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異世界で100万人都市を作って、生乾き臭い女神様を元気にします!  作者: んひー


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第十二話:女神降臨

「うるさいわね。なかなかこの臭い、落ちないのよ」

その声を聞いた瞬間、俺の全身にゾワッと鳥肌が立った。

(この声……忘れるわけがない)

まばゆい光が徐々に収まっていく。


そこに立っていたのは——ボサボサの髪、ガリガリに痩せ細った体。

そして、あの日と変わらず漂う、部屋干し特有の生乾き臭。

「お前か……!」

俺は思わず声を上げた。


「久しぶりね、コウジロウ」

女神はふらつく足取りでこちらに近づきながら、気だるげに片手を上げた。

俺の中で、忘れかけていた怒りが一気に噴き出した。


「久しぶりねじゃないだろ! お前が急にこの世界に落としたせいで、俺は一回死にかけたんだぞ!?」

「あら、生きてるじゃない。結果オーライよ」

「結果オーライで済ませていい話じゃないんだよ!!」

俺が声を荒げるのを、周囲のガストンやバルゼ、ルチアたちは呆然と見守っていた。


「コ、コウジロウ様……あの方は、一体……」

ルチアが恐る恐る尋ねると、俺は苦い顔のままため息をついた。

「……この人が、俺をこの世界に送り込んだ張本人の女神様だよ」

「め、女神様……!?」

その場にいた全員が息を呑んだ。

だが、目の前の女神の姿を見て、誰もが微妙な表情を浮かべる。


——目の前にいるのは、とても「神々しい」とは言い難い、やつれきった女だったからだ。

「……あの、失礼ですが」

バルゼが恐る恐る、しかし律儀に尋ねた。

「本当に、女神様……でいらっしゃるのですか?」

「そうよ、文句ある?」

女神はムッとした顔で腰に手を当てた瞬間、ふらりとよろめいた。

「……っ、大丈夫か!?」

咄嗟に俺が支えると、女神は弱々しく俺の腕にもたれかかった。

「……はぁ。ごめんなさいね、まだ本調子じゃなくて」


近くで見ると、初めて出会った時よりは幾分マシになっているようだった。とはいえ、肌には乾燥が残り、疲労の色は隠しきれていない。

「……お前、なんでまたここに来たんだよ」

俺が尋ねると、女神は小さく息をついた。

「……この世界の生き物たちの『活気』が、ずっと足りなかったのよ」

「活気?」

「私は、人々が幸せに、笑顔で暮らすことで力を得る女神なの。だけど、この世界はどこもかしこも悲鳴や泣き声ばかりで……」


女神は俯きながら、ぽつぽつと語り始めた。

「あなたがここに村をつくってくれたおかげで……少し、元気になってきたの」

「……いや、別に村ってわけじゃないけど!?」

俺が思わず突っ込むと、女神はきょとんとした顔で首をかしげた。

「何を言ってるの。もう50人以上いるのだから、立派な村よ」

「そうなのか……」

謎の自信に圧され、俺は思わず言葉を詰まらせた。

「まあいいわ。とにかく——お礼、何が欲しい?」

「お礼……?」

「ええ。何か欲しいものはある?」

急に問われて、俺は面食らった。

「い、いや……急に言われてもな……」



——その後、周囲で成り行きを見守っていたガストンたちは困惑した様子だったが、

俺は少し込み入った話になりそうだと判断し、ひとまず女神と二人だけにしてもらうことにした。

自分の家に女神を招き、机を挟んで向かい合う。


「なあ、せっかくだからちょっと聞きたいんだけど」

湯気の立つコップを両手で包みながら、俺はずっと引っかかっていたことを尋ねた。

「この世界って、日本とは全く別の世界なんだよな?」

「そうよ」

「……ってことは、俺は向こうで死んだってことか?」

女神はお茶をすすりながら、なんとも気の抜けた調子で答えた。

「さあ、どうかしらね」

「どうかしらねって……」

「それは秘密よ」

「秘密て」

まともに答える気がまるでない様子に、俺は半ば諦めて口をつぐんだ。


