第十四話:魔族軍のステータス
翌朝、俺はユキのもとへ向かった。
ユキは朝ごはんをお腹いっぱい食べて満足げに椅子に座っていた。
「ユキ、ちょっといいか? 実は昨日、女神からステータスを見られるスキルをもらったんだ。見せてもらってもいいか?」
「もちろんです、コウジロウ様!」
(——ステータス)
【名前:ユキ】
【スキル:氷結術・水魔法・生活魔法】
【能力値】
筋力:30
敏捷:55
防御:50
魔力:380
体力:320
知力:55
「ユキ、魔力と体力がずば抜けてる……! すごいな」
「えへへ、水を操るには魔力も体力も必要なんです!」
ユキは大きな耳をぴょこぴょこと動かしながら、嬉しそうに笑った。
そんな話をしていると、どこからともなくロクがやってきた。
「あら、コウジロウ様。ステータスのお話、私も交ぜてくださいな」
「お、ちょうどよかった。ロクも見せてもらっていいか?」
「もちろんですわ。少々お待ちを」
そう言うなり、ロクは慣れた手つきで服の合わせに手をかけ始めた。
「いや、待て待て! そのままで大丈夫だから!」
俺が慌てて止めると、ロクは涼しい顔で答えた。
「あら、コウジロウ様にでしたら、どんなステータスでもお見せしますのに」
「そういうのじゃないから!」
隣で成り行きを見ていたユキが、頬を赤らめながら両手で顔を覆っていた。
「……ロクさん、たまにそういうところありますよね……」
【名前:ロク】
【スキル:精密加工・魔導回路刻印・土魔法】
【能力値】
筋力:55 敏捷:25 防御:420 魔力:72
体力:60
知力:207
「防御はイメージ通りだけど、知力も高いんだな」
「精密な加工には、緻密な計算が欠かせませんので」
ロクはしなやかに微笑みながらそう答えた。
そのまま、拠点の建築現場を仕切っていた他のゴブリンやゴーレム、悪魔族たちのステータスも一通り確認してみたが、それぞれ得意不得意がはっきりしているようだった。
(ゴブリンは魔力・体力寄り、ゴーレムは防御・知力寄り、悪魔族は魔力・知力寄り……。同じ魔族でも、種族ごとにけっこう違うもんなんだな)
——と、そこでふと思い出し、俺は集会所で遊んでいたタマ、ミケ、ムギたちを含めた八人の猫獣人の子供たちのステータスも確認してみることにした。
「あ、ちょっとみんなも見せてもらっていいか?」
「はーい!」
【名前:ミケ】
【スキル:——】
【能力値】
筋力:18 敏捷:150 防御:15 魔力:22
体力:25
知力:20
「……え、敏捷150!?」
思わず声を上げた。
残る七人のステータスも確認してみたが、揃って敏捷だけが突出して高く、それ以外の数値は20前後と、まだ幼さの残る子供らしい数値だった。
「……この歳でこの敏捷か。猫獣人は元々そういう種族なのか、それともこの子たちの素質なのか……」
俺はしばらく考え込んでから、八人の頭を順番にぽんぽんと撫でた。
「これから大きくなったら、とんでもなくすごくなるかもな」
「「「……!」」」
八人は顔を見合わせ、照れくさそうに、それでいてどこか誇らしげに笑った。
最後に、俺は建築現場から戻ってきたバルゼのもとへ向かった。
「バルゼ、最後にお前のも見せてもらっていいか?」
「もちろんです!ぜひ私のも見てください」
【名前:バルゼ】
【スキル:統率・魔力操作・交渉術】
【能力値】
筋力:103 敏捷:120 防御:350 魔力:480
体力:430
知力:380
「さすがバルゼ、全体的にトップクラスじゃないか」
「お褒めの言葉、感謝します」
バルゼは静かに、しかし誇らしげに頭を下げ、ニヤけた顔を戻してから頭を上げた
一通り魔族側のステータスを見終えた俺は、集会所のベンチに腰掛け、これまでの数字を頭の中で振り返った。
種族ごとに得意分野がはっきりと分かれ、そして誰もが、その分野において圧倒的な数値を持っていた。
「……勇者軍も魔王軍も、とんでもない人材の宝庫だったんだな」
俺は改めてそう呟いた。
かつて理不尽な扱いを受け、その能力を正しく評価されることのなかった仲間たち。
だが今、こうして数字として可視化されたことで、彼らがどれほど埋もれた才能を持っていたのかが、はっきりと形になった。
「……これからは、もっとこの力を、みんなの暮らしのために活かしていけたらいいよな」
夕暮れに染まりゆく空を見上げながら、俺はそんな思いを噛み締めるのだった。
——おまけ
ある日の朝
俺はふと思い立って、ルチアたちのもとを訪ねた。
「なあ、そろそろ女神像を立てようと思うんだけど……手伝ってもらえないか?」
「女神様の像ですか!」
ルチアとリオが目を輝かせる。
「ああ。みんなも見ていたと思うが、あのボサボサ髪で細くて、生乾き臭が漂ってくるような、ありのままの女神の姿を」
「かしこまりました! 忠実に描かせていただきます!」
ルチアとリオは張り切った様子で羊皮紙とペンを取り出し、俺の説明を聞きながら、あの日出会った女神の姿を丁寧に描き起こしていった。
やつれた頬、湿気で束になった髪、ボロボロの服。
「……こうして絵になると、改めてすごい姿だったんだな!これでいくよ」
「それでしたら、私達でロクさんに持っていきますね」
「あぁ、ありがとう」
ルチアたちは何かを企んでいるように見えたが気にしなかった。
(ここをこうして、こっちをああして…よしこれをロクさんに渡そう)
ロクは絵をじっと見つめながら、他のゴーレムたちと何やら相談を始めた。
「よし、資材は選りすぐりの白大理石を使おう」
——そして、数日後。
「コウジロウ様、女神像が完成いたしました!」
ロクの声に呼ばれ、俺は完成したばかりの像の前へと向かった。
白く輝く大理石の台座の上に、優雅に佇む一体の像。
透き通るような美しい髪、穏やかに微笑む神々しい表情、まとう衣は光を受けてきらきらと輝いている。
「……いや、誰だよこれ」
俺は思わずツッコミを入れた。
ボサボサの髪も、湿気にまみれた生活感も、どこにも存在しない。
そこにあったのは、誰がどう見ても「理想の女神様」そのものだった。
「ルチア……もしかして?」
「申し訳ございません、どうしても女神様をあのように作るのは良くないかと思い手直ししました。」
「そういうことだったか」
俺は納得した。同時に隣でルチアやリオ、そして他の住民たちが、目を輝かせながら像を見上げているのを見て、これはこれで悪くない気もしてくきた。
こうして、キラキラと輝く美しい女神像が、拠点の真ん中に堂々と据えられたのだった。
みんなが作業に戻っていった後、俺は一人、像の前に立った。
「……これからよろしくな」
そう声をかけながら、像の顔をじっと見上げる。
——気のせいか、その口元が、ほんの少しだけ柔らかく緩んだように見えた。
「……気のせいだよな」




