第二の紅炎旅団
「ただいま帰りましたー!」
ユニの元気な声と共に、サンたちはタトリアの家へと戻った。最初から帰る連絡を受けていたタトリアとヒツズは、彼らのことを温かい笑顔で迎える。
「なんだっぺあれだなぁ、行ってから随分かかったなぁ。大体1週間ぐらいか」
「なんにせよ良かったよ。みんな無事で戻って来れて、そこに座って待ってな。たーんとご飯を用意したから
そう言いながらぷかぷかといくつかの料理を浮遊させるタトリア。彼女の固有魔法「見えざる手」の効果だろう。ドタドタと食卓に豪勢な料理が並べられていく。そのように並ぶ料理に、ユニたちは声を上げた。
「うわぁ! ご馳走だ! やりましたね! サン! 氷の国でも色々いただきましたし、やっぱり一悶着あったら解決した方が得ですね!」
「あんまその言い方良くないと思うけどね、ユニ。でも、ヘスティア説得するのに結構エネルギー使ったから、すごくありがたいや。ありがと、タトリア婆さん」
「………こんなに。いいのかな、僕、何もできてないのに」
「別にいいだろ。そんなこと言ったらよ。俺だって少し、魔団の1人と戦った程度だぜ。他人の手柄が俺たちのところにもくる。それが仲間ってもんさ。今度出番がある時に、こいつらが楽できるように頑張ろうぜ、リューヤ」
「………仲間。……うん、そうだね、ありがと」
思い思いの言葉を発しながら、席に着く男子4人。そんな彼らの姿とタトリアが用意したご馳走を交互に見ながら、クラウはつぶやいた。
「うわぁ、本当に至れり尽くせりだね。私も何もできてないのに」
「…………クラウは頑張ったよ」
「いやでも、みんなを治したネクと比べたらさ。私だって結局あのストピナって人、リューヤの助けがなかったら追い払えなかったわけだし」
「…………ううん、クラウは頑張った。ちゃんと私は知ってる。ありがと、守ってくれて」
「…………ネク。……………こっちこそ、ありがと」
相変わらず自分にはもったいないほど優しい友達だ。クラウは、小さく心の中で呟く。きっと彼女は、自分がこの中で何もできないことを気にしているのなんて、見透かされているのだろう。
そんなことを考えながら、クラウもまた、サンたちの輪に加わろうとした時、ふいに自分の裾がネクによって掴まれた。
「………ねえ、クラウ」
「ん?」
不思議そうな表情を向け、彼女の方へと振り向くクラウ。するとそこには、ネクのひどく不安そうな表情があった。まるで、大切なものを失うことを恐れているかのような。
ネクは、振り向いたクラウの方へと真っ直ぐに視線を見据える。
「……ちゃんとさ、辛いこととかあったら教えてね。私、絶対聞くから。…………もう、一一人で全部抱え込もうとする人が、増えるのは嫌」
「………え?」
クラウは、ネクが言っている言葉の意味がわからずに、一瞬戸惑いを浮かべた。辛いこと、なんでそんなこと言うのだろう。そんなそぶりを自分は、一度として、ネクに見せただろうか。
『この能力を使いこなすために向き合うべきなのは、自分の強さじゃなく、弱さだ。』
(………ああ、そっか)
そこで、クラウの頭にシェドに黒魔法について聞いた時の言葉がよぎる。そうか。この子は知っているんだ。黒魔法がどのように発現されるものか。黒魔法を最も簡単に使いこなした『彼』の背中をずっと見てきた女の子だから。
だからこそ、自分のことを心配してくれるのだろう。きっと自分がこの黒魔法を使うときその感情が負の感情に支配されることを、たった今心配してくれているのだろう。
本当に、この子は自慢の友達だ。そして、その優しさと純粋さが、やっぱりほんの少しだけ、羨ましい。
「…‥ありがとう、ネク。大丈夫。ちゃんと頼るね。その時は」
「うん、約束」
「ちょっとちょっと! クラウ! ネク! 早くきてくださいよ! 今から大事な話始めるんですから!」
「………え?」
どうやら、クラウとネクが二人で話している間にそんな流れになっていたらしい。大事な話、なんだろうか。そんな疑問符を頭に浮かべながら、ネクとクラウは食卓の席へと腰掛けた。
