第三十一話:正直な男と正直な男
「今さらだけど……うちの村はまだ百五十人ほどなんです」
俺はふと気になって切り出した。
「対して、ミーエルは……確か三百万人くらいでしたよね」
「ああ、そのくらいだな」
ゴードンは事もなげに頷いた。
「協定なんて結んで、本当に大丈夫なんですか? 正直、俺たちにとってはとんでもなくありがたい話ですけど……」
規模の差を考えれば、あまりにも釣り合いが取れていない気がした。
「なに、心配するな」
ゴードンはニヤリと笑った。
「うちにとってもメリットは大きいんだよ」
「メリット、ですか」
「ああ。まず、お前さんたちの始まりの村は、魔族領に近い場所にある。
魔界側でしか採れないような珍しいものが手に入りやすいだろう。……そういうものを、うちにも回してもらえるだけで十分ありがたい」
「なるほど」
「それに」
ゴードンは、そこで少し声を落とした。
「あまり大きな声じゃ言えねぇが……勇者、魔王、そしてダグローズを倒せるほどの戦力を持った相手に、下手に敵対するリスクは、極力なくしておきたいんでな」
その本音に、俺は思わず苦笑いした。
「……正直な人ですね」
「正直に言った方が、後々こじれずに済むからな」
ゴードンはそう言って肩をすくめた。
「さっきのお前さんと同じだ。
最近は何事に置いても駆け引きをしたがるものが多い。
正直に伝えられるお前さんを信用できると思った」
「それは嬉しいな……少しだけ、仲間に意見を聞いてもいいですか」
俺はそう断ってから、隣に控えていたミアへと視線を向けた。
「ミア、どう思う?」
「そうですね……」
ミアはしばらく考えを整理してから、口を開いた。
「うちにとってのメリットは、非常に大きいと思います。……ただ、一つだけ気になることが」
「ん、何?」
「始まりの村には、魔族の方々もたくさん住んでいます。……その点について、魔族への差別といったものがないか、少し気になりまして」
ミアはまっすぐにゴードンを見つめた。
「その点について、ゴードン様のお考えを伺いたいです」
その問いかけに、その場の空気が一瞬、静かに引き締まった。
ゴードンは、ミアの問いに対して、しばらく考えるようにゆっくりと頷いてから答えた。
「……俺は、人間だろうが魔族だろうが、悪い奴は悪い、良い奴は良い。それだけだと思っている」
その言葉に、ミアの表情がわずかに和らいだ。
「だが」
ゴードンは続けた。
「全員が、俺と同じように考えているわけじゃない。……正直に言えば、この街の多くの人間は、魔族というだけで嫌っている者が少なくない」
「……そうですよね」
「昔からの因縁、教育、噂話……色んなものが積み重なった結果だ。一朝一夕にどうにかなるもんじゃない」
ゴードンは静かに、それでいてまっすぐな目で俺を見た。
「だが……そこを変えていくのは、俺と、お前の仕事だと思っている」
「……俺の?」
「ああ。お前は、人間と魔族が一緒に笑って暮らせる村を、現に作り上げてきたんだろう。
……その実績は、口先だけの理想論とは違う。
俺一人がどれだけ叫んでも変わらなかったことも、お前と一緒になら、動かせるかもしれない」
ゴードンの声には、これまでにない熱がこもっていた。
「一緒に、変えていかないか?」
その真剣な問いかけに、俺はしばらく言葉を失っていた。
(……この人、本気で言ってるんだな)
隣に立つミアも、静かにゴードンの言葉に耳を傾けていた。
俺は一度、深く息を吸い込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「ええ。俺たちの村も、まだまだこれからです。
……でも、仲間が少しでも暮らしやすい世界・平和な世界を作れればとは思ってます」
俺がそう答えると、ゴードンは満足げに、口の端を大きく吊り上げた。
「よし、決まりだな」
こうして、始まりの村とミーエルの街との間に、正式な協定が結ばれることとなった。
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