈々の顔が僕に話しかけたように見えて、僕の勇気は大いに鼓舞されたのだ。そして僕が彼女の左手を慈しむ気持ちで握ると、奈々の小さな手は僕の手の中で紙のように、

 ――くしゃり

 と潰れてしまったのだ。奈々は相変わらず口元に微笑をたたえて僕を見ていたのだけれど、それが余計に僕の気持ちを逆撫でしたのだ。僕はやり切れない怒りを感じてしまって、奈々の左手首の端を両手の人差し指と親指の先で摘むと、小動物が無く声を連想させる音を立てて切り破ってしまった。重さの無い奈々の左手は、丸められたまま音も無く地面に堕ちていった。それでも奈々は目を丸くしただけで、痛いとも苦しいとも僕に語りかけることは無く、僕はそのような奈々を見るに耐えきれなくなってしまったので、奈々の頭と足をつかんでそのままぐしゃぐしゃと全身を丸めてしまった。そうすると奈々は両手に収まるくらい小さな奈々になってしまったので、僕は先ほどまで腰掛けていた噴水の近くまで戻ると、奈々を水の中に放り投げたのだ。

 しばらくして奈々は水を吸って少し広がり顔が見えるようになると、僕に向かって、乗り物にはどうやって乗れば良いかしらと話しかけてきた。

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