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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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113.書庫を探す



 さっきサッシュさんが鳩に持たせた手紙は「少量で良いから今すぐに水をくれ」という注文だったらしい。窓の外に大きなサギが降り立った。首から瓶を提げている。


「何と便利な」


 私の呟きにサッシュさんが心なしか得意げに笑う。


「普通は書簡の行き来のみですが、私の相棒たちは特別です。グリフォンは人を乗せることもありますよ」


 大体どこの都市にも一人は鳥使いがいるらしい。緊急の要件はそれで伝えられる。

 で、送り届けた鳥がそのまま戻ってくるのだけれど、サッシュさんの場合は別の鳥にチェンジできるとか。今回は鳩とサギ。何そのチート。


「ともあれ、この水をいくつかに分けておきましょうか。出番はもうすぐですから」


 手早く作業していたサッシュさんの後ろでドアが開いた。


「ったく、薬師に何てことさせるんすか……」


 トニーさんが髪の毛をくしゃくしゃにして立っていた。案外無事に見える。


「たまには日の光を浴びといで」

「最近は外出してますって!」


 澄ました顔で紅茶を飲む先生の横に、防刃ジャケットを畳んで置くトニーさん。


「こらトニー、まだ仕舞うには早いよ」


 ピキ、と固まったトニーさんの肩が後ろから叩かれる。


「南の方で目撃されたというスケルトン二体に、水と消毒液をそれぞれかけてみてください。馬を借りていった方が良いかと」

「お前ら鬼だろ」


 ココさんすら苦笑いで手を振っているのを見て、トニーさんは肩を落としてジャケットを手に取った。




 トニーさんは「ゼラニウム抽出物は魔物に効果あり」の一言を残して再び医務室を出て行った。

 髪がくちゃくちゃだったのは、敵の間近に寄ってエッセンスをかけたかららしい。瓶を投げつけるよりも効果確認は確実だけれど、なかなかに無茶をしたんだね。

 とにかく、これでまずは一つ。


 私はさっきから考えていることがある。

 今回の一連のアイテムが『アンデッド』に効くのであれば、それはそのまま邪神へも適用できるんじゃないか。

 なんと言っても、神自身が「邪神は神のアンデッドのようなもの」と明言している。そして外殻を剥がすための聖女の魔術は『浄化』。清浄に、清潔に、そして神聖に、ってことだ。

 浄化に類する攻撃なら、普通の物理・魔術攻撃よりも効果的なのではないだろうか。回避が多くて防御力の高いヴァンパイアが、足をかけただけで消えた程だ。


 アイテムとしての聖水は存在しないし、そもそもブルフィアでは装備アイテムを攻撃に使うことはなかった。

 現実では、装備アイテムを攻撃にも使えるかもしれない。であれば、今回効果の出たアイテムを装備していってもらう手もあるんじゃ、と考えているのだ。

 私の夢で、何かを投げつける描写になっていた先の戦いのシャイニー様。あれは私の夢でしかないけれど、本当に投げつけて攻撃できるなら試してみたい。

 ゼラニウム、聖水、消毒液。

 エッセンスも含めると全部液体だ。投げつけるには、何かの容器に入れてぶつけて、水風船みたいに弾けさせる。他には……。


 あ、そういえば。


「アガーに含ませた状態で効果あるかどうかも見なきゃ駄目でしたね。どうにかして敵に投げつけたいと考えているんですけど」


 私の言葉に、しまったとでも言わんばかりに眉を寄せたサッシュさん。またトニーさんを使いっ走りにするつもりだったのか。


「それなら」


 先生がカップにお代わりを注ぎながら口を開いた。


「もっと持ち運びしやすいものに浸してみたらどうだい。例えばスポンジとか。あと、そうだね」


 ぽーいと何かを投げて寄越された。バゲットだ。


「あー、もう、先生! またパン屑落ちちゃうじゃないですか!」

「診察室じゃないんだ、別にこれくらい良いだろ」

「駄目です!」


 やいのやいのと先生とココさんがやり合っている中、サッシュさんが顎に手を当てる。


「試験項目が増えましたが、見ておく価値はありそうですね。ミワさんの想定通りに投げつける目的なら、多孔質で多少の重みがあった方が使いやすい」


 スポンジよりはフランスパン?

