第二十二話:コハクvsサウナス
「エイチさんを傷つけた分・子どもたちを攫った分、しっかり返させてもらう」
コハクはそう告げるなり、サウナスに向けて一気に走りだした。
「——っ!」
俊足を活かした鋭い拳が、サウナスの脇腹を捉える。
「……悪くない拳ね」
サウナスは口元の血を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。
だが、コハクはふと、自分の右手に違和感を覚えた。
「……なんだ、これ」
先ほどの拳の瞬間——サウナスの指先が、確かにコハクの右手に触れていた。
その部分から、みるみるうちに肌の水気が失われていく。皮膚は乾ききり、ひび割れ、まるで年月を経た枯れ木のように変色していった。
「な……っ」
右腕が、力の入らない棒切れのようになっていく。
「あら、気づいた? 私のスキルは『サウナ』。……触れたものの水分を、根こそぎ蒸発させる力よ」
サウナスは楽しげに笑いながら告げた。
「あなたの体も、私の体も、水分でできている。……ちょっと触れるだけで、簡単に乾涸らびさせられるの」
「……厄介な能力だな」
コハクは乾いて動かなくなった右手を見下ろしながら、それでも冷静に構え直した。
(——右手が使えないなら、左手と足でいい)
コハクは残る力を活かし、俊足でサウナスに再び肉薄する。
「速い……!」
驚くサウナスに向けて放った左の拳が——だが、寸前でサウナスの指先が触れた。
「がっ……!」
左手からも、瞬く間に水分が失われていく。
「これで、両手とも使い物にならなくなったわね」
サウナスが余裕の笑みを浮かべた瞬間、コハクは足技に切り替え、跳び蹴りを放った。
だが、その一撃もまた、寸前でサウナスの指先に触れられてしまう。
「……っ!」
左足の感覚が、一瞬にして消え失せた。
——両手と、左足。すでに満身創痍だった。
「あら、もう終わりかしら?」
サウナス自身も、コハクの拳を受けた腹を押さえながら、荒い息の下で勝ち誇るように笑った。
コハクは片足で体を支えながら、ゆっくりと目を閉じた。
(……ここまでか。……いや、まだだ)
荒れた呼吸を静め、意識を研ぎ澄ませていく。
「……スキル『止歩』」
コハクが静かにその名を口にした瞬間——
景色が、消えた。
「なっ——」
サウナスが瞬きをした、その一瞬の間に、コハクの姿はすでにサウナスの目の前にあった。
一歩。たった一歩で、間合いが完全にゼロになっていた。
だが——ここで左足に触れられれば、それで終わりだった。
サウナスの指先が、咄嗟にコハクの左足へと伸びる。
——それより、わずかにコハクの踏み込みの方が早かった。
「これで……終わりだ」
振り抜かれた渾身の踵落としが、サウナスの脳天を捉えた。
ズドォォンッ!!
「が……あ……」
サウナスの体は、地面に大きくめり込むようにして沈み込み、そのままピクリとも動かなくなった。
土煙が舞う中、コハクはその場に崩れ落ちるよう仰向けに倒れた。
「……勝った、か」
両手両足の感覚が完全になくなったコハクは荒い息のまま呟いた。
顔を動かす体力すら残っていないので、空を見上げたままコウジロウに聞こえるように叫んだ。
「私の勝利だーーー」
【スキル紹介:止歩】
発動の瞬間だけ敏捷が大幅に跳ね上がる。
その後、敏捷半分以下に落ち込み、代わりに筋力が倍以上に跳ね上がる。
使用後は、数分間、体がまったく動かなくなる
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