第七話:ゴーレムの不思議!?
拠点での生活も五日目を迎えた、ある日の朝。
前日に『メルン』と『ルンゴ』を堪能した俺たちは、集会所の前で今後の作業について話し合っていた。
と、そこで俺はふと漂ってきた妙な匂いに鼻をひくつかせた。
「……ん? くんくん……なんか、酸っぱいような匂いが……」
俺が首をかしげると、ガストンがガハハと豪快に笑いながら自分の脇を拳で叩いた。
「ハハハ! コウジロウ様、そりゃあ俺たちの汗の匂いですぜ! この数日、拠点の建設やら狩りやらで泥と汗にまみれっぱなしですからね!」
「ガストンさん……爽やかに言ってますけど、普通に臭いです」
リオが自分の鼻を指でつまみながら、数歩後ずさりする。
見れば、ルチアもミアも、さらには魔族のバルゼたちでさえ、なんとなく気まずそうに互いの距離を取っていた。
(そういえば……この世界に来てから、濡れタオルで体を拭くくらいで、一度も体を洗えてないな……)
「よし……決めた。今日はみんなで『お風呂』を作るぞ!」
俺の宣言に、その場にいた全員が目を丸くした。
「「「お、お風呂……!?!?」」」
「……というわけでフィーナ。この近くに、地下水脈が通っている場所はないか?」
俺の問いかけに、フィーナは地に手を当てて精霊たちの声に耳を澄ませた。だが……しばらくすると、申し訳なさそうに首を振った。
「すみません……コウジロウ様。このあたり、地下深くにも水脈はなさそうです……」
「まじか……水脈なしかぁ、フィーナありがとう」
俺は困り果てて腕を組んだ。
「それなら、ユキたちに魔法で大量の水を出してもらって溜めるか? うーん、でもそれだと毎回大変すぎるよな……」
俺が悩んでいると、バルゼの後ろに控えていた一頭の巨大な人型岩ゴーレムが、重厚な足音を立ててズリ……と一歩前に出てきた。
『——コウジロウ様。ソレでしたら、水を生み出す“魔法道具”を我々で作成してはいかがでしょうか』
ゴロゴロと体に響く低い岩の声に、俺は驚いて振り返った。
「えっ、ゴーレムって喋れるのか!?……いや、それより魔法道具を作れるのか!?」
「はい、コウジロウ様、我ら土一族は古代の技術を受け継ぐ優れた精密加工と魔導回路の刻印が得意なのです。自分たちの手で作ることができます! ……ただし、刻印後に魔法を記憶させるのは専門の方々にお願いしたく」
「それはすごい!水の魔法はユキ達ゴブリンのみんなに、炎の魔法は悪魔族のみんなに任せたい、いいかな?」
俺の問いかけに、ユキたちゴブリン達が「はいっ! お任せください!」と元気よく手を挙げ、控えていた悪魔族の術士たちも「ふふっ、お安い御用ですわ」と妖艶に笑って前に出た。
「よし、ゴーレム……あ、ちなみにゴーレム君、名前はなんて言うんだ?」
俺が尋ねると、その巨大な岩ゴーレムはほんのり恥ずかしそうに身体を少しモジモジと揺らした。
『——ロクと申します。……ちなみにコウジロウ様、私、乙女(女)です』
「ごめん……ッ!???」
ゴツゴツした武骨すぎる岩の巨躯から発せられたまさかの事実に、俺は思わず全力で頭を下げた。見た目で決めつけて本当にすまない、ロク……!
気を取り直したロクたちの素晴らしい職人技により、大きな岩石から男用と女用のふたつの立派な「石造りの露天風呂」があっという間に組み上がった。
さらに、近くの岩場から掘り出した魔鉱石にロクが繊細な魔導回路を彫り込んでいく。
そこへユキたちゴブリン達が『清流術』の水魔法を注ぎ込み、悪魔族たちが絶妙な温度を保つ『温炎術』の火魔法を記憶させていった。
そして完成した蛇口型の魔導具のダイヤルを回すと——
ジャアーーーーーッ!!
なんと、ロクたちの魔導具から、ユキたちゴブリン達の水と悪魔族の炎が合わさった絶妙な温度の温水が勢いよく噴き出し、露天風呂を満たしていったのだ!
「「「うおおおおおっ!? お湯が出たーーーーっ!?」」」
ガストンたちが大歓声を上げる。
「ロクもユキたちも悪魔族のみんなも凄すぎる……! よし! 男兵士諸君、そして魔族の野郎ども! 一番風呂だぁぁぁっ!」
「「「うおおおーーーーっ!!」」」
俺たちは服を脱ぎ捨て、完成したばかりの大浴場へとなだれ込んだ。
「あぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜……っ!!!」
温かいお湯に肩まで浸かった瞬間、全員の口から脱力しきった声が漏れ出た。
数日間の疲れ、汗、泥……すべてがお湯の中に溶け出していく。
「最高だ……最高すぎる……っ! 異世界に来て一番の極楽だ……!」
「コウジロウ様についてきて本当に良かったです……っ!」
ガストンが温かい湯気を浴びながら、ボロ泣きしている。
と、そこへドスン、ドスンと重苦しい足音を立てて、ロクと一緒に作業をしていた男のゴーレムまで湯船に入ってきた。
(……え? ゴーレムってお湯に入っても大丈夫なのか……? というか、全身岩だけど……)
俺がハラハラしながら見守っていると、お湯に浸かった男ゴーレムの表面から、みるみるうちにゴツゴツした「岩」がボロボロと崩れ落ちて溶け出していった。
「うわああああっ!? 解けてる解けてる!!」
焦る俺たちを余所に、表面の泥や堆積した岩汚れが綺麗サッパリ洗い流されると——そこから現れたのは、なんと信じられないほどスタイリッシュでかなり細身なイケメンだった。
『……ふぅ、極楽ですな。何百年分かの汚れが一気に落ちました』
「ただの激しい汚れだったのかよ!!」
俺とガストンたちの息の合ったツッコミが、湯煙の立ち込める風呂場に響き渡る。
たっぷりお湯を堪能して上がった後、男湯の脱衣場を出た俺たちは、広場で目を疑うことになった。
「あ、コウジロウ様。お風呂、最高でした……っ」
そこには、濡れた髪を軽く絞りながら、しなやかで神秘的な美しさを纏った信じられないほど抜群のスタイルの超絶美女が立っていたのだ。
「「「え……ッ!? どなたでしたっけ!?」」」
ガストンも目を見開いて硬直している。
「さっき名乗ったじゃないですか、ロクですよ」
なんと、女子風呂に入ったロクもまた、何百年分の岩と土の分厚い汚れが綺麗サッパリ落ちたらしく、絶世の美女といっても過言ではないレベルの素顔があらわになっていたのだ。
「すごいですよね!ロクちゃん、めちゃくちゃ美人ですよね!!」
女子風呂から上がってきたリオが大声で駆け寄ってきた。
ロクはほんのりと頬を染めて照れくさそうに微笑んだ。
「ふふ、土の鎧を脱いだのは久々ですわ。……コウジロウ様、お飲み物のご用意ができておりますよ」
「は、はいっ!!」
ゴーレムたちの知られざる秘密(汚れ)と、風呂上がりのロクのあまりの美しさに度肝を抜かれつつ、ユキが冷やしてくれた『メルンジュース』を全員で一気に飲み干す。
火照った体に冷たい甘さが染み渡り、拠点にはまた一つ、かけがえのない「至福の時間」と「大騒ぎ」が誕生したのだった。




