第二十七話:ミーエルへ向けて出発
出発の朝、荷馬車に最後の荷物を積み込んでいると、バルゼが小走りにこちらへやってきた。
「コウジロウ様、出発前に一つ、お願いがございます」
「ん、どうした?」
「実は……魔族がさらに力を発揮するためのアイテムがあるのです。もしミーエルの街で見かけましたら、買ってきていただけないでしょうか」
「アイテム?」
「はい。名を『魂の指輪』と申します」
「魂の指輪、か。……分かった、探してみるよ」
俺がそう答えると、バルゼは安堵したように頭を下げた。
「ありがとうございます。……見つかれば、村の戦力にも大きく関わってくるかと思いますので」
「そんなに重要なものなのか」
「はい。詳しくは、見つかった際にでもご説明いたします」
バルゼはそう言い残すと、丁寧に一礼して見送りの列へと戻っていった。
「よし、ミーエルに行くぞー!」
俺の号令に、三人が元気よく応じる。
「はい!」
「お供します!」
「楽しみ~!」
こうして俺たちは、始まりの村を後にし、街道を進み始めた。
馬車を操るのはサットウで、そのおかげもあって道中は終始問題なく進んでいった。
「サットウ、本当に頼りになるな」
俺がそう言うと、サットウは控えめに笑った。
「恐縮です。……何をするにしても、まずは慎重にが信条ですので」
——だが、そんな順調な旅の途中、一度だけ大きな緊張が走った瞬間があった。
「な——」
森を抜けた開けた場所で、突然、巨大な影が空を覆った。
見上げると、そこには翼を広げた巨大なドラゴンの姿があった。
「ど、ドラゴン……!?」
サットウが思わず手綱を強く握りしめる。
アリサも、体を強張らせていた。
(……まずいな、これは)
俺はとっさに、ドラゴンへ向けてゆっくりと威圧を放った。
「……ッ」
その瞬間、ドラゴンは大きく身を震わせると、まるで何かから逃げるように、慌てて空の彼方へと飛び去っていった。
「……い、行った……」
サットウが安堵の息を吐く。
「な、なんだったんですか、今の……!」
アリサも興奮と恐怖が入り混じった様子で声を上げた。
「……いや、正直、俺も驚いたよ」
俺は思わず本音を漏らした。あれほどの大きさの生物を前にすると、いくら威圧に自信があっても、内心穏やかではいられなかった。
ミアも少し引きつった笑いを浮かべた。
そんな一幕を挟みながらも、旅は概ね順調に進んでいった。
道中も相変わらず、アリサの興奮は収まることを知らなかった。
「あ、見てくださいあの雲の形!」
「あそこの森、また何か珍しいのが植わってます!」
矢継ぎ早の質問に、その都度丁寧に答え続けていたミアは、次第に目に見えて疲れを溜め込んでいった。
「……アリサちゃん、もう少しだけ、静かにしていましょうね……」
「あ、すみません……!」
そんなやり取りを繰り返しながら、馬車は着実に距離を縮めていく。
そして——
「あ……! 見えてきましたよ、あれが……!」
前方に、大きな城壁に囲まれた街並みが見えてきた。
「あれが、ミーエルか」
俺は思わず身を乗り出した。
疲れの色を滲ませながらも、ミアがほっとしたように呟いた。
「……やっと、着きましたね」
こうして、俺たちはようやく、目的の街——ミーエルへとたどり着いたのだった。
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