第108話 補給路
食堂を閉める作業は、戦闘の準備より静かだった。
扉の横に掛けていた木札を外し、窓の内側へ板を打ちつけ、棚の皿を布で包む。火を落とした厨房からは、昨日まで壁や床へ染み込んでいた香辛料と油の匂いだけが残っていた。
リナは最後まで何も言わなかった。
大鍋の中身を避難所へ運ぶため、小さな鍋へ分け、蓋を紐で縛っていく。手つきは普段と変わらない。だが、空になった棚を見るたびに、指がわずかに止まった。
「戻れるよね」
鍋を持ち上げたまま、リナが言った。
伊織は返事を急がなかった。
勝てるとは言える。
守るとも言える。
しかし、食堂が同じ形で残る保証はなかった。
「戻る」
だから、場所ではなく自分たちのこととして答えた。
リナは一度だけうなずいた。
「じゃあ、鍵は預ける」
差し出された鉄の鍵を、伊織は左手で受け取った。
右腕は布で胸へ固定されている。肩の腫れは引いていない。アリアからは、二日は武器を構えるなと言われていた。
伊織は鍵を外套の内側へ入れた。
軽いはずの鉄が、妙に重かった。
「なくさないでよ」
「善処する」
「なくす人の言い方だね」
「撃たれても残る場所に入れた」
「撃たれない努力をして」
それだけ言うと、リナは鍋を抱え、避難所へ向かった。
伊織は閉じた扉をしばらく見ていた。
窓の板。
消えた灯り。
誰もいない店内。
静かになった食堂は、守るべき場所というより、すでに失われたもののように見えた。
「東さん」
背後からアリアに呼ばれ、伊織は振り返った。
「時間です」
「ああ」
食堂の裏手には、ヴォルフ、ニコ、リゼル、クロが待っていた。地面には町の地下構造を描いた複数の図面が広げられている。
正確な地図ではない。
古い排水路。
現在の井戸。
町が造られる前から残る通路。
その上へ、ニコが記録した白い導線の方向を重ねている。
線は六本。
地下中継施設から伸び、そのうち一本が第一観測所へ向かっている。
「塔へ続く導線は、北東の排水路と途中まで重なる」
リゼルが図面を指でなぞる。
「ただし、その先は壁の中へ入る。地上から掘り返せば見つかるかもしれないけれど、町の東区画を半分壊すことになる」
「住民は避難させた」
ヴォルフが言う。
「建物を壊していいとは言っていない」
「町が消えるよりはましだ」
「壊した場所から地下へ力が漏れれば、何が起きるか分からない」
リゼルとヴォルフの視線がぶつかる。
伊織は図面を見たまま口を挟んだ。
「地上からは掘らない」
「では、地下から向かうの?」
「導線そのものを追う」
「壁の中だと言ったでしょう」
「壁の中へ入る前に分岐を見つける」
ニコが記録板を開いた。
「中継施設では、塔へ向かう導線だけが他より強く発光していました」
「兵器が起動したあとだな」
「はい。それまでは、町の中央へ伸びる線と同程度でした」
「使用量で明るさが変わる」
「おそらく」
伊織は採石場で見た光景を思い出した。
古代兵器の背中から伸びる白い線。
地中から供給された力。
あれは遠距離から魔力を送る、見えない通信ではなかった。
物理的に繋がっている。
管か。
線か。
あるいは、地中そのものへ刻まれた回路。
「切れば止まると思うか」
ヴォルフが尋ねる。
「切り方次第だ」
「切るだけでは駄目なのか」
「水路を剣で切っても水は止まらない。漏れるだけだ」
「魔力が漏れる?」
アリアが図面を見下ろす。
「それだけではありません。流れている量が大きければ、周囲の術式が破裂する可能性があります」
「なら、止める場所がいる」
伊織は図面の一点を指した。
中継施設と塔の中間。
古い排水路と白い導線が交差する場所。
「ここに何がある」
リゼルが別の図を広げる。
「旧東門の地下。町の拡張前は、外壁の基礎があった場所よ」
「空間は」
「記録では保守用の小部屋が一つ。ただし、百年以上前に塞がれている」
「理由は」
「崩落」
「本当に?」
リゼルの目が細くなる。
「何が言いたいの」
「保守用の部屋と導線が同じ位置にある。偶然かもしれない。だが、古い設備を隠すために埋めた可能性もある」
「誰が?」
「ヴェルナーか、その前にいた連中だ」
アリアが顔を上げた。
「ヴェルナーへ聞きますか」
「通信機は」
「先ほどから反応がありません」
リゼルが焼けた金属箱を取り出した。
透明な石は暗い。
呼びかけにも応じない。
観測所が通信を遮断したのか、ヴェルナーが自ら切ったのかは分からなかった。
「自分たちで見る」
伊織は図面を畳んだ。
「全員で行くのか」
ヴォルフが問う。
「俺、アリア、クロ。ニコとリゼルは地下中継施設で流れを見る」
「俺は」
「地上だ」
「またか」
「町の避難を指揮できるのはお前だけだ」
「便利な言葉だな」
「剣より役に立つ仕事だ」
ヴォルフは不満を隠さなかったが、反論はしなかった。
先の二度の戦いで、町の兵では古代兵器を止められないことは誰より理解している。だからこそ、避難を維持する者が必要だった。
「敵が町へ来た場合は」
「鐘を鳴らして西門から退避。戦うな」
「お前たちが地下にいる間でもか」
「特にそのときだ」
「分かった」
ヴォルフは剣の柄へ手を置いた。
「ただし、地下から何か出てきたら呼べ」
