115.ユタルへ向けて再び出発
前回更新スキップしてしまいました……。更新待っていてくださった皆様、申し訳ありません!
ロイとトムとの引き継ぎは数日かかった。トニーさんたちとの顔合わせもあったしね。
そこから更に暫く後。
私はまたユタル神殿へ同行することになった。
具体的にメインメンバーを挙げると、紫音、マーク、私、トム。名前を知らないフェイファーのお偉いさんも紫音の付き添い兼護衛で一緒に来ている。
そして勿論、前回と同様、専門職の護衛さんが二重で付いている。
今回も紫音は馬に乗りたがったんだけど、デイ森でのエリアボス出現の話を持ち出されて、私と一緒の馬車になることが決まった。ちなみにマークも別の馬車に大量の荷物と共に乗っている。
荷物の大半は向こうで必要な生活物資。
紫音とマークはユタルにしばらく泊まり込みになるのだ。
馬車の中はやっぱり他愛ないお喋りの時間になる。
「シヴァもハーミッドもメーヴ城なんだね?」
「仕方ないよ、シヴァはフェイファーに関する仕事をしなきゃなんないし。ハーミッドさんはマーカスさんの代理でしょ。
片道半日かからない距離なんだから、そんなに気にならないよ」
それよりも、と紫音は私を心配そうに覗き込む。
「あたしも遠恋の経験はあんまりないから、アドバイスらしいアドバイスもできないし。話聞くくらいならできるけどさ」
「遠距離恋愛って、命の心配をするものじゃないでしょ」
「普通はそうかもだけど。でも、頻繁に顔を合わせられないとか、見えないところでどうしているかって気になるとか、そういうのは一緒じゃない?」
「そう、なのかな」
ロイは昨日、主人公パーティーとして首都へ向けて出発した。
そうか、遠距離恋愛とも言えるのか。心配が先に立ってそういう印象がなかった。
今回はシャイニー様に会いに行くラルドたちの付き添い&技取得のための連携強化という意味合いが強く、命の心配はまだマシなのだけれど……それでもやっぱり徐々に魔物が強くなっているし、送り出すのに動揺はあった。
あったけれど、それでも少しは前よりも吹っ切れたように思う。
ゲームとは道が外れたけれど、ロイたちを信じる。
ここに来た当初、彼らの命は大丈夫だと分かっていた。ゲームの情報を根拠としていたから。
だったら、今回だって大丈夫だ。ゲームの情報を全員に伝えてあるし、ロイ本人には細かい部分まで叩き込んだし、それにこの辺りでゲームオーバーになる可能性は低いから。
正念場は、戦争ターンとエリアボス、邪神。そこで私は、どうやってロイを守るか。
守る手段が多ければ多い程、ロイが生き残れる確率が増えるし、私の心配は減る。
……減る、かなぁ。減らないかも。
いや、心配であろうと、やれるだけやってから送り出すのと、悔いを残したまま送り出すのとでは、心持ちが違うはず。
完全に覚悟を決めるにはもう少し時間が欲しいけれど、せっかくロイが「手を出さずに見ていてやるから自由にやってみろ(意訳)」って言ってくれたんだもの。
ここ暫く、聖水の文献を漁っているけれど、なかなか見つからない。
そもそもアンデッド系の魔物が出てくるのは邪神の復活直前かららしく、そうなると近いものでも300年前、それより前を含めても文献量は多くない。
逆に、その辺りを重点的に調べればいいとも言える。
比較検証をするよりも探し物をする方が、作業としては単純。エリオ君やトムとも手分けしやすいけれど、それでも行き当たらない。
かといって、この仮定を手放すのは駄目だと感じる。それなら神様に聞いてしまうか、となった。先日紫音が言った「聞けば分かるなら聞いちゃえ」に乗っかった形だ。
申し訳ない。
限られた時間の中で神から情報を引き出すために、質問には優先順位がある。
会議で議題になった、邪神と戦うことができる人数制限について。
ゲームでは邪神の弱点の表記はなかったけれど、実際にはどうなっているのか。
それぞれの邪神の具体的な情報は。などなど。
全員が知りたい、知らないと策を立てられない情報は、真っ先に引き出して城へ送られる。
そういう質問をこなしていって、次に、私からの質問をお願いする。
魔除けの香の中身は。製作者は。
アンデッドに効果のあるアイテムは。聖水という存在はこの世界に存在するのか。
アイテムを敵に使うというシステムはゲームになかったけれど、実際に使ったらどうなるか。
エリアボスに効くアイテムは、邪神にも効くのか。
邪神への攻撃方法にも繋がるから、優先順位は少し高めになった。それでも単なる勘に貴重な時間を使っていいのか。まだ悩ましい。
とにかく私はそういう訳で、メーヴでの仕事を少しお休みして、ユタルへ向かっている。
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頭を振って気分を入れ替え、隣の席に鞄を広げる。この鞄にはオイル系の仕事を詰めてきている。
「いくつか試作品貰ってきたよ。だいたい最終段階だって」
何本かの小瓶とチューブ容器を取り出す。
イランイランやフランジパニを「聖女の選んだ香り」として売り出す関係で、紫音も少しだけ関わっている。
ただこれは確認のお願いというより、試験販売直前のサンプルをプレゼントかな。もちろん意見があれば言ってもらうけれど。
「うわー、ジェルだけじゃなくてオイルもくれるのー?」
「ほら、泊まり込みだって聞いたから。少しでもリラックスできればいいなって」
そもそもこのアイテムのコンセプトは、手軽にリラックス&リフレッシュ、なのだ。
ダイエット効果だとか肌荒れ防止効果だとか、そういう付随したものがあれば嬉しいけれど、それがなくとも製品にはできると判断された。効果があるようなら後から口コミで広めていくらしい。ソニア様が何か企んでいるような……もとい、考えているような顔をしていた。
ソニア様の考えはともかく、この品の出発点はQOLの向上。ならば長期出張には最適のお供だと言える!
