第十九話:約束の日
約束の期限日。
万が一村長が約束を反故にしていた場合に備え、ダグローズ率いる人間軍は、あの村を完全に包囲していた。
「隊列を組め! 一人も逃すな!」
指揮を執る兵士たちが号令をかけ、じわじわと村を取り囲んでいく。
そして、静まり返った村の中心では——ダグローズと、彼を守るように控える三人の幹部が、静かにその時を待っていた。
「……遅いな。まだ来ないのか」
ダグローズが苛立たしげに呟いたその時、包囲の先陣を切っていた一人の兵士が、慌てた様子でこちらへ駆け寄ってきた。
「ほ、報告いたします。一人も村人が見当たりません。どこかに逃げたようで……」
——その瞬間。
「あら、もういいわ、少し黙ってね」
幹部の一人、妖しく微笑む女が、そっと指先を兵士へ向けた。
「……っ!?」
兵士の全身が、みるみるうちに乾いた色へと変わっていく。
肌の潤いが失われ、まるで数十年も水を絶たれたかのように、みるみるうちに萎び、干からびていった。
「が……ぐ……」
声すら出せなくなった兵士は、そのままカラカラに乾ききった体で、静かにその場に崩れ落ちた。
ダグローズは無言のまま、目の前にあった村人の家を思い切り蹴り上げた。
ドゴォォンッ!!
老朽化した木造の家が、あっという間に瓦礫と化して崩れ落ちる。
「し、将軍……」
周囲の兵士たちが青ざめた顔で後ずさりながら、恐る恐る声をかけた。
ダグローズはそれには答えず、しばらく黙り込んでいたが——ふと、あることを思い出した。
(……そういえば、あのガキどもを攫った仲間からも、ここ数日連絡が途絶えたままだったな)
村の異変と、部下からの音信不通。二つの出来事が、頭の中で一つの線に繋がっていく。
「……俺たちの邪魔をしている奴がいる、ということか」
低く呟いたダグローズの口元が、次第に歪んだ笑みへと変わっていった。
「面白い。……探し出せ」
ダグローズの命令に、兵士たちが一斉に散っていく。
その傍らで、ダグローズはふと視線を落とし、地面に刻まれた轍の跡に目を留めた。
「……これは、馬車の痕跡か」
じっとその轍を見つめながら、ダグローズは顎に手を当てて考え込んだ。
「馬車で村人ごと運び出したとなると……商人の仕業か?」
その推測を口にしながら、ダグローズの視線は、轍が続く先——森の奥へと向けられていく。
——十日後。
「将軍、捕らえました」
兵士たちに縄で縛り上げられ、引きずられるようにして連れてこられたのは、あの商人エイチだった。
「い、いってぇな……乱暴だなぁ」
エイチはぼやきながらも、ダグローズの前に突き出されると、へらりと笑みを浮かべてみせた。
「これはこれは、ダグローズ様。……もしや、私と商談でもしていただけるので?」
とぼけた調子でそう言うエイチを、ダグローズは見下ろしたまま。
「……とぼけるな。お前が、猫獣人の村に行ったことは分かっている」
「はて。何のことでしょうか。私はただの行商人でして、色んな村を回るのが商売ですからねぇ」
エイチはあくまで惚けた態度を崩さなかった。
「……そうか」
ダグローズは短くそう告げると、傍らに控えていた幹部に目配せをした。
幹部の一人が、エイチに手を当てる。
「……あ? なんだ?」
「嘘をつけば、この手から電流が流れる。いつまで耐えられるかな」
「な——」
エイチが言い終わる前に、電流が放たれた。
「がああああっ!!」
全身を貫くような激痛に、エイチは体をくの字に折り曲げて絶叫した。
「もう一度聞く。猫獣人の村に行ったな?」
「し、知らねぇ……! 俺は本当に、何も——」
「そうか」
再び電流で体が光る。
「ぐああああっ!!」
苦痛に悶えながらも、エイチは歯を食いしばり、必死に口を閉ざし続けた。
それから何度も、何度も、問いと拷問が繰り返され、
意識は朦朧とした中、ついにコウジロウの存在について口を開いてしまった。
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