タイトル未定2026/04/19 21:49
「えっとねぇ。これでしょ、これでしょ。それに、これ! あ、これも似合うよ! ネク!」
大人っぽいコーデや可愛らしいコーデなど様々なものをネクに分け与えながら、着せ替えを楽しむクラウ。そんな彼女に対し、ネクは困ったような表情で言葉をこぼす。
「………もう、いいよ、クラウ、……少し、恥ずかしいし」
「何言ってんの!めちゃくちゃ可愛い服揃えて!シェドに見せてあげようよ!せっかく、氷雪の銀狼団さんからもたくさんの謝礼金もらったんだし」
「……ねえ、クラウ。あんまり無駄遣いは」
「恋する乙女の自分磨きが、無駄遣いなはずあるもんですか!」
ああ、これは何を言っても意味がないな。ネクはクラウに言葉を発するのを諦め、クラウに黙々と従って、着せ替え人形を続ける。ただ、ネクにそのままセーターにとあるスカートを身に付けさせた時、クラウは言葉を発した。
「あ! その服、絶対黒のマフラーとか合うかも。………んーでも、この季節だと置いてないか。……そうだ!」
何かを閃いたようなそぶりを見せた後、クラウは、ペンを出す。そしてさらさらとマフラーをクラウに描き、実体化させた。ふわふわと落ちていく確かな質量を伴ったマフラー。クラウは、それをネクに巻いた後、表情を明るくする。
「うん! やっぱり、似合ってる! 可愛いよ! ネク!」
ネクはポンポンと、クラウが巻いてくれたマフラーを触る。すごいな。本当に、本物の手触りとなんら変わらない。ネクは、クラウの言葉に少しだけ顔を赤らめながらも、彼女につたえる。
「……あ、ありがとう。………それにしても、本当に使いこなせるようになったね。固有魔法」
「えへへ、そうでしょ! タトリアおばあちゃんだけじゃなく、シルヴァさんにも教えてもらったしね! 『固有は信念を想起しなくても、日常的に出せるようにする!』いやぁ、本当にみんな教え方上手くて助かったなぁ。私でもこのレベルに来れたし」
「………それは、クラウが頑張ったからだよ」
ネクは、ほんの少しだけその瞳に切なさを浮かべ、言葉を返す。そう、クラウは本当に頑張っていた。固有を日常的に出せるようにする。そのための訓練は、固有の発現回数をただひたすらに重ねることに他ならない。
それはネクも行った修行だったが、自分の場合はとってはそれほど苦しい訓練ではなかった。その信念の想起に、辛い感情が含まれなかったからだ。しかし、クラウのような黒魔法使いは、そうもいかない。彼女は、自らの固有を発現させる際、苦痛に歪めたような顔をしていた。そう、まるで大嫌いな自分自身を噛み潰してもするかのように歯を食いしばりながら、何度も、何度も。
「……本当に、クラウは頑張ってた」
「………ありがとう、ネク。うん、とりあえず、それが一番似合ってるし! 買いにいこーよ! ……あ、でも店員さん話してるみたい」
クラウの言葉に従って、ネクも視線を彼女と同じ方向へと向ける。すると、彼女の言う通り、店員と 1 人の女性が話していた。1 人の背の高い女性が、店員にどこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。遠方からでも、その女性が店員に身長から威圧的にならないようにしているのが伝わってきて、きっと悪い人ではないと言うことが直感できた。
(でも何を話してるんだろう。サイズが合わないとかかな。…ん??)
その時ネクは、長身の彼女へ違和感を覚える。微かに聞こえるこの声。そしてその容姿。ネクはそれに既視感があった。よく見るとクラウもまた、目を丸くして、驚いたような表情をしている。おそらく彼女も気づいた。
「………やっぱないのかい?この服のもう一個大きいサイズは。結構気に入ってるんだけどねぇ」
「………ごめんなさい! 本当に今ちょうど取り扱いがなくて」
「……そうかい、……ソラの好きそうな服だったんだけどな」
「え!ソラさんってもしかして彼氏さんですか!」
「え?いや、いや違うよ!そんなんじゃなくて!」
「じゃあ一回これ着てみましょうよ!結構緩めのデザインですから、このサイズでもきっと入ります! 何事もチャレンジですよ! チャレンジ!」
「………そうしたいのは、山々なんだけどねぇ」
そう、今店員と話している女性は、氷の国でネクたちと激闘を繰り広げたストピナだった。店員の着てみましょうという言葉に、チラリと自身の腕を見ている。
(そうか、土の義手義足だから、汚れがついちゃうのか)
ネクが内心でそう呟いたその時だった。クラウがペンを取り出し、何やら筒状の布のようなものを書き表し始めたのだ。それが実態を伴うと同時に、ネクの首にあるマフラーが消滅する。そしてそれを手に持ってクラウはストピナの方へと歩き出す。
「着てみたらいいんじゃない?」
その言葉に対して、ストピナと店員がクラウの方を振り向く。ストピナは、目を丸くしてバタバタと驚きながら声を震わせて言葉を紡いだ。
「え?いや、お前、どうして?」
「えーとお友達さんですか?」
「はい! 友達です!ほら行くよストピナさん。これあれば試着できるでしょ?」
「え?あ………え?」
クラウがすでに具現化していたのは、アームカバーだった。それをストピナに渡して、彼女の腕を引っ張ると、試着へと連れてきた。
