第二十一話:バルゼ vs 名もなき幹部
拠点周辺に張り巡らせた防壁の前に、まず現れたのは——ダグローズ、女幹部、そして部下十人だった。
その傍らには、縄で縛られたまま引きずられてくる、憔悴しきったエイチの姿があった。
「エイチ……!」
俺は思わず声を上げた。
「みんな……本当にすまない……」
エイチは力なく笑いながら涙を流した。その顔には、拷問の痕が色濃く残っていた。
俺の隣で、コハクの纏う空気が一変した。
「……あいつらが」
低く、これまで聞いたことのないほど冷たい声だった。
女幹部——サウナスと名乗るその女が、妖しく微笑みながら一歩前に出た。
「あら、随分と可愛らしい猫ちゃんじゃないの。……あなたが相手をしてくれるのかしら」
「エイチを、傷つけたのはお前だな」
コハクの瞳に、静かな怒りの炎が宿った。
「ふふ、さあ、どうかしらね」
サウナスがくすくすと笑った——その瞬間。
コハクの姿が、かき消えるようにその場から消えた。
「なっ——」
サウナスが気づいた時にはもう遅く、コハクはその俊足を活かし、一瞬でエイチのもとへと駆け寄っていた。
「エイチさん、失礼します」
縄を素早く引きちぎると、コハクはそのままエイチの体を軽々と抱え上げ、瞬く間に自陣へと連れ帰った。
「お願いします、この人を今すぐ」
「はい、お任せください……!」
控えていた治癒が出来るゴブリンのもとへエイチを預けると、淡い緑色の光がすぐさまエイチの体を包み込み始めた。
それを確認したコハクは、静かに拳を握りしめながら、再びサウナスのもとへと戻っていく。
「……待たせたな」
「あら、随分と素早いこと」
サウナスがくすくすと笑うと、コハクは静かに構えを取った。
「エイチさんを傷つけた分・子どもたちを攫った分、しっかり返させてもらう」
——場面は変わり。
ダグローズの二人の幹部は、正面の戦場を避けるようにして、拠点の裏手からこっそりと侵入を試みていた。
「……表で気を引いている間に、裏から村を叩く。それが作戦だったな」
「ああ。子供や女どもを人質に取れれば、こっちの勝ちだ」
薄闇に紛れながら、二人は防壁の隙間を縫って進んでいく。
——だが。
「——随分と、姑息な真似をするな」
低い声が背後から響いた。
「なっ……!?」
振り返った二人の目に映ったのは、腕を組んで静かに立つ一人の魔族の男だった。
「お、お前は魔王軍の副官バルゼだと……! なぜここに……!」
「私はコウジロウ様に忠誠を誓った身だ。……ここにいるのは、当然のことよ」
バルゼは静かにそう告げると、両手にゆらりと魔力を纏わせた。
二人の幹部が同時に炎と雷の魔法を放つ。
「くっ……!」
バルゼはとっさに防御魔法を展開するも、二方向からの猛攻に徐々に追い詰められていった。
「ぐああっ……!」
一際強い雷撃を受け、バルゼの体が大きく吹き飛ばされる。
地面に崩れ落ちたバルゼは、ピクリとも動かなくなった。
「……ふん、呆気ないものだな」
「どれほどのものかと思ってきたが、こんなものか」
二人の幹部が油断したように笑い合った——その瞬間。
「——随分と、楽しそうだな」
倒れていたはずのバルゼの声が、すぐ背後から響いた。
「なっ……!?」
二人が振り返ると、そこには傷一つない、涼しい顔のバルゼが立っていた。
「今のは、幻術だ。……お前たちに見せていた俺は、ただの幻に過ぎん」
「馬鹿な……!」
二人が動揺する間もなく、バルゼの両手に膨大な魔力が集中していく。
「これで終わりだ」
「ぐわあああっ!!」
「あああっ!!」
幹部が放った炎の10倍ほどの威力の業火が、二人の幹部を一気に飲み込んだ。
黒焦げになりながらも辛うじて意識を保つ二人に、バルゼは追い討つように何度も炎の弾を撃ち込み続けた。
「ま、待て……降参だ……!」
二人が悲鳴混じりに叫んだが、バルゼはその手を止めなかった。
「……まったく、手応えのない者どもだ」
冷たくそう呟きながら、バルゼは最後まで容赦なく炎の弾を撃ち込み続け、二人を完全に沈黙させた。
焼け焦げ、ぴくりとも動かなくなった二人を見下ろしながら、バルゼは羽を広げた。
「さて……こちらは終わったので、コウジロウ様達のところへ行きますか」
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