第二十九話:ギルド長ゴードン
ギルドの受付カウンターに着くと、サットウが前に進み出た。
「すみません、ギルド長様に伝言をお願いしたいのですが」
受付の女性は少し驚いた様子を見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「ちょうど今、裏にいらっしゃいますので、お呼びしてまいりますね」
「え、今すぐに……?」
思っていたよりも早い対応に、俺たちは思わず顔を見合わせた。
しばらくすると、奥の部屋からドスドスと重い足音が響いてきた。
現れたのは——六十代ほどに見える、筋骨隆々のマッチョな老人だった。
日に焼けた肌に、太い腕、着ている服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉。とても「ギルド長」という言葉のイメージとはかけ離れた風貌だった。
「……おお、噂の連中はお前さんたちか」
「俺はギルド長をやっているゴードンだ。兼業で王もやってる」
野太い声で、老人はそう言いながら、値踏みするようにこちらを見渡した。
俺は「王の方が兼務かよ」っとツッコミそうになったが踏みとどまった
サットウが一歩前に出て、丁寧に挨拶をした。
「お初にお目にかかります。私、サットウと申します。こちらがコウジロウ様、こちらがミア、そしてアリサです」
順に紹介されるのを聞きながら、俺は挨拶もそこそこに、思わずギルド長へとステータスのスキルを発動させていた。
——だが。
(……見えない?)
いつもなら瞬時に表示されるはずのウィンドウが、今回はまったく浮かび上がってこなかった。
「……ん? お前さん、何かしたかの?」
ギルド長が、鋭い目つきでこちらをじっと見た。
(……気づかれたのか)
俺は一瞬迷ったが、隠しても仕方ないと判断し、正直に白状することにした。
「すみません……実は、ステータスを見るスキルを持っていて、あなたに使わせてもらったんですが……なぜか、見ることができなくて」
「ほう」
ギルド長は特に驚いた様子もなく、ふむ、と顎を撫でた。
「なるほどな。俺には、他からの干渉を回避するスキルがある。だから、効かなかったんだろうよ」
「……怒らないんですか?」
俺が恐る恐る尋ねると、ギルド長はニヤリと笑った。
「構わん。むしろ、正直に言ったこと、評価してやる」
そして、その笑みをすっと消し、代わりに真剣な表情を浮かべた。
「それより——事の経緯を教えてくれ。始まりの荒野で、一体何があった。……そして、今、あの地はどうなっている」
俺は静かに息を吸い込むと、これまでの出来事を順を追って話し始めた。
勇者と魔王を倒したこと。
人間と魔族が種族の隔たりなく共に暮らす村を作ったこと。
そして、村を脅かそうとしたダグローズを退けたこと。そして今回、この街には、村の生活道具を買い出しに来たこと。
話を聞き終えたギルド長は、しばらく無言のまま、腕を組んで唸っていた。
「……にわかには信じがたい話だな」
「ですよね……」
「だが」
ギルド長は、俺の後ろに控えるサットウとミア、そしてアリサへと視線を移した。
「元・勇者軍の人間が二人、そして猫獣人まで従えている。……この面子が揃っているとなると、嘘とも思えん」
同行してきたメンバーの存在そのものが、何よりの証明になっているようだった。
「……なるほどな」
ギルド長は静かに頷きながら、じっと俺を見つめ続けるのだった。




