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なんせ僕には


「うわぁ! つっかれたぁ!!」


 コクリオは、黒渦から黒の魔団のアジトに着くと、そう言葉を発し、部屋にあるソファーに飛び込むように座り込んだ。そんな様子を見て、後から出てきたトアンが、小言を発する。


「おい、団に戻ったらまず手洗いうがいだろ。それと、ソファーに飛び込むな。バネが壊れる」


「うるっさいなぁ! あのねぇ! 僕は君と違って2人の人とちゃんと戦ってきたの! もうクッタクタなわけ! ろくに戦わず逃げてきただけの君が、指図しないでくれる?」


「な、貴様! 俺が引き際を誤らなかったから、こうしてお前ら2人を無事に返せたんだろうが! もう一度、あのユニコーンのところに貴様を転送してやろうか!」


「な! なんだよ! その言い方! それだったら僕があいつのことまるで敵として苦手みたいじゃないか」


「別に間違いではないだろう!?」


「なんだとう!!」


「ほんとうるっさいねぇ! あんたたちは! 少しは静かにできないのかい? なんで仕事終わったばっかだってのにそんなに元気なのさ」


 そう言って2人を怒鳴りつけるのは、苛立った様子のストピナである。コクリオとトアンはそのあまりの声量に、即座に沈黙した。


「ははははは」


 その様子を見ていたのか、1人の男が、笑い声を響かせながらゆっくりと影の中から現れる。団員にはすっかり見慣れた白い仮面。体中に纏われた鈴の音色のような柔らかなオーラ。そう紛れもなく、彼らの、そして黒の魔団の団長だった。 


「3人ともお疲れ様。全員流石の働きぶりだったね。お陰でいいデータが取れたよ」


 パチパチと手を叩きながら近づいてくる団長。特に圧力や緊張感などがあるわけでもない。しかしそれにもかかわらず、彼の声が聞こえてきてから、コクリオとトアンはぴたりと喧嘩をやめていた。


 ストピナは、そんな2人に目を配りながらも、団長に対して声をかける。 


「こんな働きでも喜んでくれるなら嬉しいよ。それで、エタナはどうしたんだい?」


「エタナは、向こうのハデスからもらった回復装置で休んでる。少し痛い目にあって取り乱したみたいだからね。まあでも、大事には至らなくてよかった」


 すると、一度大きく伸びをしながら、コクリオの隣のソファに腰掛けた。少しだけ体を動かし落ち着かない様子の団長。トアンはそんな様子を見て、彼に声をかける。 


「珍しいな」 


「ん? 何がだい?」


「普段は戦いの後は、それほど機嫌は良くないだろ。何かあったのか」


「えーそうかなぁ」


「あーわかった! 団長あれでしょ! またあいつのこと考えてたんでしょ。えーと、あのフェニックスの、サン、だっけ?」


「おー流石コクリオ。なんでも僕のことはお見通しだね」


 弾んだ声でコクリオに言葉を返しながら、団長は、自身の仮面に手を当てた。その白い仮面の下から、何やらただならぬオーラを纏う魔力のようなものが、微かに漏れ出ている。団長は、それに蓋をするように自身の仮面を持つ手に力を入れながら、続けた。


「ふふ、ふふふふふ。いやぁ、いいよやはり彼は。今日も見ていたけど、やはり彼はすごい。いやそうだよ。そうでなくちゃ、僕が本気でぶつかる意味がなくなっちゃう」


「………相変わらずだねー団長は。まあ凄そうなやつだってのはなんとなく今日会ってわかったけどさ」


 コクリオは自分から話を振ったのにも関わらず、のんびりと寝転んだ。そんなコクリオをチラリと一瞥しながら、一歩団長の方へと進み出て、ストピナが言葉を紡ぐ。 


「別に誰かにご執心なのはいいけどね。なあ団長、私はね、あんたに一つ言いたいことがあるんだよ」


「ん? なんだいストピナ」


「………あんた、エタナを助ける時、随分と無理して移動したね」


「あ」


 おそらく彼の仮面の下の口はポッカリと滑稽に開いていることだろう。団長は、しばらく静止したのち、あー、えー、と声を漏らした。なんて言葉を返したものか戸惑っているようだ。団長は、少しだけ首を傾げ顔の方向をストピナの方へと向ける。そして仮面の下に笑顔を浮かべて言った。


「流石ストピナ、よくわかったね。なんでも僕のことはお見通し」


「ふざけるんじゃないよ!!」


――バン!!


 ストピナが、思い切り自身の右側にあった机を叩いた。そこから真っ直ぐに団長へと視線を見据え、彼女は言葉を発する。


「なぁ、団長。いや、ソラ! 私は、今から団員としてじゃなく友達として言葉を紡がせてもらうよ。あんた約束したよね! 1ヶ月後の作戦決行期間まで無理はしないって! なのに! なんでそんな簡単な約束も守れないんだい!」


 強く強く自身の拳を握りしめるストピナ。そこには間違いなく、怒り、よりも強いなんらかの感情が乗っかっていた。ソラと呼ばれた青年は、仮面の下で小さな微笑みを浮かべる。その表情のまま、優しくストピナへと言葉を返した。


「………ごめんね。ストピナ。……でも、そうしないべきだったとは思わない。だって少しでも早く僕は、エタナのところへ駆けつけたかったんだから」


「……だから、あんたはそうやっていつも無茶ばかりして」 


「大丈夫だよ。ストピナ。理想の世界を作るために、そして、君たちのためにも、僕は最後まで戦い続けるさ。約束する」


「………………」


 最後、その言葉を聞いて、ストピナはわずかに顔を顰めた。そんな言葉をソラの口から聞きたいわけではなかったのだろう。彼女は踵を返すように、彼に背を向けながら、小さく呟く。


「…‥………別にさ、私たちのことは、どうだっていいんだっての」


 そのまま、アジトの自室へとストピナはゆっくりと歩いていく。そんな彼女の背を見ながら、コクリオとトアンが、呆れたような声色でソラへと続けた。


「あーあ、またストピナ怒っちゃった。勘弁してね団長。機嫌とるの僕たちなんだから。じゃ、僕は部屋に戻るね」


「全くだ。仲間思いなのは結構なことだが、少しはストピナの言葉も聞いてやってくれ」


 ソファに立ち上がり進むコクリオとそれに追随してのんびりと歩みを進めるトアン。遠くの廊下で2人がまた言い合いをしている声が聞こえる。そんな2人の表情を思い浮かべながら、ソラは、ソファに思い切り寄りかかり上を向いた。


(……そりゃ僕だって、彼女を怒らせたくはないけどさ)


 ――ゴホッ! ゴホッ!


 仮面の下で二度大きな咳をする。その後ソラは、表情を顰めた。あーあ、これはまた汚れちゃったな。彼はゆっくりと仮面を外し、その裏面を見る。その仮面の口元には、たった今彼が吐き出した真っ赤な血がべっとりと塗りついていた。


「………………」


ソラはそれと眺め小さな笑みを浮かべながら、心の中で呟く。


(……うん。やっぱりもう少し頑張らせてもらうよ。なんせ僕には、時間がないからね)


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