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第66話 父の声ではなく

 穴から出たあと、誰もすぐには立たなかった。


 石の上に、息だけが落ちている。


 水路の音は返ってきた。


 さっきまで聞こえなかった音が、今はうるさいほど近い。


 伊織は左手で縄を握ったまま、仰向けに倒れていた。


 手を開けない。


 開けば、また何かが抜け落ちる気がした。


 青い金具が、縄の途中で止まっている。


 傷だらけだった。


 黒く焦げたところもある。


 それでも、割れていない。


 ガルドの縄も切れていない。


 表面は毛羽立ち、何かに噛まれた痕が残っていた。


 だが、つながっている。


 戻る線は、まだあった。


 クロが伊織の顔をもう一度舐めた。


「やめろ」


 声はかすれた。


 クロはやめなかった。


 左前足を少し浮かせたまま、伊織の肩に鼻を押しつける。


 伊織は眉を寄せた。


「足」


 クロは知らないふりをした。


 アリアが膝をついた。


 顔色は白い。


 右手の固定具の端から、薄い熱が漏れている。


 それでも、クロの足を見ようとする。


 リナがその前に入った。


「座ってください」


「クロが」


「順番です」


 リナの声は硬かった。


 怒っているのではない。


 戻った者を、逃がさない声だった。


「あなたの手。クロの足。東さんの肩。ヴォルフさんの腕。全部見ます」


「私は後で」


「今です」


 アリアは言い返そうとして、やめた。


 左手を床につき、ゆっくり座る。


 クロはアリアの方へ行こうとして、足をついた瞬間に小さく止まった。


 伊織は体を起こす。


 左肩が裂けていた。


 外套の布が黒く濡れている。


 黒い水ではない。


 血だ。


 それならまだいい。


 ヴォルフが穴の縁に座り込んでいた。


 大きな体を壁に預け、息を整えている。


 腕には黒い線が走っている。


 鎖を受けた場所だ。


 骨刃は膝の上。


 刃ではなく、背が欠けている。


「生きてるか」


 伊織が聞く。


「骨はな」


「それ以外は」


「今、考える」


 ヴォルフは笑った。


 笑った直後に顔をしかめる。


「笑うと痛え」


「笑うな」


「無理だろ。戻ったんだぞ」


 その言葉で、アリアが顔を上げた。


 戻った。


 確かに戻った。


 だが、戻った場所はまだ山水路の中だった。


 安全ではない。


 それでも、底ではない。


 声が近づいてくる場所ではない。


 音が返る場所だ。


 伊織は立ち上がろうとした。


 膝が一度沈む。


 リナが見た。


「動かないでください」


「上へ戻る」


「処置してからです」


「ここでか」


「ここでです」


 リナは迷わなかった。


 鞄を開ける。


 包帯。


 布。


 薬草を潰した軟膏。


 細い針。


 火を通した小さな刃。


 伊織の肩に手を伸ばす。


「先にクロ」


 伊織が言った。


「クロはアリアさんが見ようとして悪化します。だから私が見ます。あなたは座ってください」


「俺は」


「座ってください」


 リナは伊織の左肩を指で押した。


 痛みが白く弾ける。


 伊織は黙って座った。


 ヴォルフが横で笑いかけて、痛みでやめた。


「いい判断だ」


「黙れ」


 伊織は短く言った。


 リナはもう聞いていない。


 クロの足を取る。


 クロは嫌がった。


 アリアが左手を伸ばす。


「クロ」


 それだけで、クロは止まった。


 リナが足を見る。


 黒い毛の間に、水に焼かれたような痕があった。


 深くはない。


 だが、熱を持っている。


「走れます」


 リナが言った。


「でも、今日は走らせません」


 クロは不満そうに鼻を鳴らした。


 アリアがほっとした顔をする。


