第四話:副隊長バルゼ
ガストン率いる狩猟班が森の奥深くへ向かっていた、まさにその頃——。
「おいゴブリン組! 切り出した丸太をフロートで一気に運べ! カッターで長さを揃えるのも忘れるなよ!」
「悪魔族! 運ばれてきた資材の鑑定と火炎加工を急げ! ゴーレム隊は加工済みの木材と石材で土台を組み上げろ!」
荒野の一角に、バルゼの怒号と似た活気ある指示が響き渡っていた。
バルゼ率いる『資材・設営班』は、司令部を兼ねた『数十人は収容できそうな宿屋のような2階建ての建物』の設営に取りかかっていた。
元・魔王軍の副官であるバルゼは、作業分担を完璧に統括していた。
チームは大きく分けてみっつ——森や岩場から材料を運ぶ【資材収集組】と、集まった資材の鑑定と加工を行う【鑑定加工組】と魔法と腕力を駆使して一気に組み上げる【組み立て組】だ。
「この丸太、外見は立派だが内部に腐食あり! 強度が足りんから打ち抜き材には使えん、薪と板材に回せ!」
「こちらの石材は硬度最高値だ! 基礎の四隅用に回すぞ!」
現場の最前線で目を光らせていたのは、悪魔族たちだった。
彼らは固有スキルの【鑑定】を駆使し、運ばれてくる木材や石材の強度・品質を瞬時に見極めて適材適所へ振り分けていく。
さらに、選別された木材に対し、悪魔族たちが黒い魔導火を「ボッ!」と吹き付けた。
「表面を焼き固めて炭化させる! これで腐りにくくなり、防虫効果も完璧だ!」
悪魔の炎による特殊な焼き加工によって、木材と石材は一瞬で建築に最適な高級資材へと変貌を遂げていく。
「悪魔族が完璧に加工した石材、確かに受け取った!」
ドスン、と地響きを立てて現れたゴーレムたちが加工済みの石を積み上げ、高度な土魔法で外壁を結合させる。
一方、建物の中央では、ゴブリンたちが目にも留まらぬ手際で作業を進めていた。
「カッターで加工済み丸太の切り込み完了したゴ!」
「重い丸太はフロートで浮かせて、2階へ一気に引き上げるゴ〜!」
小柄なゴブリンたちが呪文を唱えると、悪魔族によって見事な焼杉加工が施された黒光りする丸太が、ミリ単位の狂いもなくピッタリと組み合わさっていく。
計画の進捗を見に来ていた俺とルチアは、その光景を前に開いた口が塞がらなかった。
「……なぁルチア。俺の知ってるゴブリンって『ギャハハ!』って襲ってくる奴らだし、悪魔族なんて残酷に人間をいたぶる種族だと思ってたんだけど……あいつら鑑定スキルで資材選別して、火炎加工で防虫処理までやってないか?」
「あ、コウジロウ様。魔族軍の悪魔族は知性が非常に高く、元々は鑑定や魔法錬成を得意とする学者・技師の家系なんですよ。ゴブリンの手先の器用さ、ゴーレムの土魔法と合わさると最強の建築集団なんです!」
「高スペックすぎるだろ……! なんでこんな技術があって、昨日までボロいテントなんかで過ごしてたんだ……? もしかして……」
俺が呆れ半分、察し半分で尋ねると、作業の指示を出していたバルゼが深いため息をつきながら歩み寄ってきた。
「はい、コウジロウ様。その『もしかして』です」
「やっぱりか……」
「『我ら魔族の城以外に豪華な建物を造るなど生意気だ』『兵士など天幕で寝ていれば十分』という魔王様からの理不尽な命令で、魔法による建築や特殊加工は一切禁じられておりました。……悪魔族の鑑定スキルも、ただの減給対象探しに使われていたのです」
「どこまでブラックなんだよあの魔王……」
俺が呆れ果てていると、仕上げに入ったバルゼが両手に魔力を込め、中央の大黒柱へと叩きつけた。
ドンッ……!!
青白い魔力の光が建物の骨組み全体を駆け巡り、悪魔族・ゴブリン・ゴーレムの技が結集した建物がガッチリと固定された。魔法による超突撃工事は、常識外れのスピードで進行していく。
公式な集会場としても、みんなが休む宿屋としても使えそうな立派な建物が形になっていく。
そして——夕暮れ時。
「「「できた……できたぞーーーっ!!!」」」
荒野の真ん中に、数十人は軽々と収容できそうな『立派な宿屋風の2階建て拠点』が、なんとわずか1日で完璧に完成したのだ!
雨風を完全に防ぎ、黒く艶やかに焼き加工された木と石の美しい建物を前に、作業を終えた魔族と人間の作業員たちが抱き合って歓声を上げる。
屋根の上から完成した拠点を見下ろすバルゼは、汗を拭いながらふと胸の奥が熱くなるのを感じていた。
(……良いものだな)
かつては魔王の顔色ばかりを伺い、減給と処罰におびえ、部下たちを突っつくだけの暗黒の日々。
だが今は、仲間たちの魔法や特性を最大限に活かし、目に見える形で「みんなの宿」を1日で作り上げたのだ。
(誰かを踏みにじるためではなく……自分たちの生活を作るためにこの力を使う。こんなにやりがいのある仕事があったとはな)
そこへ、森の方から賑やかな足音が近づいてきた。
「おいバルゼ! こっちも大収穫だぞーっ!!」
巨大な突進猪の肉を担いだガストンと兵士たちが、誇らしげに帰還してきたのだ。だが、ガストンたちは目の前にそびえ立つ立派な宿屋のような建物を目にして驚愕する。
「む……! ガストン、その巨大な猪は……!?」
「あ、いや……みんなで仕留めたんだが……おいバルゼ、なんだこの立派な建物は!? 朝まで何もなかったぞ!?」
「フッ、驚いたか。我がチームの魔法と団結力をもってすれば、宿屋風の拠点など1日で完成させられる! これで今夜は、この頑丈な屋根の下で安心して美味い肉を食べられるぞ!」
かつて敵同士だった副隊長二人が、互いの成果を称え合って力強く握手を交わす。
俺とルチアも顔を見合わせ、満足そうに頷いた。
「みんな本当によくやってくれた! 今夜は肉パーティーだ!」
「「「おーっ!!!!」」」
最高の仲間たちの歓声が、完成したばかりの宿屋と夕暮れ時の荒野へどこまでも響き渡るのだった。
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