第十六話:猫獣村のコハク
村の入り口に足を踏み入れた瞬間だった。
「……あ」
タマたち八人の姿に気づいた村人の一人が、目を見開いて立ち尽くした。
そして——
「タマ! ミケ! ムギ!」
一人の女性が悲鳴のような声を上げながら、家の中から飛び出してきた。
「お母さん……!」
タマが弾かれたように駆け出す。他の子供たちも、次々と自分の家族の姿を見つけては、我先にと駆け寄っていった。
「無事だったのね……! ああ、よかった、本当によかった……!」
抱き合い、泣きながら再会を喜ぶ親子の姿が、村のあちこちで広がっていく。
その光景を少し離れた場所から見守りながら、俺は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
(……本当によかった。)
——と、そこへ。
村の奥から、青ざめた顔の若い男が、荷物を抱えて息を切らしながら駆け寄ってきた。
「しょ、将軍様……! 今、お金と食料は用意しておりますので、もう少々お待ちください……!」
「……は?」
俺が思わず聞き返すと、男は震える手で荷袋を差し出しながら、なおも早口でまくし立てた。
「げ、月末までにと言われておりましたが、なんとかここまでかき集めて……ど、どうかこれ以上は……」
「いや、待ってくれ。俺たちは将軍じゃない」
「え……?」
男の動きがぴたりと止まった。
「俺たちは、攫われていた子供たちを保護して、ここまで送り届けに来ただけだ。将軍の使いでも何でもない」
「ほ、本当に……?」
村人たちも次第にざわめき始め、周囲から不安げな視線が集まってくる。
そこへ、村の奥から一人の女性が姿を現した。
二十代ほどの容姿の女性だった。
だが、村人たちが道を空けて頭を下げる様子から、彼女がこの村の村長であることが分かった。
「これ、控えなさい! ……申し訳ございません、皆様。人間の武装した集団と聞いて、てっきり例の将軍様の使いかと勘違いしてしまい……」
「いえ、驚かせてしまってすみません。改めて、俺はコウジロウと言います。こちらの子供たちを保護していた者です」
俺がそう名乗ると、村長は深々と頭を下げた。
「私はこの村の村長を務めております、コハクと申します。保護していただき本当にありがとうございます。」
「とんでもないです……それよりも何やら事情があるようですね。
この村で何が起きているのかを教えていただけますか」
俺がそう切り出すと、コハクは表情を引き締め、静かに頷いた。
「はい……すべて、お話しいたします」
——村長の家に案内された俺たちは、テーブルを囲みながら話を聞くことになった。
「改めてコウジロウ様、みなさま、タマ達を保護してくださりありがとうございました」
「それについては、俺たちも成り行きからだから気にしなくていいですよ。
それよりも将軍との関わりについて教えてもらえますか。」
「はい、あの子たちが攫われた数日後のことです。人間の将軍様の幹部を名乗る方が、村を訪れました」
コハクは当時を思い出すように、重い口を開いた。
「その方が仰るには……『攫われた子供たちを見つけて、必ず連れ帰ってやる。その代わり、対価として大金と大量の食料を用意しろ』と。今月中に用意すれば必ず連れ帰る、とのことでした」
「子は、村にとって何よりの宝です。お金や食料で戻ってくるのであれば、と……村人全員で、必死に掻き集めておりました」
コハクは静かに続けた。
「田畑の作物も、蓄えていた食料も、家財道具も……。それでも、あの子たちが帰ってくるならと」
その様子を聞きながら、俺は胸が締め付けられるような思いだった。
「その将軍の名前は……」
「はい。ダグローズ様、と名乗っておいででした」
その名を聞いた瞬間——
(——ダグローズ)
俺の中で、これまでの点と点が、はっきりと一本の線で繋がった感覚があった。
(拠点に来た誘拐業者どもが仕えていた将軍……あいつと同一人物か。……つまり、最初から)
「……コハクさん」
「はい」
「これはダグローズによる自作自演です。」
俺がそう伝えると、コハクは全てを察したように、静かに拳を握りしめた。
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