子供達を連れて、近くの街へ向かう ④
「よ、ようこそいらっしゃいました」
お店の従業員の年配の女性は、そういって緊張した様子だった。顔色が悪くて、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
他のお客さん達もちらちらとこちらに視線を向けていた。
元々子爵家という下位貴族の出とはいえ、私は今世では貴族として産まれた。そして今や公爵夫人なんていう立場だ。
改めて考えてみると不思議な感覚になってしまうわ。だって私が公爵夫人なのだもの。
子爵家の娘という立場だったとしても平民達はこうして恐れを抱きはしたと思う。それが公爵夫人とその子供達が二人もいるのだから何かあったらと心配なのだろう。
もちろん、クーリヴェン公爵家がそんな理不尽なことをするとは思ってはいないだろう。それでも、私達のことを実際に知らなければそういう感情を抱くことは理解出来る。
この世界は身分社会だから。
些細なことで貴族ともめて人生が狂ってしまうような平民だっている。私はそう言う風に権力を使う気は全くないし、もし理不尽なことが起こったらなるべく良い方向にもっていきたいとは思っているけれどね。
私自身がバルダーシ公爵家という自分より上位の存在に使い潰されそうになっていたからというのもある。余計に何かあった時に手を差し伸べられる私でいたいって思う。
「突然押しかけてしまってごめんなさい。許可を出してくれてありがとう」
まずはそう言って笑いかける。
安心してもらえたらいいなと思う。
クリティドやティアヒム、クリヒムは私のことを家族として受け入れてくれた。領民達が何を言ったとしても、私の味方で居てくれると予想出来る。
でも領民達からも受け入れられた方が嬉しい。
私は足りない部分も沢山あるかもしれないけれど、それでも嫌われるよりは好かれた方がいいなと思う。
ただ距離感はきちんと図らないといけないけれどね。
接し方を間違えて、価値観の違いなどから取り返しのつかないことに陥ったり……なんてこともあるだろうから。
こう考えると前世の記憶を思い出した際に今世の記憶が全て飛ぶなどなくて良かったと思ってならない。
……もしそうなっていたらそれこそまた別の未来が待っていただろうな。
そんなことを思いながら、今の幸せをかみしめて笑みがこぼれる。
基本的には他のお客さん達と同じ対応で構わないというのを伝えた上で、席に案内してもらった。
わざわざ席を取ってもらわなくても良かったのだけど、有難く使わせてもらうことにする。
店内で食べることも、お持ち帰りすることも出来るようだから。
それに席に関しても奥まっていて、他の席からは少しだけ離れた場所を用意してくれていたみたい。
私達が落ち着いて過ごせるようにという配慮が伺えた。
私達がこうして受け入れられているのも、クリティドが領主として頑張っていた証なのよね。
クリティドが領主として立派じゃなければ、領民達を苦しめるような領主だったならば……、その家族に対してこうもよくは出来ないだろう。
バルダーシ公爵家の問題もあって、クリティドもこれまでバタバタしていたはずだ。
気の休まらないことも多かっただろう。それもあってティアヒムとクリヒムも領民達と接することがあまりなかったのだろうし。
でもその周りを警戒しなければならない状況でもクリティドは公爵家の当主として凄く頑張っていたんだなって。
そう思うと私の旦那様は凄いなと誇らしい気持ちになった。
「母上、人がいっぱいだね」
そう言いながらクリヒムはきょろきょろしている。店内には他のお客さんもいて、それなりに人が多いからびっくりしているのだろうな。
そしてきょろきょろしながら、興味深そうに店内を見ている様子が可愛らしくて笑ってしまう。
ティアヒムもこういったお店に来るのは初めてだからか、何処か楽しそうだ。
クリヒムよりは表情があまり変わっていないけれど、状況を楽しんでいることが分かる。
ティアヒムもこういうところ、子供らしくてとても可愛い。
幾らでもこの様子を見ていたくなるわ。周りのお客さん達も微笑ましい目で子供達を見ていることが分かって嬉しくなる。
目が合って微笑みかけたら視線をそらされてしまったけれど。
貴族と平民という違いはあれど、子供を可愛らしいと思う感情というのは共通のことなのよね。
それに美味しいものを食べて、そのおいしさを共有できる気持ちも。
「母上、何を食べますか?」
「ちょっと見ただけでも美味しそうなもの、沢山だよね」
私が二人のことを見ながらにこにこしていると、そう声をかけられる。
二人ともちらちらお菓子の並んでいるところに視線を向けている。うん、可愛い。今すぐ抱きしめたいぐらいだわ。
これからお菓子を食べたらもっと可愛らしい姿を見せてくれるのだろうなと考えただけで楽しみになった。




