109.石橋を叩いて渡る
城でお留守番しない限り、レベルアップには励むべき。レベルの話はとりあえずここでおしまい。
次に考えるのは、ロイがアルバーノ封じ込め組に入るなら、あるいは邪神戦に加わるなら、という二パターンの未来。
アルバーノ組に入るなら絶対に抑えておかなければならないイベントがある。
過激派神官たちによる市内破壊だ。合併を歓迎する空気はよろしくないと民間人同士での衝突を誘い、わざと暴動を起こさせ、それを制していくことで市中の資金をかき集めていく。典型的なマッチポンプ。
暴動が起こるまでは神官たちは目立った動きをしないから捕まえることはできないし、騒動は完全に市の中で完結してしまっているから外から封鎖しても起こり得る。
そしてこのイベントの厄介な部分は、元凶の神官を殴って黙らせた後、崩れゆく市街からの脱出が起こることだ。ブルフィアシリーズでは珍しく時間制限付きのイベント。
私レベルになると簡単に抜けられるんだけれど、フェイファーで起こるイベントの中では一番ゲームオーバーに近いものだと思う。
「一番いいのはこのイベントが発生しないことなんだよね」
面倒だから色々端折って考えるけれど、ABCの順で起こるストーリーがあるとする。暴動イベントはB。
Bを起こすためにはAが必要だから、Aを潰しておけばOK。
ただ、その先のCのイベントは起こしたいのであれば、ちょっと考えなければならない。Bの代わりにB‘ってイベントを作り、Cへの軌道修正を図るとかね。
Cのイベントも必要ないなら、どうにかしてAかBのイベントを潰せばOK。
今回の暴動の場合、その先にあるCは、ザックリ言うと過激派神官の結託と戦争イベント。これは回避したいストーリーだから、Bの暴動イベントは潰しても問題なさそう。というより積極的に潰したい。
で、Bのイベントを潰すためには……。
「Aに当たるフラグがいくつかあるんだよね。
シヴァが敗れて皇室が解体されたこと。
合併の話し合いが持たれたこと。
エマちゃんたちが各地の神殿を回って話をしていくこと。つまり邪神についての情報が徐々に神官たちに出回り、民の不安を煽っていると過激派が主張すること」
「今回は全部解消されているよな?」
そうなんだよね。シヴァたちは生きているし、合併はしないし、邪神についての情報はシヴァから通達されているから『エマちゃんたちによって扇動されている』という主張は使えない。
パン屋さんのイベントの時と同じく、背景ががらりと変わっている。
だから怖いのが、
「Aが何もなくても、A‘が発生しているかもしれない」
「どうあれBが起こるってことか」
そう、それを警戒しないとダメ。
「まずは起きてしまったと想定して、ロイには脱出経路を完璧に頭に入れてもらう。時間ごとに変わっていく街並みだけど、それまで含めて全部」
ロイの動きが止まった。
「やってやろうじゃねぇか」
ロイって頭いいし、多分すぐに覚えられると思う。
「でもね、さっきも言ったけど、Bが起こらないことが一番」
「どうする」
「マークは色々考えてると思うけど、私でも思い付く解決策があるんだ」
今度は私から身体を揺らす。
「市の一般人を、封鎖前にこっちに連れてきちゃう」
「……そりゃまた大胆な話だな」
「名目はあるんだよ。
あの市は商業が盛んで経済的にだいぶ潤っている」
だからマッチポンプで資金を巻き上げられたんだ。
「で、新しい商売に敏感」
「ははぁ。オイルか」
今はソニア様が全ての元締めになっている。製作も販売も、ビエスタもフェイファーも。
「製法を公開するまでは行かないだろうけれど、原料調達に人手は欲しいんじゃないかな。それなら外交に制限のあるフェイファーよりも、ラヴィソフィに来てもらった方が取引が進むはず。
私はオイルの話も担当している軍人だからね。ソニア様に直談判することも可能かなーと」
握り拳を作ったら、髪の毛を指で梳かれた。
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邪神戦を考えてみる。
一番大事な話だから、角度を変えて様々な報告を出してある。適正レベル以外にも、邪神のステータスだとか行動パターンだとか。
「シオンの報告だと、邪神の外殻に当たる部分を攻撃で削って、エマの浄化で真っ裸にして、最終的にラルドがとどめを刺す、だよな」
最新情報を復習して、私を抱え直したロイが唸る。
「俺たちはラルドとエマを守って、周りの魔物を優先的に蹴散らす。
だが、邪神の外殻をさっさと取っ払う方が時間が短く済むんだから、ラルドだけじゃなく俺たちも攻撃したいよな」
うーん。周囲の魔物から目を離すと皆危険じゃないかな? いや、それでも邪神の攻撃はロイたちにも及ぶんだから、完全にどちらかに専念するのは無理なのか。それなら戦闘時間が短い方が生存率は上がる。
「攻撃の手数を純粋に多くしたいなら、人数増やしたいよね」
「マークの予想では単純にその案を採れないんだよな」
五人で戦うのが重要なのかも、ってやつだよね。さっきも出た話だけど、これは紫音の結果待ち。
だから今はそれ以外のアプローチで考えてみる。
「あんまり目を離さず、邪神へ攻撃を当てられればいいよね」
ゲームの表現では、どこに攻撃エフェクトが出てきたか特に表現はなかった。例えば頭部に毎回「HIT!」表示が出るかといえばそんなことはなくて、適当な場所にエフェクトが光っていた。
逆に言えば、結構大雑把に当てても外殻は削れる?
「投げナイフとか」
「使い捨てになるが、できなくはないな」
自分で言っておいてなんだけど、攻撃力が低くて序盤しか使わない手だった。
毒投げナイフはスリップダメージ期待して使うこともあったか。でも実際に装備して使うのはちょっと怖いかも。自分に刺さってしまったら大変。
同じ意味で爆弾系もちょっと。手榴弾とかそういう類いがここにあるのか、そして装備できるのかが分からないけど、そもそも近距離へ斬り込んで行く人に持たせる装備じゃないよね?
「でもなぁ、爆弾は魅力的ではあるんだよね。放り投げるだけでダメージ与えられるんだし」
「魔術使えない人間でも中距離から攻撃をぶちかませるんだからな」
ロイは剣術オンリーだからどうしても近接戦になる。魔物の方へ位置取りしていても邪神に攻撃できたら、それだけでもゲーム以上の働きになると思うの。
「方向性としてはいい線行ってると思うから、これはちょっとしっかり考えてみる……」
他は何かないかな。何か……。
ふあぁっ、と小さな欠伸が出た。途端、身体が重くなったように感じる。
そりゃそうか、長時間の会議、夕食でも仕事の話、そして部屋では泣いて騒いで喋って考えて。それに加え、温かい身体にもたれかかってゆらゆら揺りかご状態。
思考の切れ目に睡魔が滑り込んできたのも無理はない。うう、自覚したらますます眠くなってきた。
もうちょっとロイのことを考えたいのに。このままじゃ私が納得できないよ。もう少し案を考えさせて……。
「無理するな。明日すぐにどこかへ行くってことはないから」
揺りかごが止まって、そのまま身体が浮く。
「気付かなくて悪かった。疲れたよな」
ベッドに下ろされ、眼鏡が机にそっと置かれる。
先日と同じ、ロイの掌という贅沢なアイピローが乗せられて、意識が溶けていく。
おやすみ、というロイの声は、もう夢現だった。