 その顔が、すぐに歪んだ。


 右手の熱が強くなったのだろう。


 リナはクロの足に布を巻き、すぐアリアへ向いた。


「手を」


 アリアは差し出した。


 固定具を外す時、薄い煙のような熱が上がった。


 ヴォルフの顔から笑みが消える。


 伊織も見た。


 右手の皮膚が赤い。


 焼けているわけではない。


 だが、内側から火を持っている。


 リナは表情を変えず、濡らした布を当てた。


 アリアの肩が小さく震える。


「痛いですか」


「はい」


 今度は隠さなかった。


 リナの手が一瞬だけ止まる。


 それから、続けた。


「それでいいです」


 アリアはリナを見る。


「痛いなら、そう言ってください。熱いなら、熱いと言ってください。耐えた分だけ、戻るのが遅くなります」


「はい」


 アリアは素直に頷いた。


 リナは布を替える。


「焼けてはいません。けれど、これ以上は危ないです」


「もう、降りられませんか」


 リナは答えなかった。


 代わりに、固定具を締め直した。


「今は、上へ戻ります」


 その答えで十分だった。



 地上へ戻るまで、時間がかかった。


 急げなかった。


 アリアの足は遅い。


 クロは少し足を引きずる。


 ヴォルフは腕を庇っている。


 伊織の左肩からは、動くたびに血が滲んだ。


 それでも、誰も置いていない。


 主縄を回収する時、青い金具が一度、石に当たった。


 乾いた音。


 返ってきた。


 伊織はその音を聞き、金具を外した。


 表面に深い傷が入っている。


 戻るための道具は、戻るたびに傷つく。


 当たり前のことだった。


 石門の外へ出る。


 風があった。


 山の湿った匂いではない。


 町の匂い。


 煙。


 煮込み。


 遠くの人の声。


 アリアが外の光に目を細める。


 クロが短く吠えた。


 今度は、音がすぐ返った。


 宿の前には、老人がいた。


 杖を持っている。


 迎えには行かないと言った男が、今度は門の近くまで来ていた。


 伊織たちを見るなり、老人は口を開いた。


「遅い」


「戻った」


 伊織が答える。


「見れば分かる」


 老人の目が、全員を順に見た。


 アリアの右手。


 クロの足。


 伊織の左肩。


 ヴォルフの腕。


 リナの手。


 それから、伊織が持つ青い金具。


 老人の顔が変わった。


「道具を見せろ」


「宿で」


「ここでだ」


 老人はその場で手を出した。


 伊織は青い金具を渡す。


 老人は指で傷をなぞった。


 次にガルドの縄。


 毛羽立った部分を見て、眉を寄せる。


 名のない鉄片。


 リナは折れた二片を差し出した。


 ヴォルフはひび割れた鉄片を出した。


 伊織は腰の鉄片を外す。


 鳴らしても、もう音はなかった。


 老人は三つを掌に並べた。


 鳴らさない。


 見れば分かるのだろう。


「死んだな」


 老人が言った。


「音がか」


「ああ」


 老人は鉄片を握った。


 薄い鉄が、指の中でさらに割れた。


「もう降りるな」


 アリアが顔を上げる。


 老人はアリアではなく、伊織を見て言った。


「音がない。囮もない。戻る金具も傷んでいる。次に行けば、戻る道具から食われる」


「作り直せば」


 ヴォルフが言う。


「作れるものと、戻せるものは違う」


 老人の声は低かった。


「青い金具は直せる。縄も替えられる。だが、音はすぐには戻らん」


「なぜだ」


 伊織が聞く。


「名のない音は、作るものじゃない。残すものだ」


 老人は折れた鉄片を見た。


「何も刻まず、誰にも持たせず、長く置いた鉄がいる。水にも、名にも、手にも馴染んでいない鉄だ」


「在庫は」


「ない」


 即答だった。


「だから、もう降りるな」


 アリアは黒い山の方を見た。


 山は、昼の光の中では静かだった。


