よっろい~、よっろい~、よっろい~
「よっろい~、よっろい~、よっろい~」
鼻歌を歌いながら、鎧の方へと進んでいくユニ。そしてそれを追いかけるサン。るんるんとした気分で歩くユニを見ながら、サンは、彼へと言葉をかける。
「随分楽しそうだけどさ。ユニってさっき自分で言ったように絶対鎧つけないでしょ?わざわざ見る必要ないじゃん」
「いいじゃないですか!男なら誰でも憧れるもんでしょう!最強ですよ?最強!そんなキラキラをサンは、失ってしまったんですか!」
「いや、まあ、多少はワクワクするけど」
「ほーらー、あ!つきましたよ!武器屋!うわ!ゴツいですね!」
ユニは、最強と名のついたその鎧を見て思わずそう言葉を発する。それは、異様な装飾品と、分厚い鉄鋼に覆われていて、こんなものを着て蹄鉄拳など打てるはずもなかった。
「あー、絶対僕に合わないですね、これ」
「そうだね。ユニが着たら、重石代わりにしてトレーニングするみたいな使い方しかしなそう」
「あ、いいですね、サン。それ。そのために買おうかな。今つけたいのは筋力ですし」
「いや、それだけのために出せる金額じゃないよ、これ……あれ?」
そんなサンの目に映るのは、店頭に並ぶ、一つの武器。サンは、思わずそれに歩み寄り、手に取った。
「ん?どうしたんですか?サン? ……え、それ?」
「うん、『刀』だ」
そうサンが今手に取っているのは、そった刀身に片側だけ刃のついた、紛れもない刀だった。
「意外ですね! しかも他にもめちゃくちゃありますよ! サンの持ってる形の剣なんて、獣界ではほとんど見なかったのに」
「うん、本当にね。だから、こんな感じで店頭に並ぶことなんてないと思ったけど」
「もう買っちゃえばいいんじゃないですか?ヘスティアの代わり。だって少なくとも氷の国の会談が終わるまでは、ヒヤラさんに貸しっぱなしなわけですし」
「ダメだよ。ヘスティアに絶対怒られるし。それに、ヘスティアが来るまでの代わりにしか使わないなんて、俺に買われた刀も刀身を叩いた鍛治師さんや、鍔や柄を作った生産者さんも可哀想だし」
「相変わらずの物大事主義ですね。サンって、断捨離できなそうです。一人で暮らしたら絶対部屋汚いですよ」
「なんだって?」
「おーい! なんだいべらぼうめ! 急に寄り付きやがってべらぼうめ!! その刀に興味でもあるのかべらべらぼうめのべらぼうめってんだこんチキショー!」
サンとユニが話していると、スキンヘッドに捻り鉢巻を巻いた男が、ふいにそこに現れた。きっとこの店の主人だろう、また特徴ある語尾の人物がきたなぁ。心の中でそう呟きながらも、サンは店主に言葉を返す。
「うん。この刀ってやつなんだけどさ。中々この国以外の店で置いてないじゃないか。なんでこの店にはこんなにあるんだろうと思って」
「そりゃオメェ、あの紅炎旅団の大団長、アサヒが持ってた武器だったからに他ならねぇだろうがいべらぼうめいっていどっこいょいやオラ」
「え?」
店主が聞き覚えのある名前を口にしたので、サンは目を丸くする。しかしそんなサンの表情の変化など目に入らぬかのように、店主は続けた。
「あんちゃん知らねえのかい!!!? ここ魔法界じゃあアサヒはみんなの憧れだからなべらべらぼいや! まあとは言っても、この刀ってやつぁ、だいぶ癖アリだ! 限られた職人にしか作れねぇ! けどおれぁ! その点においちゃあ凄腕だから、これも何本も店においちまってるってぇ、わけだ!! なんたってここには、あの紅炎旅団の一員ファルだって、刀のメンテをしに来るんだぞいや!!」
「ええ!そうなの??」
「本当ですか!!」
二人して声を上げるサンとユニ。確かに、これほどみんな刀を持っていないのに、自分の師匠は、どうして 2 本も刀を持っているのかと思ったが、そういうことだったのか。そうしてサンは、チラリと自身のペンダントを見る。紅炎旅団と顔見知りなら、きっとこの刀がペンダントの状態でなければ、自分とアサヒとの関係に気付かれていただろう。危なかった。ファルから、手紙にてあまり正体を明かすなの注意を受けたのに、早速それを破るところだった。