「……はぁ、まあいいや。そんじゃ、お礼の件だけどさ」

「ええ、決まった?」

女神がようやく興味を持ったように身を乗り出した。

俺はしばらく考え込んだ末、ぽんと手を打った。

「……決まった。俺と、ここのみんなに対して、二つ欲しいものがある」

「二つ!? 一つのつもりだったのだけど……。まあいいわ、とりあえず言ってみなさい」

女神が眉を上げながらも促す。


「一つ目は……この世界、獣も敵対する勢力もかなり多いだろ? だから、相手の強さとか自分の状態を把握するための『ステータスを見るスキル』が欲しい」


「なるほどね。能力強化的なスキルはお断りしてるんだけど、ステータスを覗くくらいならいいわ」


「マジか、さすが女神"さま"」


「二つ目は……少し先の話になるんだが、

これから村がもっと大きくなっていけば、いずれ他の村や国と交易を広げていくことになると思うんだ。そうなった時、絶対に足枷になるのが『移動距離』だ」

「移動距離……」

「だから——誰でも一瞬で移動できる転移アイテムがあれば欲しい」

「それは無茶な要求ね」

女神はあっさりと切り捨てた。


「この世界、魔法は発達しているけど、転移できるものなんて限られてるわ。しかも、使えるのは本人だけ。それを『誰でも』使えるようにしろだなんて」

「……やっぱ無理か」

ダメ元だったので納得して次の提案をしようとした瞬間

「……まぁ、同じ魔道具間での移動なら、セーフかしらね。

「同じ魔道具間……?」

「ええ。片方の魔道具に触れて、もう片方の魔道具から出てくる……そういう対になったものなら、力技でなんとかできるわ」

「ドアとドアの間を移動できる、みたいな感じか?」

俺がそう言うと、女神はぱちりと目を瞬かせた。

「ドア? ああ、いいわね。分かりやすいわ」


(——まるでどこで○ドアだな)

その単語が喉元まで出かかったが、さすがに説明が面倒になりそうだと思い、俺は口を噤んだ。

「それでいい!助かる。その『ドア』を三つ欲しい」

俺がそう言うと、女神は目を丸くした。

「……ステータススキルはともかく、転移まで欲しがるとは思わなかったわ。あなた、意外と抜け目ないのね」

「抜け目ないっていうか……まあ、先を見据えてってやつだよ」


俺が苦笑いすると、女神はふっと小さく笑った。

「いいわ。……その二つ、用意してあげる。……ただし、今回は特別よ。次回からは一つだから」

「次回……? 次回もあるのか?」


俺が思わず聞き返すと、女神はゆっくりと立ち上がりながら答えた。

「そうね。女神像を立てて、村人をさらに増やしなさい。そうすれば、また近いうちに会えると思うわ」

「へ……」

「じゃあ、そろそろ帰るわね」

「あぁ、次来るときは服洗ってこいよ。」

「うるさい、これは湿気のせいなんだから……」


まばゆい光がぶわりと膨らみ、次の瞬間には——女神の姿は跡形もなく消えていた。

「っておい! まだ何も貰ってないぞ——!」

俺が慌てて立ち上がろうとした瞬間


女神が座っていた場所に木製のどこにでもありそうな三つのドアが、ぽつんと並んで置かれていた。

ということは、俺は頭の中で意識を集中させてみた。

(——ステータス)

念じた瞬間、視界の端にふわりと半透明のウィンドウが浮かび上がった。

ちょうど部屋の外を通りかかったミアの姿が視界に入り、その情報が自動的に表示される。

【名前:ミア】

【レベル:32】

【スキル:記録術・計算術】

【能力値】

 筋力:28 敏捷:32 防御:27 魔力:31

 体力:100

 知力:300


「これはすごい!レベルやスキルまで見れるのか!さすが女神"さま"」

——その瞬間。

「……ッ」

窓から差し込んでいた光が、一瞬だけふわりと強さを増し、俺の顔をぽかっと明るく照らした。

「……なんだ、今の」

俺は目を瞬かせながら、光の元を探るように窓の外を見上げた。


だが、空にはもう、あの光の欠片も残っていなかった。

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