第三十二話:ギルドで模擬戦!?
「細かい話については、うちの城にいる外交トップの『アイラ』に任せることになる」
ゴードンがそう告げると、俺は思わず頷いた。
「分かりました」
「そっちは……」
ゴードンが視線を巡らせ、ミアに目を留めた。
「ミア、任せてもいいかな?」
「はい、お任せください」
ミアがしっかりとした様子で頷いた。
「よし。……アイラとの話し合いは、明日から始めることになる」
「分かりました」
こうして、正式な協定の詰めについては、ミアとアイラという専門担当同士の話し合いに委ねられることが決まった。
「さて、と」
俺は少し肩の力を抜きながら、口を開いた。
「買い出しの方は……もう不要になりましたけど、せっかくここまで来たので、少し街を見て回りたいですね」
「ああ、それは構わんが」
ゴードンはそう言いかけて、ふと窓の外に視線を向けた。
「その前に……お前さんたち、少し覚悟しておいた方がいいぞ」
「覚悟、ですか?」
「ここはギルドだ。……外に、大勢の冒険者たちが集まって、お前さんたちのことを見に来ているらしいからな」
「え……」
俺が窓の外を覗くと、確かにギルドの前には、これまでよりも明らかに人だかりが増えていた。
「噂はもう広まってるってことですか」
「まあな。……勇者と魔王、そしてダグローズが死んで、生き残ったやつらが今このギルドにいる。
冒険者どもが黙って見過ごすはずがないだろう」
ゴードンはニヤリと笑うと、パンと手を叩いた。
「よし、ちょうどいい。……ここで一つ、模擬戦でもやって、お前さんたちの村の宣伝でもしていけ」
「模擬戦、ですか!?」
思いがけない提案に、俺は思わず声を上げた。
「そうだ。実力を見せつけてやれば、それだけで村の名も広まるし、今後の交易にとっても悪い話じゃない」
ゴードンはそう言うと、ドスドスと重い足音を立てながら、ギルドの中央へと向かった。
ゴードンがギルド中央に立ち、集まった冒険者たちに向けて声を張った。
「よし、こいつらの村の実力を見たいんだが……戦いたい奴はいるか?」
その一声で、ギルド内がにわかにざわめき始めた。
「どうせただの噂だろ、俺がしめてやるよ」
「どこまで強いのか見てみたいなぁ」
あちこちから威勢のいい声が上がる。
「よし、誰か戦いたい奴はいるか?」
ゴードンが改めてそう問いかけると、一斉に手が挙がった。
「……これはすごいな」
俺は思わず苦笑いした。予想以上の反応だった。
だが、そこでゴードンは、挙がった手の誰にも目もくれず、ギルドの端のテーブルに視線を向けた。
そこには、一人静かに椅子に座り、コーヒーを飲んでいる男の姿があった。
年の頃は二十五歳ほど。金髪に整った顔立ちで、それでいてどこか品を感じさせる佇まいだった。
「おい、ライケン。お前がやれ」
「……えっ、手あげてないけど?」
指名された男——ライケンが、少し驚いた様子で顔を上げた。
その瞬間、周囲がさらに沸き立った。
「おお、ライケンがやるのか」
「それならいいや! あいつに、俺たちの実力を見せてやってくれ!」
さっきまで我先にと手を挙げていた冒険者たちが、あっさりと引き下がり、むしろ嬉しそうにライケンへの期待を口にしていた。
(……かなり信頼されてるんだな、あの人)
俺がそう感じていると、ゴードンが小声で耳打ちしてきた。
「あいつはミーエルに五人しかいない、Sランク冒険者だ」
「Sランク……」
「まじか」
俺は思わず息を呑んだ。
「サットウ……頼めるか?」
俺がすがるように尋ねると、サットウは静かに首を横に振った。
「私だと……彼には勝てないかと」
その返答に、俺はしばらく黙り込んだ。
「……やるしかないか」
覚悟を決めるように、俺は静かに呟いた。
もしよろしければ、★評価やブックマークをお願いします!