「んで、なんだ!あんちゃん!てことはここに何かをしにきたんだろってんだいべらぼうめ。だったら刀でも買ってくのかい?」
「いや、俺は」
「じゃあ。おじさんは、色々な強い人の武器を作ってきたんですね」
店主 とサンの会話に割り込むように入ってきたのは、ユニである。その時、サンは、ユニが一瞬、いつものおちゃらけた雰囲気を放たなくなったことに気づいた。そんなことなど気にも留めぬ店主は、ユニへと言葉を返す。
「あったりめえだろいべらぼうめい!俺みたいないい腕の刀鍛冶には、いい顧客がつくってもんだ!! しっかし、だったらなんだってんだいべらぼうめったらべらぼうめい!!」
「………でしたら、もしそうでしたら、教えて欲しいです。……ねえ、おじさん。ここにある何かを手にすれば、僕はもっと強くなれますか?」
「ああん!?」
「………………」
サンは、そんなユニを見て、驚く。なんで、急に武器なんて持とうとするのだろう。そんなことなくても十分に強いのに。しかし、そのサンの疑問には、店主の鍛冶屋が、すぐに答えてくれた。
「……なんだ、にいちゃん。つよくなりてぇのか」
「はい」
「じゃあ、まずお前をやるべきことを間違っちまってるな」
「はい?」
店主の言葉に、ユニは自身の言葉を止める。店主はそのまま言葉を続ける。
「焦りってところかいべらぼうや。兄ちゃんが抱える感情は。けれどな、手を見ればわかるぜい。兄ちゃんは今までその二つの拳で戦っていたタイプだろい? それなのに今更武具に手を出したって何か変わるわけでもあるめぇ。そんなあちこちうろちょろしてたらなぁ!にいちゃんずっと弱いままだぜ!」
「それは」
「訂正してよ」
その二人の間に入ってくるのはもちろんサンであった。彼は真っ直ぐな視線を店主へとぶつけ、言葉を紡ぐ。
「ユニは、本当に強いやつだ。弱いままって、まるで今が弱いみたいだ。そう言われるのは、あんまりいい気がしないよ」
「………………」
店主は、そんなサンのことを一時の間、何も言葉を話さずに見ていた。そんな刹那の沈黙の後、店主は、彼を鼻で笑う。
「ふっ、それを兄ちゃんが言うのかい?」
「なんだよ?」
「いや。なんでもないさ。でも悪いけどな、兄ちゃんのそれは、優しさじゃねぇよ。後ろの兄ちゃんの顔、見てやれや」
「え?」
店主に言われて、サンは即座にユニの方を振り向いた。
するとそこにいたユニの表情は、どこか、不思議なものだった。
喜怒哀楽、その全てに当てはまらない。いやむしろ、その全てを一つにしたからこそ生まれたような、そんな顔。拳は軽く握りしめ、微かに眉を顰めている。けれども、ユニは、そんな中でも無理に笑って、サンへと言葉を返すのだった。
「……なんですか?サン。……嬉しいですよ。素敵な言葉、ありがとうございます」
「え?あ、うん」
自分が彼にとって快い行動をしたわけではないことが、その反応からわかった。そうか。サンは後から気づく。ユニは、魔法が習得できなかったら焦っているわけではなのだ。自分やシェドやリューヤが、ちゃんと、魔法を習得して、前に進んでいくから、置いてかれるのを恐れて焦っているのだ。それなのに、自分はこんなことを言って、けれども、ユニは、今、笑ってくれて。
「……ユニ、ごめ」
「きゃー!!」
そんなサンの言葉を、誰かの悲鳴のようなものが遮った。見ると、サンとユニの視線の先に、一人の女性が、武装をした男たちに、追いかけられているのが見えた。まずい。早く行かないと。でも先にユニに謝ってからじゃないと。ぐるぐると思考を回し、いつものような俊敏性を発揮できないサンにユニは笑顔で返す。
「………サン、変な気遣わないでください。どうせすぐ追いついちゃうんですから。それより、……行きましょう、サン。あの人を助けに。サンは、今一番そうしたいんでしょう?」
「…………うん! わかった!」
2 人は軽く店主に頭を下げ、即座にその女性の方へとかけていった。




