第三十四話:演説、そして新たな仲間
観客の冒険者たちから、盛大な歓声が沸き起こる中——
「静粛に!」
ゴードンの野太い声が、闘技場全体に響き渡った。歓声が徐々に静まっていく。
「コウジロウ、せっかくだ。ここにいる連中に、一言挨拶しておけ」
「え……俺がですか?」
「当然だろう」
ゴードンに促され、俺はやや緊張しながら、闘技場の中央で観客席を見渡した。
「……えっと、コウジロウと言います」
そう切り出すと、一瞬にして周囲が静かになった。
「今、俺は人間と魔族が一緒に暮らす村を作って、そこに住んでいます」
その一言に、いくつかの驚いたような声が上がる。
「魔族も、人間も……種族に関係なく、誰もが幸せに暮らせる場所を作りたい。……それが、俺の目指してるものです」
言葉を紡ぐうちに、次第に自分の中の想いが熱を帯びていくのが分かった。
「もし……もし、うちの村に来てみたいって人がいたら、遠慮なく声をかけてください!」
——言った瞬間、しまった、と思った。
すっかり勢いに任せて、余計な一言まで口にしてしまっていた。
だが、それを慌てて撤回する間もなく——
「うおおおおっ! 魔族と暮らすなんて、楽しそうだな!」
「こんな強い奴が村長やってる村、行ってみたいなぁ……!」
歓声とともに、あちこちからそんな声が飛んできた。
「……おいおい」
ゴードンが、呆れたような、それでいてどこか面白そうな顔で俺を見た。
「俺の目の前で、こんなに堂々と勧誘するとはな」
「す、すみません……! 勢いで言ってしまいました……!」
俺は慌てて頭を下げた。
だが、ゴードンはふっと小さく笑うと、軽く手を振った。
「……まあ、いい」
「以上、この余興は終わりだ」
ゴードンが闘技場に響く声でそう告げた。
「それじゃあ今日もみんな、働けー」
その一声で、あれほど盛り上がっていた冒険者たちが、蜘蛛の子を散らすように一斉に走り去っていった。
「……現金なもんだな」
俺が苦笑いしていると、そうこうしているうちに、壁際に倒れていたライケンが、うっすらと目を開けた。
「……あれ」
ライケンはしばらくぼんやりとした様子で天井を見上げていたが、やがて状況を思い出したのか、ゆっくりと体を起こした。
「……最後、何が起きたのか、よく分からなかったな」
彼は自分の腹をさすりながら、静かに呟いた。
「……ああ、そうか。負けたんだな、俺」
その言葉には、悔しさよりも、どこか不思議そうな響きがあった。
「生まれて初めてだ……負けたの」
ライケンはぽつりと呟いた後、ふっと小さく笑った。
「敗北って……こんな気持ちなんだな」
そして、彼は立ち上がると、まっすぐに俺を見つめた。
「なあ……もしよければ、僕を君の村に連れて行ってもらえないか?」
「……は?」
思わぬ申し出に、俺は目を丸くした。
「お、おい、ライケン!」
ゴードンが慌てたように口を挟んだ。
「それはさすがに……!」
「どうせ、これから和平が結ばれるんだろう?」
ライケンは飄々とした様子で肩をすくめた。
「それなら、交換留学生ってことでいかせてくれよ」
「……お前な」
ゴードンは呆れたようにこめかみを押さえた。
「何を言っても、無駄そうだな」
「そういうこと」
ライケンはにっこりと笑った。
「……よかろう」
ゴードンは大きくため息をつきながら、渋々といった様子で頷いた。
もしよろしければ、★評価やブックマークをお願いします!