「よーしじゃあサンもようやく起きたことですし、みんなで僕たちの名前決めましょ! 会議しましょ! 会議! 会議!」
「………名前? え? 何? そんな流れになってたの? 名前ってどういうこと? サン?」
「そうこの話しした時クラウはいなかったもんね。実は、みんな揃ったらさ、母さんたちの紅炎旅団みたいな感じで、俺たちの名前決めようってなってたんだ」
「どっかの誰かが、ずっと寝込んでたせいで今のタイミングになっちまったけどな。でも、名前ってったって、なんか候補あるのかよ、ユニ」
「もちろんですよ! あれにしましょ! バリバリバトル大好き団にしましょう! どこにいっても結局戦ってますし」
「……あー、えーと。……なるほど、たしかに毎回戦ってるもんね。流石、ユニだね」
「……やめてリューヤ。こんなセンスが底辺の名前、嘘でも受け入れちゃダメ。優しいだけが仲間じゃないんだよ」
「あれ? 僕今ネクに馬鹿にされました?」
「でもなぁ、名前ってったってなぁ。なんか自分でつけるの恥ずかしい気がしちゃうよなぁ」
「あらあら、あんたたち、もしかすると、まだあの新聞読んでないのかい?」
「え?」
一同が、タトリアの発言を受けて、一斉に彼女の方を向く。するといくつかの料理がやってくる中で、ひとつだけ、紙の束のようなものが運ばれているのに彼らは気づいた。
「今朝届いた新聞さね。今朝見た時は、驚いたもんだよ。なぁ、ヒツズ」
「ほんとだベェ!オラたちのもとを離れた間に、すっかりヒーローになっちまって」
「ヒーロー?」
そう言って首を傾げるサンの元へ、透明な手が新聞を届けてくれる。サンはそれを両手で受け取って開く。するとユニたちが、それを覗き込むように席を立った。字を読むのは慣れている。サンは、すっと新聞の大見出しに滑らせてそれを読み上げる。
「え〜どれどれ。『謎の獣人集団、氷の国を救う!? 第二の紅炎旅団再来か?』これは、多分俺たちのことだよね?」
「あー随分とでかく取り上げられたもんだな。サン、もう少し読んでみろよ」
「わかった」
―――
謎の獣人集団、氷の国を救う!? 第二の紅炎旅団再来か!!
XX年X月、皆様は氷の国の主要ギルド「白銀の氷雪団」に大きな事件が起こったことをご存知だろうか。そう魔法界を騒がせている、例の組織『黒の魔団』が攻撃を仕掛けてきたのだ。記者もその様子を目にしたが、謎の土人形に、何かの薬によって暴れ出す団員と、中は散々な有様だった。
しかし、その『黒の魔団』を容易く追い払ってしまったのが、この謎の獣人集団だったのだ。彼らについて、氷雪団の副団長シルヴァ氏はこう語る。
「彼らは本当に素晴らしき方々でした。ほぼ全員が黒の魔団と同等か、それ以上の実力を持っていました。しかも黒の魔団が蔓延させた団員たちの謎の病も、たちどころに治してしまったのです」
興奮した様子で彼らの活躍を称えるシルヴァ氏。ところでシルヴァ氏に獣人集団といえば、読者の皆様もどうしても一つのことを想起せざるを得ないだろう。
そう、あの『白樫の狩人』を討伐した伝説の集団『紅炎旅団』だ。いくつかの文献が残っているが、今では団のメンバーのほとんどが所在不明となっている。
そこで記者は、思い切って彼らと紅炎旅団の関係にシルヴァ氏に踏み入ってみた。
「その獣人集団の活躍ぶりはすごかったんですね。ところで、獣人集団といえば、誰もがかつての紅炎旅団を思い浮かべると思います。シルヴァ氏は、その謎の獣人集団と紅炎旅団の関係について何かご存知ですか?」
「そうですね。彼らと紅炎旅団の詳しい関係は私には分かりませんでした。ただ、確かなことは、彼らが確かに『紅炎旅団』と同じ、確かな強さを持っていると言うことです」
記者は思わず尋ねる。
「確かな強さ、ですか?」