 何も呼んでいない。


 けれど、そこにある。


 父の印。


 縦穴。


 黒い歯車の本体。


 ゼクト。


 全部、まだ奥にある。


 リナがアリアの右手を支えた。


「宿へ戻ります」


 アリアは頷いた。


「はい」


 老人が伊織の左肩を見る。


「お前は先に縫え」


「後でいい」


「血が落ちてる」


 言われて初めて、伊織は足元を見た。


 石に赤い点が落ちていた。


 それは黒くない。


 自分の血だった。


 老人が鼻を鳴らす。


「黒い水じゃなくてよかったな」


「本当にそうですね」


 リナが言った。


 伊織は黙った。


 反論する余裕はなかった。



 南宿の広間は、昼を過ぎても人が少なかった。


 店主が奥の部屋を開けた。


 ミルダも来ていた。


 帳面を持っている。


 ドレイスはいない。


 そのことに、誰も驚かなかった。


「生きてるな」


 ミルダが言った。


「見れば分かる」


 ヴォルフが返す。


「分からん奴もいる」


 ミルダは帳面を閉じた。


「今日は書かない。先に手当てしろ」


 リナが一瞬だけミルダを見る。


 少しだけ頷いた。


「ありがとうございます」


「礼はいい。血を床に落とすな」


 店主が布を持ってきた。


 湯もある。


 老人が伊織の肩を見る。


 リナはアリアの右手を冷やしながら、老人に指示を出す。


「深さは」


「皮一枚じゃない。縫う」


「黒い水は」


「匂いはない」


「では洗ってください」


「分かってる」


 老人が不満そうに言いながらも、手は早い。


 伊織は椅子に座らされ、外套を脱がされた。


 左肩の裂傷が見える。


 鎖が掠めた場所だ。


 血は止まりかけている。


 だが、動けば開く。


 リナが横目で見る。


「動かないでください」


「動いてない」


「動きそうな顔です」


 伊織は黙った。


 針が入る。


 痛みが走る。


 左手は卓の下で握っていた。


 その手の中に、まだ拳銃の重さが残っている。


 二度、左手で出した。


 二度、撃った。


 次に同じ形が出るかは分からない。


 出たとしても、同じところへ当たるとは限らない。


 左手は、そういう手だった。


 今はまだ。


 伊織はその感覚を、誰にも言わなかった。


 言えば、使えるものとして数えられる。


 数えられた道具は、いつか使うことになる。


 今は、数えない。


 老人が糸を引く。


「痛むか」


「縫ってるからな」


「口は動くか」


「動いてる」


「なら死なん」


「雑だな」


「生きてる奴には雑でいい」


 リナがアリアの手を見ながら言った。


「雑では困ります」


「お前は細かすぎる」


「必要だからです」


「知ってる」


 老人は短く答えた。


 その声には、少しだけ柔らかさがあった。


 アリアは二人のやり取りを聞いていた。


 右手は布に包まれている。


 顔色はまだ悪い。


 それでも、目の焦点は戻っている。


 クロは足を巻かれ、アリアの椅子の下で不満そうに丸まっている。


 ヴォルフは腕の黒い線を布で拭いていた。


 痛そうな顔をしない。


 だが、いつもより口数が少ない。


 骨刃は壁に立てかけてある。


 背の欠けが目立つ。


 ミルダがそれを見る。


「その刃も手当てがいるな」


「刃じゃねえ。骨だ」


「なら、なおさらだ」


 ヴォルフは少しだけ笑った。


「お前、いいこと言うな」


「褒めるな。面倒だ」


 短い笑いが広間に落ちた。


 小さい。


 だが、音は返った。


 伊織はそれを聞いていた。


 返る音がある。


 ここにはまだ。



 夕方近く、ドレイスが来た。


 護衛はいない。


 外套の裾が濡れていた。


 雨は降っていない。


 伊織はその裾を見た。


 ドレイスも気づいたのだろう。


 何も言わず、入口で止まった。


