第二話:死活問題
……それから小一時間後。
ひとまず両陣営が持っていた大きめの天幕を繋ぎ合わせ、即席の会議用テントが設営された。
風でパタパタと揺れるテントの中、ランプの灯りを挟んで俺とガストン、バルゼの三人がテーブルを囲んでいる。
「集まってくれてありがとう、ガストン、バルゼ。……さて、これからのことなんだけど、まずはみんなが生き延びるために『衣・食・住』を考えたい。それぞれ今、どんな状態か把握できてる?」
俺が尋ねると、ガストンとバルゼは顔を見合わせ、重々しく頷いた。
「ハッ! まずは食料について報告いたします!」
ガストンが紙を広げる。
「我ら人間側が保持していた乾燥肉とパンと少しの野菜ですが、残りは全員で持ってあと2日分といったところであります」
「我が魔族側も同様です」とバルゼがため息を混じえて続ける。「食べられる分だけを精査すると、こちらも3日分持てば良い方かと……」
「なるほど……」
「次に住居ですが、このテント数基では狭すぎます。資材は近くの森や岩場で手に入りますが、家を建てるための道具や建築の知識が不足しております」
「最後に衣服や防具ですが……全員服も鎧も泥だらけで、予備の着替えなどありません」
ガストンとバルゼの報告を聞き終えた俺は、腕を組んでうーんと唸った。
「なるほどな……。まあ、衣は洗えばいいとして、食と住が死活問題だ」
俺は二人の顔をまっすぐに見つめた。
「食べるものがなくなったり、雨風に晒されて体調を崩せば命に関わる。まずはこのふたつを最優先で解決しよう。明日朝から、役割分担して作業に取りかかろう」
「「はっ!!」」
二人は背筋をピンと伸ばし、力強く頷いた。
「ところで……差し支えなければ、我らをお導きくださる神様のお名前をお伺いしても……?」
ガストンが少し恐縮した様子で尋ねてきた。
「神様……?」
「左様です。我々をあの暴君どもから救い出してくださった絶対神様のお名前を、我が胸に刻みたく……!」
目を輝かせる二人を見て、俺は苦笑いしながら首を振った。
「いや、俺は神じゃない。ただの人間だ。名前はコウジロウ。好きに呼んでくれていいよ」
「コ、コウジロウ様……!」「なんというおつつましいお方……!」
「(いや、謙遜じゃなくて本当にただの人間なんだけどな……)」
心の中でツッコミを入れつつ、俺はふと思い出した。
「(そういえば……あの生乾き臭い女神、自分の名前言ってなかったな。『私、女神』としか言ってなかったぞ。……まあ、あいつの名前はまた後で確かめるとして)」
俺は二人に向けて改めて言葉を続けた。
「とにかく、俺のことはコウジロウと呼んでくれ。さて、明日からの役割分担だけど、こう分けよう。ガストン、お前は戦闘慣れしている兵士を中心に率いて、近くの森や川で『食料の調達(狩猟・採集・水汲み)』を担当してくれ」
「承知いたしました、コウジロウ様! 精鋭を揃え、獲物をどっさり持ち帰ってみせます!」
「バルゼ、お前は岩場の石材や森の木材を集める『資材調達・設営班』を仕切ってくれ。力の強い壁男や小回りの利くゴブリンたちの力を借りて、ひとまず風雨をしっかり防げる大型の木造シェードや簡易ログハウスの建設を目指そう」
「お任せください。種族ごとの適材適所で、効率よく資材を集めさせます!」
「よし! ふたりとも頼もしいよ。……みんな腹が減って疲れてるだろうから、今夜は残りの食料で温かいスープでも作って、しっかり休んでもらおう」
俺がそう締めくくると、ガストンとバルゼは感極まったような目で俺を見つめた。
「……あ、温かいスープ……! 勇者は我々が食料を食べることを渋りほとんど与えてくれませんでしたのに……!」
「魔王様も『残飯で十分だ』と……! な、なんと温かいお心遣い……っ!」
「(いや、ただの普通の配慮なんだが……二人がどれだけ酷い環境にいたかが察せられるな……)」
俺は苦笑いしつつも、明日の開拓に向けて大きく息を吐いた。
「じゃあ決まりだ。明日から本格的な『村づくり』のスタートだぞ!」
「「「おーっ!!!!」」」
「「「コウジロウ! コウジロウ! コウジロウ!」」」
テントの外から地響きのようなコウジロウコールが起きていたが、俺は全力で聞こえないふりをした。
(神扱いだけは本気でやめてほしい……)
心の中でそっと祈りながら、こうして過酷な荒野でのサバイバルと、俺たちの新しい生活が幕を開けたのだった。
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