「ええ、ヒヤラ団長とも話したのです。彼らは愚直なまでに真っ直ぐな、真性の正義をその胸に掲げ、それを焔のごとく周囲に伝播させていく力があると。かの『紅炎旅団』は名前の通り、その太陽のような煌めきで魔法界の未来を照らしてくれました。しかし、彼らも負けておりませんでした。だからこそ、ヒヤラ団長と勝手ながら決めさせてもらったのです。彼らの功績を我々が高らかに伝えさせてもらおうと。そう、真実の焔を持つ若者のギルド。彼ら真焔旅団のことを」
「真焔旅団ですか?」
「ええ、粋な名前でしょう。いつまでも謎の集団では変に怪しまれてしまいますからね。まあ彼らが違う名前を名乗るまでですが」
「…………いえ、彼らにぴったりかと思います」
こうしてシルヴァ氏へのインタビューは幕を下ろした。今後も本新聞社は、その謎の獣人集団を、追っていこうと思う。そう、氷の国の危機を救い、紅炎旅団にも届きうる英雄性を持った、かの英雄たち『真焔旅団』のことを。
取材.魔法新聞社記者アイシス
ーーー
「ちょっとなにこれ。シルヴァさんとヒヤラさん! こんな取材受けてたの!? しかも、この記事書いた人ってあの人だよね、ネク……」
「……うん。アイシスさんだよね、確かにライターやってるって言ってた」
「え! すごいですね! 僕たち英雄ですって! 英雄! うわぁ、すてきな響きですね! どうします? リューヤ。明日からインタビュー攻めばかりされたりしたら」
「……え、僕答えられるかな。急に来られても喋れなそう」
「大丈夫ですよ! 僕がついててあげますから! 二人でちゃんと練習しときましょうね」
「別に顔もなにも出されてないからそんなことにはなんねぇよ。……まあ少しこの持ち上げ方は、シルヴァが記者の注目を俺らに向けさせた感があるけどな。団長の暴走から民衆の目を逸らすために」
「けれど、紅炎旅団との関係とか、顔とかは伏せてくれてる。きっと白樫の狩人の残党とかがいても恨みを買わないよう計らってくれたんだ。これくらいなら俺は別にいいよ。ヒヤラの暴走がバレちゃう事の方が国の危機だろうし。………でも、それよりさぁ」
「なに、どうしたの? サン?」
じっと何かを睨み付けるようにするサンに対し、クラウはそう尋ねた。サンはしばらくそうしていたあと、小さく呟く。
「めちゃめちゃいいね。真焔旅団」
「…………え?」
一同がサンの言葉にそう言ったあと、シェドが続ける。
「いや、いいのか? 人がつけた名前だぞ。それに、ほぼ紅炎旅団のお下がりみたいなものだし」
「いや! これがいい! しっくりくる! もうこれ以外考えられないような気がする」
「おお、珍しいな。みんなの意見聞く前にお前がそんな感じになるの」
別に自分はこだわりがないからなんでもいいんだが。そんなことを考えながら、シェドは、他のメンバーたちの顔を覗き見る。
「サンが言うなら、絶対それだよ! 私もそれがいいと思ってた!」
「……まあユニよりはいいからそれでいいと思う」
「ちょっと! さりげなくしゅんとさせるのやめてくださいよ! ネク! でも音がかっこいいしいいんじゃないですかね?」
「……まあ、僕も特には」
「じゃあこうしよ! 真焔旅団! これが俺たちの名前で! 決定!!」
おそらく母への憧れが強いから、その名前にしたかったのだろう。タトリアはサンを見てそんなことを思った。ただしかし、同時に彼女の頭へ、わずかな不安がよぎる。これほど、大きく記事として取り上げられてしまったことは、おそらく、今魔法界にいるかつてアサヒたちと行動を共にしていた「彼」の耳にも入ってくる。そして、その彼の名前は、今サンが持っている新聞にもわずかに掲載されていた。
(この子たちがアサヒたちを目指していくと言うのなら、もう少し、鍛えてあげないといけないね。『彼』とさえも戦えるように………とはいえ)
「まあまあ、とりあえずそれを読むのはそこまでにしな。長旅で疲れたろう。いまはたーんとおやすみ」
「わかった! ありがとう! タトリアさん!」
そう言って、新聞を起き、食卓に並ぶ食事を食べていくサンたち。その顔は、やはりまだ大人の階段を駆け上がっていく少年少女たちそのもので、タトリアは、その様子を優しく微笑みながら、見守るのだった。