 広間の空気が変わる。


 ヴォルフが立とうとする。


 腕の傷で少し遅れる。


 クロが唸る。


 リナはアリアの前から動かない。


 アリアは座ったまま、ドレイスを見た。


「来ましたか」


「はい」


 ドレイスは頭を下げた。


「入口の印が、黒く濡れました」


「知っています」


 アリアの声は静かだった。


「下まで降りました」


 ドレイスの表情が、わずかに変わった。


 それは驚きではなかった。


 恐れに近い。


「戻られたのですね」


「戻りました」


「黒い歯車は」


「本体は奥です」


 アリアは答えた。


「でも、父の声ではありませんでした」


 ドレイスは黙った。


 その沈黙は、逃げではなかった。


 聞いている沈黙だった。


「父の声を真似たものがありました」


 アリアは続ける。


「父の跡はありました。父がここにいたことも、たぶん本当です。でも、私を呼んだ声は、父ではありません」


 ドレイスはゆっくり頷いた。


「アルド様も、そう書いていました」


 アリアの指が動く。


 報告書。


 父の文字。


 読めば、もっと分かる。


 分かってしまう。


 リナがアリアを見る。


 伊織はドレイスを見る。


「持ってきたのか」


「はい」


 ドレイスは懐から紙束を出した。


 昨日より薄い。


 封は解かれていない。


「写しです。原本は局にあります」


 ミルダが立ち上がった。


「番所にも一部残す」


「構いません」


 ドレイスは紙束を卓に置いた。


 アリアはそれを見た。


 手は伸ばさない。


 長い沈黙だった。


 クロが椅子の下で身じろぎする。


 金具が小さく鳴った。


 アリアはその音で、少しだけ目を伏せた。


「今は、読みません」


 ドレイスの目が動いた。


「よろしいのですか」


「よろしいかどうかは、分かりません」


 アリアは言った。


「でも、今読むと、父を探すために読みます」


 誰も口を挟まなかった。


「私は、父の声ではないものに返事をしませんでした。父の跡を、全部父の言葉で埋めることもしません」


 右手の固定具が、布の中で少し鳴った。


 アリアは痛みに顔を歪めた。


 それでも、続けた。


「必要な時に、必要なところだけ見ます」


 ドレイスは紙束から手を離した。


「承知しました」


 ミルダが紙束を取る。


「では番所で預かる。読みたくなったら、私の前で読め」


「なぜですか」


 アリアが聞く。


「一人で読む顔じゃないからだ」


 アリアは少しだけ驚いた。


 ミルダは帳面を脇に抱える。


「町の厄介ごとは、町の帳面に残す。人の厄介ごとは、一人に背負わせない」


 店主が奥で咳払いした。


 照れ隠しのようだった。


 ヴォルフが小さく笑う。


 老人は何も言わない。


 伊織はミルダを見た。


 この町は、見て見ぬふりをする。


 だが、完全に見捨てる町ではない。


 だから、アルドもここに印を残したのかもしれない。


 答えは、まだ要らなかった。


 ドレイスがアリアを見る。


「一つだけ、伝えておきます」


「何ですか」


「アルド様は、黒い歯車を作ったのではありません」


 アリアの息が止まる。


 ドレイスは続けた。


「止めきれなかった。それが、報告書にある最初の一文です」


 アリアは目を閉じた。


 泣かなかった。


 怒らなかった。


 ただ、息をゆっくり吐いた。


「そうですか」


「はい」


「では、今はそこまでで」


 ドレイスは深く頭を下げた。


「はい」


 それだけで、会話は終わった。


 長くしなかった。


 長くすれば、また足が止まる。


 今は、戻った足を休ませる時だった。



 夜になった。


 広間には湯気があった。


 温かい汁。


 焼いたパン。


 柔らかく煮た肉。


 クロ用の小さな皿。


