第十八話:村への帰還
出発の準備を進める中、俺はあることに気づいて後悔した。
(……ロクたちゴーレムを連れてきておけばよかったな)
拠点にいる馬車は、商人エイチのものが一台、そして俺たちが乗ってきたものが二台の、合計三台のみ。
村人全員が乗り込むには、到底足りない台数だった。
ちなみに、女神から貰った転移用の『魔法のドア』については、あえて持ってこなかった。
あの道具は、下手をすれば世界の在り方すら変えかねない代物だ。もし移動中に何かあって、万が一悪意のある者の手に渡ったりすれば、取り返しのつかないことになる。だからこそ、慎重を期して拠点に置いたままにしておいた。
「……仕方ない。子供たちと荷物を馬車に乗せて、あとは歩いて向かおう」
俺の提案に、コハクをはじめとする村人たちが頷いた。
タマたち子供と、必要最低限の荷物を馬車に積み込み、残りの大人たちは徒歩での移動となった。
——出発の朝。
村を出る前、村人たちは足を止め、しばらくの間、住み慣れた村を静かに見つめていた。
「……行ってきます」
「また、いつか帰ってこられますように」
誰からともなく、ぽつぽつと別れの言葉が漏れる。
長年過ごしてきた家々、痩せ細ってしまった畑、それでも確かに刻まれてきた思い出の詰まった土地。
そのすべてに背を向けるように、村人たちは一歩ずつ、拠点への道を歩き始めた。
帰りの道のりは、想定していたよりもずっと厳しいものだった。
長年の空腹と疲労で体力が落ちていた村人たちのペースに合わせながら進む必要があり、休憩を挟みながらの移動は、行きの倍近い——四日ほどの時間を要した。
「大丈夫か? 無理はしないでくれよ」
「はい……皆様のおかげで、なんとか……」
道中、俺たちは村人たちを気遣いながら、一歩一歩、着実に歩みを進めていった。
——そして、ようやく拠点が見えてきた頃。
「あ……! コウジロウ様たちだ!」
留守を預かっていたユキが真っ先に気づき、他の仲間たちを連れて全力で駆け寄ってきた。
「お帰りなさい! みんな、ご無事で……!」
「ただいま、ユキ。……ちょっと大所帯になったけどな」
俺が苦笑いしながら答えると、ユキは村人たちの姿を見て目を丸くした。
「わあ……こんなに!」
「リオと協力して、すぐにみんなを家に案内してもらえるか?」
「かしこまりました。食事の用意もします。」
「よろしく。」
拠点に到着した後、まず俺は商人エイチのもとへ向かった。
「エイチ、今回は本当に助かった。ありがとうな」
「なぁに、これも仕事のうちだ。……にしても、大所帯になったもんだな。今後うちを贔屓にしてくれると嬉しいねぇ。」
エイチは村人たちの様子を眺めながら、感心したように笑った。
「もちろん。これからも末長くよろしく頼む。」
右手を付き出して握手した。
「案内役としての役目は、ここまでで十分果たしてもらった。これで解散にしようと思うんだが……何か礼をさせてくれないか」
「礼、か。まあ、貰えるもんは貰っとくぜ」
そう言って笑うエイチに、俺はロクが開発した『お風呂の核』——あの露天風呂を作る際に使われた、水と炎の魔法を記憶させた魔導具の一つを差し出した。
「これ、持って帰ってくれ。設置さえすれば、どこでも温かい風呂が作れるらしいぞ」
「……こいつはとんでもない土産だな。爆売れする未来が見える。
今回は試供品としてありがたく頂くが、次この村に来た時には大量に発注させて貰うことになるかもしれないなぁ。」
エイチは魔導具をまじまじと見つめながら、感嘆の声を漏らした。
そう言い残し、エイチは軽い足取りで拠点を後にしていった。
一方、拠点に到着した猫獣人の村人たちは、ようやくたどり着いた安全な場所に、深い安堵の表情を浮かべていた。
「ここが……新しい村」
「温かい……」
用意された部屋に案内されると、長旅の疲れもあってか、村人たちは横になった途端、次々と静かな寝息を立て始めた。
久しぶりに訪れた、安心できる眠り。
その穏やかな寝顔を見守りながら、俺は静かに部屋の扉を閉めた。
「……ゆっくり休んでくれ」
こうして、俺たちはなんとか猫獣人を村に迎えることができた。
これからのことは明日考えよう。
そう思いながら俺も眠ってしまった。
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