ストピナの手にのる、先ほどの服と、黒いアームカバー。それをじっとみた後に、ストピナはネクとクラウに視線を映す。
「あんたたち、どういうつもりだい?」
「理由なんてないよ! 恋する乙女を応援したい気持ちになるってのは当たり前でしょ! ソラって人好きなんでしょ! もう顔見てたらわかるから! 早く着てきて! 私がその服に合うやつ見つけてあげる!」
「は………いや、恋って………」
戸惑ったような困ったような、そんな視線で、ネクの方を見るストピナ。分かるなぁ、その気持ち。でもそうなると自分の友達は、止まらないから。
ネクはイタズラっぽい笑みを浮かべながら、ストピナに言った。
「………うん。着てみよ。きっと、似合うと思うよ」
ーーーー
「なるほどなぁ、随分種類があるんだなぁ、魔法道具ってのは」
適当な銃一つを見つめながら、シェドはそんな言葉を漏らす。彼のいう通り、リューヤとシェドの目の前には、剣や銃、棍棒など様々な武器が並び、その一つ一つに魔法の効果の但し書きみたいなものがしてあった。
「風、氷、雷、木。それらの属性を単に出力するだけじゃなく、筋力増強や感覚強化みたいな、要素的な出力ができる武器もある。全然影に収納しといてこの辺使うのはありなんだけどな」
「………確かに、シェド、似合いそうだね。……僕も、何か、持っておこうかな?要素、使えないし。所長が作っていた要素の弾も、もうなくなってきたし」
シェドと同じように武器を一つ一つ手に取りながら、ボソボソとそう呟くリューヤ。そんな彼にシェドは言葉を返した。
「なんだ?やっぱり気にしてるのか?原初の四属性の要素概念を、ひとつも引き出せなかったこと」
「………うん」
「四つも属性使えるのに、贅沢なやつだな。別に今でも十分強いだろ。リューヤは」
「……あ、うん、でも、やっぱりみんなみたいな、芯がないのは、嫌だよ。まあ、記憶がないから仕方ないのかもしれないけど」
「……………」
シェドは、リューヤの言葉に対して、わずかに沈黙する。しかし、その沈黙ののち、シェドは言葉を紡ぎ出した。
「………なあ、リューヤ。それについて俺に、俺にさ、一つ仮説があるんだ」
「仮説?」
「ああ、どうにも引っかかるんだよな。お前が要素を使えない理由とお前の記憶がないことを結びつけるのが」
「……………………?」
シェドの言葉の意味が分からず、武器を持ったまま、リューヤは首を傾げた。そんな彼に対し、シェドは続ける。
「だって一応リューヤは、全属性の性質概念は使えるわけだろ? そしてその理由は、ポセイドンがお前にたくさんの魔族や獣人の記憶を入れ込んだから。けれど、いや、だからこそおかしい。なんで、その記憶が雷や氷の性質を発現させてるのに、要素は発現させないんだ?」
「それは、僕の信念が不足してて」
「だからリューヤの信念が不足してて要素が使えないってんなら、全属性の性質も使えないはずなんだよ。リューヤが使う魔法がリューヤの信念を力にしてるはずなら、そうなるだろ? 要は、あっちは使えてこっちは使えない。その事実自体がもうすでにおかしいんだ」
「………なる? ほど?」
「まあ、本題はこっちじゃないから別にいいよ。とりあえず俺はここで仮説を立てたんだ。俺が思うに、もしかしたらよ、本当は昔リューヤは、全ての属性の性質と要素を使いこなせていたんじゃないか?」
「…………え? そんな、まさか」
「ありえない話じゃないだろ? だってリューヤは過去の記憶がないんだから」
「…………………」
確かにシェドの言う通りだ。自分が要素を使えていた姿など今や想像もつかないが、実際自分の記憶などほとんどないのだから、否定のしようもない。
「………でも、だったらなんで今の僕は、それが使えないのかな。僕を完全体にしようとしていた所長が力を奪ったとは考えづらいし………それに、自分から力を失ったわけないもんね。……わざわざ弱くなる必要は」
「いや、俺は、お前が自ら力を捨てたんじゃないかって説が一番強いと思うよ」
「……え?」
リューヤは、目を丸くしてシェドの方を見つめる。なんで、わざわざ自分から。不思議に思うリューヤだったが、彼は、シェドの言葉を聞いてすぐにその理由に納得した。
「……だってな、リューヤ。かつてのお前にはさ。いたはずだろ。要素魔法なんかより、そう、強さなんかよりも、ずっとずっと大切な存在。……お前にリューヤと名前をつけたやつが」
「………………!」
(じゃあ、私が〇〇の名前つける~~)
そんな彼の頭に浮かぶのは、シェドの言葉の通り、彼に名前をつけた彼女だ。今や、顔さえも思い出せない。けれど彼女のくれた言葉だけが微かに頭に残っている。彼女は、かけがえのない存在だった。自分にとってかけがえのない存在だった。
「……確かに、その人は、僕にとってそれくらい大切な人だったと、思う」
「そうだろ?だから俺の仮説はこうなんだよ。お前は、かつて要素の概念の魔法も全属性分使うことができた。けれど、過去のお前は、その力を捨てた。大切な人を、守るために」
「………力を……捨てた」
「あぁ、だからな、もしかしたらそいつが知ってるかもしれないぜ?お前が要素概念を使えなくなった、その理由ってやつを」