 ヴォルフは左腕だけで器用に食べている。


 リナはアリアの匙の持ち方を見ている。


 アリアは左手でゆっくり食べていた。


 少しこぼす。


 自分で拭く。


 リナは手を出さない。


 出せる位置にはいる。


 伊織はそれを見ていた。


 左肩は縫われた。


 右腕は重い。


 左手の中には、まだ銃の冷えが残っている。


 だが、匙は持てる。


 それだけで、今夜はよかった。


 老人が折れた鉄片を布の上に並べている。


 リナのもの。


 ヴォルフのもの。


 伊織のもの。


 どれも、もう鳴らない。


 老人はそれを捨てなかった。


「どうする」


 伊織が聞く。


「埋める」


「捨てないのか」


「音を食われた鉄は、捨てると迷う」


「迷う?」


「音が戻る場所を探す」


 老人は布を包んだ。


「宿の裏に、古い水路石がある。そこに埋める」


 アリアが顔を上げる。


「弔うのですか」


「道具だ」


 老人は言った。


「だが、戻してくれた」


 アリアは小さく頷いた。


「はい」


 その声は、礼だった。


 道具への。


 音への。


 戻ったことへの。


 伊織はガルドの縄を見た。


 傷んでいる。


 だが、返さなければならない。


 ガルドに。


 この縄は借り物だ。


 人も、道具も、借りたものは返す。


 戻るというのは、そういうことかもしれない。


 ヴォルフが肉を噛みながら言う。


「明日はどうする」


 老人が即答する。


「寝ろ」


「その次だ」


「寝てから考えろ」


「乱暴だな」


「生きて戻った奴は、まず寝る」


 店主が奥から酒瓶を出しかけた。


 リナが見た。


 店主は黙って戻した。


 ヴォルフが残念そうな顔をする。


「一杯くらい」


「駄目です」


 リナが言った。


 ヴォルフは肩を落とした。


 クロが小さく鼻を鳴らす。


 アリアが少し笑った。


 本当に少しだけだった。


 けれど、笑った。


 伊織はそれを見ないふりをした。


 南宿の外で、水路が鳴っている。


 音は返ってくる。


 穴の底の声ではない。


 町の水音だ。


 アリアは匙を置いた。


 左手を膝の上に戻す。


「父は、一人で降りました」


 静かな声だった。


 広間の音が少しだけ薄くなる。


「でも、私は一人では戻りませんでした」


 リナが目を伏せる。


 ヴォルフは器を置いた。


 クロがアリアの足元で耳を動かした。


 伊織はアリアを見る。


 アリアも見返した。


「だから、父と同じ道ではありません」


 その言葉は、誰かを否定するためのものではなかった。


 アルドを責めるためでもない。


 ただ、自分の足元を確かめる言葉だった。


 伊織は頷いた。


「ああ」


 アリアは山の方角へ目を向けた。


 窓の外は暗い。


 山は見えない。


 見えなくても、そこにある。


 父の印も。


 黒い歯車の本体も。


 ゼクトも。


 まだ、終わっていない。


 だが、今夜は追わない。


 アリアはゆっくり息を吐いた。


「戻りましょう」


 伊織は聞き返さなかった。


 どこへ、とは言わない。


 もう分かっている。


 リナがアリアの右手を包み直す。


 ヴォルフが骨刃を壁から取る。


 クロが足を引きずりながら、アリアの椅子の横へ来る。


 店主が空の器を下げる。


 老人が折れた鉄片を布に包む。


 ミルダは番所へ持ち帰る紙束を抱えて、戸口に立っている。


 誰も急がない。


 今度は、止まったわけではない。


 戻るために、息を整えている。


 南宿の外で、水路が鳴った。


 音は、ちゃんと返ってきた。


 アリアはその音を聞いて、目を閉じた。


 父の声ではない。


 それだけは、もう分かっていた。


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