 頷いたトニーさんは、先生がくれたパンを厚く切ってから液に浸し始める。

 給湯室からラップを拝借してきて丁寧に包んでから、窓際へ。

 口笛に応じて降りてきたタカに、二種類のパンと手紙を持たせて空へと帰す。


「もしやあの手紙と荷物の行き先は」

「ええ、トニーです」


 やっぱり。




 ******




 ひとしきり試験項目を洗い出した後、サッシュさんと別れて奥の書庫へやってきた。ソニア様には許可を取っているよ。

 今調べたいのは二点。魔除けの香についてと、聖水について。どちらも魔物関係だから、その棚のタイトルを一冊ずつ見ていく。

 そういえばここは、ブルサンで主人公五人組が入った書庫だ。ゲームではここで古い記録を見つけて、300年前の邪神戦の情報を得ることができる。

 興味が出て、その記録も一緒に探すことにする。


「お、あった」


 古文書のような感じを想像していたけれど、黄ばんで香りの変わった一昔前の本、といった風情のものだ。

 日本で300年前っていったら江戸時代? テレビで見たことのある当時の本って、和紙で紐綴じに墨書き、時代を感じさせるものだったけれど。


 変なところで進んでいて、変なところで遅れている文明。科学技術の代わりに魔術があって、食文化が発展していて、洋服は種類が多くて現代日本と似通っていて。

 ……双方に情報が滲み出ているって言ってたっけ。文化の一部は日本から滲んだのだろうか。こちらから日本に滲んだのがゲームのストーリーだけなのは寂しい。もしかしたら、もっと他にも滲み出ていたものがあったかもしれないね。


 本を手に取っただけで微妙な感傷に浸ってしまったけれど、気を取り直して中を見る。

 まだ流暢とは言えないリーディングだけれども、ゲームの知識があるからかスルスル読める。正しくは何となく意訳で把握をしながら流し読みしている。

 ゲームでの回想シーン、二つに分かれた邪神の話まで進んだ。……まだ少しだけ続きがある。

 後書きは、短いものだった。


 ――クルスト王家の血は眠らせた。ただ一人、これが最後だ。

 信頼の置ける四家に後を託す。ここに記した戦いの記録が万が一にも紛失した時のために、ジルベルトへ術を施す。クルストが眠る祠や神殿への脅威を蹴散らすために、ウォーカーに力を与える。子孫繁栄が難しいデイのエルフには、守りを与える。全てを纏め隙を作らせぬための目を、コールマンに与える。

 これが今の私の全力だ。

 至らなかった私を憎んでも構わないが、未来の希望だけは消さないでほしい。

 四家と残された血が、その時まで安らかでありますよう。


 その後に著者のサインが入っていた。予想通り、シャイニー様。

 レオナルド様はこれを読んでいたから、邪神の話を最初から把握していたんだ。ゲームで城奥の書庫から記録が見つかった時点で、それに気付かないと駄目だったんだね。


 もう一つ気付く。

 この本では一言も、フェイファー家を責めていない。事実としてクーデターの話は書いてあるけれど、理由を出していない。だからゲーム内でも描かれていなかったし、マリクさんも知らなかった。

 けれど、当時のフェイファー家はそこまで文句を言いたくなる人たちではないように思えてくる。シャイニー様直筆のこの本を読んだら、完全な悪人にしてしまうのに違和感があるのだ。


 神からの話では、王家とフェイファー家の双方に瑕疵があったという。王家は理由が何であれ聖女を秘匿してしまった。フェイファー家は聖女がパニックになっているとも知らずに新たな役割を申し出てしまった。

 邪神の脅威が迫る中でクーデターという力業を選んだフェイファー家は決して褒められない。しかし、聖女に全てを託すというのは、神からの遣いに誰よりも期待をしていたとも取れる。だから戦後のフェイファーは『神聖国』として神への忠義を選んだ。


 ……あ。クーデターの理由、何となくこんな感じだったのかな、って思い付いた。

 フェイファー家は、神話通りの「契約者と聖女、()()()協力」が必要だという事実を知らなかった。だから、契約者という存在のみが必要なのであれば、神の選ぶ聖女に全てを任せたいと考えた。しかもその聖女は今この時に合わせて神が選んだ、いわば()()()神の使者だ。

 聖女に役目を渡さないのであれば、契約者の血筋は比較的自由に婚姻を結べる家で増やしていくべきではないのか。ストックはあればあるだけ安心だ。王家という柵があるから問題なのであれば、国の制度を一度崩壊させてはどうなのか。


 本の並ぶ書架へと目を移し、大きく深呼吸をする。

 ただの妄想だ。クーデターはやっぱり良くない。力で訴える前にやることがあったはず。

 私には王家の在り方なんて分からないし、そんな人間が想像できることなんて限りがある。だから妄想。


 私、そしてシヴァも、聖女の紫音一人に全てを押し付けようとするフェイファー皇室の方針が気にくわなかった。それは、聖女はフェイファーにあるべきという思想が皇室にあり、その上更に聖女を政治の道具に使おうとしていたから、というのもある。

 当時のフェイファーもこれと同じだったかもしれない。それは誰にも――もしかしたら当時を知っているシャイニー様ですら――分からない。




 何であれ。

 私たちは邪神を斃さなきゃならないし、そのためには現フェイファー皇室を何とかしないといけない。

 パタンとわざと音を立てて本を閉じ、いくつか選んだ本と一緒に抱えて部屋を出た。




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