.........早くしないと、私、誰かのものになっちゃいますよ〜
天気は快晴、場所はミドルナのヴォルファ宅の庭にて、一人の鳥の獣人がひたすら頭をかいて、不安げな顔をしていた。
「いやあ〜〜、も〜〜、こんなに目立って.........。やっぱり魔法界になんて送るべきじゃなかったか? いやぁ、でも......」
そんな言葉を紡ぐのはもちろんファルである。縁側に座るヴォルファは大きく息を吐きながら、ファルへと言った。
「相変わらず過保護だなぁお前は。一度送り出したんだろうが! 男なら堂々とせんかい! 情けない! 全く奴らだっていつまでもガキじゃないんだぞ!」
「そうだよ。ファルさん。それにこんな情報量なら神たちにも、魔法界にサンがいるなんてバレやしないだろ。そこら辺はシルヴァさんだって計らってくれるだろうし。なにも心配することないよ。一旦セロリ噛む? 落ち着くよ」
そう言ってファルへ向かってセロリを差し出すのはラビである。紅炎旅団の団員で現在獣界に滞在している 3 人。その彼らが、タトリアからもらったサンたちの記事を見て、こうして集まったのだ。
「いいよ、別に......。なんでセロリなんだよ。......あー不安だ。まさかこんなすぐに目立つことになるとは。俺が、もっと身分を隠すように言っておけば......。いやぁ、でもそれは過干渉だし」
「呆れた男だ。氷の国には魔法新聞社もある。こうなるのはある程度予想がつくだろうが。それにタトリアのばあさんから全員無事だと連絡もきたし、不安なことなど何一つないだろうに」
(いや、ヴォルファさんの居間にあった新聞も読みすぎて死ぬほどくしゃくしゃになってたけどな。まあ、怒られるから黙っとくけど)
――シャキシャキ。
そんなことを心の中で呟きながら、ラビは、また一本と野菜スティックを口に咥える。快く響きわたる野菜の咀嚼の音。その音の中、ファルは、顔を上げて言葉を紡いだ。
「まぁ、そうだよな。過ぎたことだし後はタトリアさんに任せるしかないか。もうしばらくあそこで魔法の修行をするらしいしな。.........それより、お前だよ。ラビ。なんなんだ? 俺たちに言っておかなければならないことって」
「あー、もう俺の話す番でいいのか? ファルさん。今日は 3 時間ぐらいあんたの不安話を聞いてやるつもりだったんだが」
――シャキシャキ。
「いや、そうしたい気持ちはあるけど、ラビ、野菜スティックのペースいつもよりずっと早いぞ。もう 5 本目だ。.........いや別にたばこじゃないから何本でも構わないんだが」
「.........な、なんでそんな細かいとこ見てんだよ!」
「はっはっは! 何かあったら本数が増えるところはペガと変わらんなぁ、ラビ。.........まあ、わしにゃぁ、何かに頼らなきゃ落ち着かん奴らの気持ちなどわからんが。がっはっはっはっは」
「...............」
ラビは、彼の発言を聞き、眉をかすかに潜めながら、ゲラゲラと笑うヴォルファの方を見た。よく言う。あれほど旅の途中、酒に頼りきりでベロベロに酔っ払って、成人してない奴らに酒を勧めてきたくせに。そう、自分と、オルクに。
彼の頭に確かによぎる過去の旅の記憶。ラビはその記憶を振り切るように頭を振りながら、わずかに拳を握る力を強めて、言葉を発した。
「......まあ、じゃあ話す前にこれから言っとくぜ。......ファルさん、ヴァルファさん。あいつが、オルクが、本格的に動き出してる」
「...............?」
「ほう、あの若造がか。なぜわかる、ラビ」
「......あんたらやっぱ、自分の弟子に夢中で気づいてなかったんだな。その新聞にも普通に
書いてるよ。オルクが率いてる木の国が、雷の国に随分不平等な条件叩きつけたんだってな」
「..................!?」
ラビの言葉を受け、ファルとヴォルファは、ファルが手に持つ新聞を見て、ラビが言った記事を探した。すると確かに紙面の左下に双方の国に対して、印象が悪くならないような形で、淡々と木の国と雷の国が結んだ条約について書かれていた。