ま、御託はともかく。
「今は紫音に一番負荷がかかってるでしょ。話をするだけって笑ってるけど、どれだけ情報を引き出せるかで先が変わる」
厳しいことを言っているように聞こえるかと少し心配したけれど、紫音は「そうだねぇ」と困ったように笑ってから手を振った。
「でもさ、聖女になった時点で大変な仕事だっていうのは分かってたから。むしろ邪神を見ずに済むなんてラッキー、みたいな? ……あ、こんなセリフ、皆には内緒ね」
今度は紫音が荷物をゴソゴソ漁って、甘い香りのする包みを取り出す。
「ぶっちゃけ、聖女を分業制にしたのは正しかったと思うの。
エマちゃんは今、実際に魔物と戦って訓練してるでしょ? あたしは神殿でアドバイス貰うでしょ? 美和ちゃんは疑似体験した戦いをチェックしてるでしょ? それぞれ大変でしょ?
前の聖女さん、そりゃ倒れちゃうよ。責任重大だし」
はいどうぞ、と差し出された器を二度見する。
まさかプリンが出てくるとは思わなかった。
「こういう非常事態の時って、恨みを抱える人もたくさんいるよね。
どうして今なんだ、どうして他の時代じゃなかったんだ、どうして自分たちが巻き込まれなきゃならないんだ」
紫音の話を黙って聞く。スプーンがないからプリンも食べられない。
「文句って上に上に行くよね。最後に行き着く先は神様だろうけど、神様なんて実体ないし、殴るに殴れない。だから、実際の文句は契約者と聖女に行く」
指でヒョイヒョイと階段を描きつつ、話は続く。
「今回恨まれる先は、あたしたち三人とラルド君。一蓮托生だぞー」
だからね、と紫音は笑う。
「皆で力を合わせようね。三人がかりでやるんだよ。
いい? 三人がかりだよ?」
念押しが何を意味するのか分からなくて、首を傾げる。
「美和ちゃんってば、やっぱり皆を頼らないんだから。どうして一人でロイさんの心配するだけなのかなぁ」
いや、ロイの心配だけをしているわけじゃ……。って、紫音の言いたいことは多分それじゃない。
「美和ちゃんがロイさんの心配をしてるのと同じようにさ、あたしはシヴァの心配してるし、エマちゃんはラルド君の心配してるし、ソニア様はレオナルド様の心配してるし。そういう人ってたくさんいるよね。
だから、大事な人を助けるために自分ができることがあるって、ある意味ラッキーだと思うの。そんな人が集まってるんだから、助け合い精神でいけばいいのよー」
「助け合い精神……」
「遠慮しないであたしを使ってよ。遠恋の愚痴聞き役くらいは役に立つし、聖女シオンはきっともっと役に立つよ」
甘えとは違う、自分で立っていてもいい、ただ頼って、頼られる。
仕事を一人で抱え込まなくてもいい。責任を一人で取らなくてもいい。
きっとロイは、私を守るために人を頼ることはしたくないんだと思う。だから悩んでいた。
私は、申し訳ないけれど、そこまでの気概はない。望むことはただ一つ、ロイが無事に戻ってくること。そのためなら何でも使う。
守ってくれる人を守るために、私は他人の手だって借りよう。




