第十一話:村人50人記念
【作者コメント】誤って十二話を先に公開してしまいました。すみません。
翌朝、後ろ手に縛られたままの六人は、集会所の一室に並べられていた。
すでに目を覚ましてはいたものの、昨夜の異様な威圧感の記憶がまだ体に染みついているのか、誰もが顔面蒼白のまま、身じろぎ一つできずにいた。
「コウジロウ様、尋問はこちらにお任せいただけますか」
朝一番、俺のもとを訪れた悪魔族の女性術士が、妖艶な笑みを浮かべながらそう申し出た。
「任せていいのか?」
「ええ、お任せください。私どもの得意分野ですので」
「……分かった、頼む。無理はしないでくれよ」
「ふふ、ご心配なく」
俺はそれだけ告げると、拠点の他の作業へと向かった。悪魔族たちに任せた以上、余計な口出しはしないでおこうと思ったのだ。
——それから半刻ほど経った頃。
作業の手を止めていた俺のもとへ、悪魔族の女性術士が静かに歩み寄ってきた。
「コウジロウ様、報告に参りました」
「おお、どうだった?」
「まず、あの子たち以外にも、まだ五人の獣人の子供が捕らえられているとのことです。場所は、ここから東へ数キロほど行ったところの洞窟だと」
「五人も……!」
俺は思わず声を上げた。
「はい。それと、もう一つ——」
悪魔族は表情を少し引き締めた。
「この密売の資金源を辿ったところ、人間界『第三将軍』——『鉄壁』のダグローズという者の名が出てまいりました」
その名を聞いた瞬間、傍にいたルチアがハッと息を呑んだ。
「……前にお伝えした厄介な将軍です」
ルチアが硬い声で呟いた。
「ダグローズ、か……」
俺が低く呟くと、悪魔族は淡々と続けた。
「ちなみに尋問は、私の魔法で行いました。少しずつ体が溶けていくもので、魔法を止めるつもりはなかったのですが、本人たちは怯えて色々と吐きましたので」
「……そうか。で、あの六人は今どうしてる?」
「はい。……六人は溶けて泥になりました」
「……そうか」
俺はそれだけ告げると、静かに頷いた。
「わかった。とにかく……洞窟の子供たちを助けに行こう」
俺はガストン、バルゼ、そして数人の兵士と魔族を連れ、東の洞窟へと急いでいた。
「コウジロウ様、こちらです」
崖の斜面に隠れるように口を開けた古い洞窟。近づくにつれ、鉄格子の軋む音と、微かな啜り泣きの声が聞こえてくる。
洞窟の奥、粗末な鉄格子の中には——猫の耳と尻尾を持つ子供たちが、五人。
いずれも先に保護した三人と同じように、痩せ細り、怯えた目でこちらを見つめていた。
バルゼが素早く鉄格子を素手で捻じ切りながら、静かに声をかけた。
「大丈夫だ、もう安全だぞ」
一人一人を優しく抱き上げていくバルゼの手つきに、鉄格子越しに堪えていた子供たちの目から涙が溢れ出した。
「よし……全員、拠点に連れて帰ろう」
俺の言葉に、ガストンたちが力強く頷いた。
——拠点に戻ると、先に保護していた三人が、俺たちの帰りに気づいて駆け寄ってきた。
「あ……!」
新たに保護された五人の姿を見て、三人は驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を綻ばせ、互いに駆け寄って手を取り合った。
「無事だったんだね……!」「よかった……本当によかった……!」
種族の垣根を越えて協力してくれた仲間たち、そして無事に合流できた同族の子たちに囲まれながら、三人はやがて俺の前に並んで立った。
先頭に立った少女が、目に涙を浮かべながら深々と頭を下げた。
「コウジロウさん……本当にありがとう。あの子たちまで、助けてくれて……」
「無理しなくていいよ。みんな無事でよかった」
俺がそう言って笑いかけると、少女はふるふると首を振った。
「あの……今まで、ちゃんと話せなくてごめんなさい」
「いいよ。……改めて、名前を教えてくれるかな?」
俺が優しく尋ねると、三人は互いに顔を見合わせ、一人ずつ、はっきりと名乗った。
「私、タマです」
「僕はミケ」
「……ムギ、です」
「タマ、ミケ、ムギ。……いい名前だな」
俺が一人ずつの顔を見ながら名前を呼ぶと、三人は照れくさそうに、それでいてどこか誇らしげに頬を緩めた。
その温かな空気に、周囲の仲間たちも笑みを浮かべ、拍手が沸き起こる。
——と、その時だった。
「……ん?」
ふと空を見上げた俺の視界に、小さな光の点が映った。
「……なんだ、あれ」
光は瞬く間に大きくなり、俺の目の前へ降ってきた。
まばゆい輝きに思わず目を細めながらも、俺はふと鼻をひくつかせた。
「……くんくん。……なんか、臭いな」
どこか懐かしい、忘れかけていたあの重苦しい湿った匂いが、光の中心から漂ってくる。
すると、光の奥から、聞き覚えのある不機嫌そうな声が響いた。
「うるさいわね。なかなかこの臭い、落ちないのよ」