「軍事力の縮小に、木の国の魔法道具の関税撤廃。.........こんなの、事実上の支配じゃないか」
「ま、まあ、別にわしは気づいとったがな! ......にしてもあのオルクのやつ。一体なにをたくらんどるんだ」
「.........もう決まりだろ」
――シャキシャキシャキシャキ。
ラビは、手に持つ野菜スティックを一瞬にして食べ終わり、また新たな野菜スティックを
咥え出した。
「あいつは、魔法界を完全に掌握しようとしてるよ。......そして、でっかい何かをしでかそうとしてる。.........アサヒさんから今必死で積み上げてきてるこの平和を、崩しちまうような何かを」
「............まあ、これを見たらそう考えるしかないけどな。けれど、流石に俺たちがまだ動くことは」
「わかってるさ。ファルさん。.....神たちは、俺たち紅炎旅団が集まって神界に近づくことを恐れている。だからこそ獣界の警備に 3 人の五神獣がいるわけだしな。そんで、アサヒのことになると強情っぱりになる隼とアホみたいに怒りっぽい狼は神様にに嫌われてるときた。......でも、だったらよ。なにができるかってたら、もう一つしかないだろ」
「............まさか、お前」
「......ほう、なるほどな」
「あぁ、あんたらが今思ってることであってるよ」
ラビはその言葉と共に自身の咥えている野菜スティックを一度口から離した。そして、そのでの方向を真っ直ぐに魔法界の方向へと向け、言葉を、発する。
「俺は、行くぜ。魔法界に。あのバカを止めにな」
――風の国――
「あら、こんな夜中だというのに、あなたはまた月を見ていたんですか?」
170 ほどであろうか、随分と身長の高い気高さを伴った女性は、目の前の銀髪の少女に語りかける。銀髪の少女は、ぼーっと眺めていた満月から、その女性へと視線を向け、ふわふわと言葉をこぼす。
「ふわぁ〜、ごめんなさい。母様〜。でも〜今日はそんな気分で」
「まああなたが急にいなくなるのはもう慣れましたけどね。いい加減に少しずつ自覚を持ちなさい。あなたは、この風の国を治めるあの方に妻として迎えられるのよ。ひいては、この国を率いる立場になるんですよ。ちゃんとそれをわかっていますか?」
「う〜ん。わかってはいるんですけど〜。でも母様、今日の月はとても綺麗なんですよ〜」
「............全く」
母様と呼ばれたその女性は、深くため息をついた。こうなるとこの子は何を言っても聞きはしない。彼女はやれやれと言った様子で、ぽんと銀髪の少女の肩を叩くと、言葉を優しく紡ぐ。
「わかりました。気が済んだら戻ってきなさい。ただしあまり長居しないようにしなさいね。今日は冷えますから」
「は〜い、わかりました〜」
銀髪の少女は、のんびりとそんな返事をした。キビキビと歩きながら、自分の元を離れていく、母様。その彼女の背中から夜空の満月へと視線を移し、銀髪の少女は、小さく呟く。
「は〜あ、結婚か〜」
『大丈夫。約束するよ。必ず、僕は君を迎えにいく。.........だから、それまで、まってて』そんな彼女の頭によぎるのは、今まで生きてきて一度たりとも忘れたことのない、彼の姿だった。そう、幼い頃、自分をあの施設から救い出してくれた、この世界で出会った誰よりも心惹かれた、あの少年の姿。
「......も〜、いつきてくれるんですか?」
ゆっくりとゆっくりと、自らの手を満月へと伸ばす。手に届かぬものを、それでも確かに掴もうとでもするかのように。しかし、その手で掴めるのは、やはり虚ばかりで、銀髪の少女は。諦めたように腕を下ろして、言葉を紡いだ。
「.........早くしないと、私、誰かのものになっちゃいますよ〜。...........一度でいいからさ、会いにきてよ。......ねえ、――リューヤ」
――――To be continued
この章終わってなかったんだ!!と思って最終話書きました次の章は終わってるのでまたぼちぼち投稿していきます。まだブックマークしてくださってる方、たまに見に来てくれる方本当にありがとうございます!




