第二十三話:ガストンvsダグローズ
戦場の中心では、ガストンとダグローズが正面から向き合っていた。
「……久しいな、ダグローズ将軍」
ガストンが静かに剣を構えると、ダグローズはにやりと口の端を歪めた。
「久しいだと? 貴様のような下級兵士の顔など、覚えていない」
「私はあなたのことを昔からよく存じておりますよ。……悪い意味で、ですが」
ガストンの声には、静かな怒りが滲んでいた。
「フン、そうか。まあどうでもいい」
ダグローズは興味なさげにそう言い捨てると、ガストンの背後——コウジロウの方へと視線を投げた。
「お前を倒したら、次はあそこにいる雑魚そうな人間をじっくりいたぶってやろう。
そして、この村は俺が貰う」
「……ッ」
その言葉に、ガストンの纏う空気が一気に張り詰めた。
「その舌、二度と動かせないようにしてやる」
「面白い。かかってこい、雑兵」
ダグローズがそう言い放つと、傍らに置いてあった得物を掴んだ。手にしたのは、人の背丈ほどもある巨大なハンマーだった。にもかかわらず、ダグローズはそれをまるで木の枝のように軽々と持ち上げてみせる。
対するガストンは、静かに長剣を構えた。
俺は思わず、ステータスのスキルをダグローズに向けて発動させた。
【名前:ダグローズ】
【スキル:剛力】
【能力値】
筋力:304 敏捷:64 防御:126 魔力:20
体力:72
知力:95
(……筋力300か。確かに数字だけ見れば脅威だが……他は大したことないな)
(これは……余裕なんじゃないか?)
「行くぞ!」
ダグローズが雄叫びを上げ、巨大なハンマーを大きく振りかぶった。
ブンッ、と空気を切り裂く音とともに、凄まじい一撃が振り下ろされる。
——だが。
「……遅い」
ガストンは最小限の動きでその一撃をひらりと躱すと、涼しい顔のまま距離を取った。
「くっ……!」
ダグローズは苛立ちを滲ませながら、何度もハンマーを振り回す。
横薙ぎ、縦振り、叩きつけ——だが、そのどれもがガストンには当たらなかった。
まるで見えているかのように、ガストンは最小限の動きだけで、次々と繰り出される一撃をすべていなしていく。
(……こいつ、力任せに振り回しているだけだ。踏み込みも、体重移動も、何一つ鍛えられていない)
ガストンは冷静に分析していた。
(ロクな鍛練も積まず、ただ剛力に任せてここまで昇り詰めてきたんだろう。……それが、この程度で通じるとでも思っていたのか)
「なぜだ……なぜ押し切れん……!」
苛立ちを露わにするダグローズを前に、ガストンは静かに剣を構え直した。
「……そろそろ終わりにしよう」
何十発目かのハンマーの一撃が振り下ろされた瞬間——ガストンは初めて、真正面からその一撃を受け止めた。
「これで、終わりだ」
ガストンが剣を握る手にぐっと力を込めると——
パキン、と乾いた音を立てて、ダグローズのハンマーが粉々に砕け散った。
「なっ……!?」
呆然とするダグローズの手には、もはや柄の欠片しか残っていなかった。
「そ、そんな……こんなはずでは……!」
顔を青くしたダグローズは、後ずさりながら、傍にいた兵士たちへと怒鳴った。
「お、お前ら! こいつを止めろ! その隙に俺は……!」
自分だけでも逃げ延びようと、ダグローズが踵を返しかけた
——その瞬間。
「——どこに行くつもりだ」
低く、静かな声が響いた。
俺は、無意識にダグローズに向けて威圧を放っていた。
「……っ、あ……」
ダグローズの足が、ぴたりと止まった。
体中から力が抜け落ちるように、指先一つ動かせなくなっていく。
「な……なぜ、身体が……」
必死に抗おうとするが、その努力もむなしく、ダグローズの目からゆっくりと光が失われていった。
そのまま糸が切れたように、ダグローズはドサリとその場に崩れ落ちた。
——完全に、気を失っていた。
ちょうど戦闘を終えたバルゼと、治療班に支えられながら歩いてきたコハクが、俺のもとへとやってきた。
「コウジロウ様、こちらも決着がつきました」
バルゼが静かにそう報告する。
その隣で、両手と左足を包帯で巻かれたコハクが、ゆっくりと足を止めた。
「コウジロウ……みんな……ありがとう……本当に、ありがとう……」
声を震わせながら、コハクの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
戦いの緊張が解けていく中で、堰を切ったようにあふれ出す想い。
その涙を見つめながら、俺は静かに頷いた。
「よく頑張ったな、コハク。……ゆっくり休んでくれ」
視線を巡らせれば、拠点の周囲には、倒れ伏す敵兵と、それを見張る形で立つ味方の姿が広がっていた。
戦場に静寂が戻る頃には、拠点を守る側の完全勝利が確定していた。
サウナス、男幹部二人、そしてダグローズ——すべての幹部が倒れ、指揮系統を失った百人弱の兵士たちは、次々と武器を手放し、その場に膝をついていった。
「お、俺たちに……もう戦う理由がない……!」
「幹部様方が全員やられちまったんだ……降参だ、降参します……!」
戦意を完全に失った兵士たちが、次々と武器を捨てて両手を上げて投降していく。
拠点側の戦闘員たちの間からも、あちこちで歓声が上がり始めた。
「守りきったぞ……!」
人間と魔族、そして猫獣人が入り混じった戦闘員たちが、互いに肩を組み、抱き合いながら勝利を分かち合っていた。
数の上では圧倒的に不利だったはずの戦い。
拠点の仲間たちは、負傷者こそ多数出たが誰一人として命を落とすことなく、この戦いを終えることができた。
「……勝ったんだな、俺たち」
夕暮れに染まりゆく空の下、静かにそう呟いた俺の声は、湧き上がる歓声の中に、そっと溶けていくのだった。
もしよろしければ、★評価やブックマークをお願いします!