「呼ぶ前に逃げろ」
「それは聞けん」
「知ってる」
伊織たちは再び旧井戸から地下へ入った。
白い導線は前より強く輝いていた。
壁の継ぎ目。
床の溝。
天井を走る細い亀裂。
あらゆる場所に光が流れ、町の下に巨大な血管が広がっているようだった。
アリアが先頭に立ち、掌を壁へ近づける。
「流れは塔へ集中しています」
「速度は」
「採石場にいたときより遅いです。兵器への供給が止まっているのでしょう」
「待機中でも流れてる」
「次の個体を造っている可能性があります」
遠くから、打撃音が響いていた。
一定の間隔。
鋼鉄を打つ音。
昨日より速い。
「急ぎましょう」
アリアの声に焦りが混じる。
「走らない」
「分かっています」
「焦ると見落とす」
「あなたに言われたくありません」
「今日は銃を持ってない」
「それで無茶をしない保証にはなりません」
伊織は左手を開いた。
黒い粒子が集まり、小型の照明と細い金属棒が現れる。
銃ではない。
VR装備として使っていた探査用の測定具だった。地雷、罠、古い機構を調べるための簡素な装置で、攻撃能力はない。
「それは?」
「内部を調べる」
「肩を使わない武器ではなく、肩を使わない道具を選んだのですね」
「感心したか」
「少しだけ」
クロが先へ進み、床の匂いを嗅ぐ。
途中で何度か立ち止まり、壁へ鼻先を向けた。白い線が明滅するたび、耳が動く。
伊織はその反応を観察した。
「クロには音が聞こえてる」
「導線の?」
「たぶん。光が強くなる前に反応してる」
アリアはクロの横へしゃがみ込んだ。
「どちらが塔ですか」
クロは右の通路を見る。
「こちらですね」
「前に来たときは中央を選んだ」
「今は流れを追っているのでしょう」
「使えるな」
クロが振り返り、不満そうに鼻を鳴らした。
「褒め方が悪いです」
「頼りになる」
今度は小さく尾が動いた。
地下中継施設へ着くと、リゼルとニコを残した。
中央の柱は前より明るく、六本の導線のうち、塔へ向かう一本だけが白く焼けるように輝いている。
「変化があれば合図を」
ニコが尋ねる。
「どうやって」
「通路の灯りを二度消してください」
「消せるのか」
「アリアさんが流れへ干渉すれば、一瞬だけなら」
アリアが柱を見る。
「可能です。ただし、観測所に気づかれるかもしれません」
「危険ならやるな」
「連絡が必要なほど危険なときに、危険だから使わないのですか」
「正論だな」
伊織はリゼルへ図面を渡した。
「流れが急に増えたら、すぐ戻れ」
「あなたたちを待たずに?」
「待つな」
リゼルは図面を受け取り、少しだけ笑った。
「それを守ると思う?」
「守らないなら、最初から連れてこない」
リゼルの笑みが消える。
「分かったわ」
伊織、アリア、クロは塔へ向かう通路へ入った。
通路は途中から狭くなった。
壁は灰色の人工材から、古い石積みへ変わっている。それでも白い導線は途切れず、石の内側を流れていた。
伊織は測定具の先端を壁へ当てた。
反応は弱い。
少し移動。
強くなる。
また弱まる。
導線は真っ直ぐではない。
壁の内部で蛇行している。
「切断しにくくするためか」
「自然に形成された流れでは?」
「自然なら保守用の部屋はいらない」
進むにつれ、空気が乾いていく。
湿った地下水の匂いが薄れ、代わりに金属と古い灰の臭いが強くなる。
クロが止まった。
前方。
崩れた石で塞がれた通路。
図面にあった旧東門の保守区画だ。
「ここですね」
アリアが壁へ手をかざす。
「向こう側に空間があります。導線も、ここで一度集まっています」
「壊せるか」
「石だけなら」
「導線へ触れないように」
「難しい注文です」
「できるだろ」
「……できます」
アリアは双剣を抜かなかった。
右手を石壁へ向け、左手で風を細く絞る。
空気が一本の刃になる。
石と石の隙間へ入り込み、内部の砂と土だけを少しずつ削り取った。
大きく壊さない。
崩さない。
固定を緩め、外せる石だけを見つける。
伊織は左手で石を一つずつ取り除いた。
右腕が使えないため時間はかかったが、無理に力を掛けるより安全だった。
穴が広がる。
人一人が身体を横にすれば通れる程度。
先にクロが入った。
低く唸る。
「何かいる?」
アリアが尋ねる。
クロは答えず、奥を見ている。
伊織は照明を穴の中へ向けた。
保守区画は狭かった。
四方を灰色の壁に囲まれ、中央に円筒形の設備が立っている。高さは人の胸ほど。上下から白い導線が入り、内部で複数に分かれていた。
分岐器。
あるいは、弁。
「当たりだ」
伊織は穴を抜けた。
アリアも続く。
円筒の表面には、細い溝と古い文字が刻まれている。下部には黒く焦げた跡があり、その周囲だけ石床が新しく補修されていた。
「ここでも爆発が」
アリアがしゃがみ込む。
「ヴェルナーだ」
「断言できるのですか」
「爆破痕の形が同じだ」
地下中継施設で見た破片入り爆薬。
こちらは規模が小さい。
円筒を完全に壊すためではなく、一部だけを損傷させた痕跡に見える。
「切ろうとした」
「失敗したのでしょうか」
「違う」
伊織は焦げ跡の位置を指でなぞった。
円筒の下部。
導線が合流する直前。
爆発は外側へ向けてではなく、床の一部だけを吹き飛ばしている。
「中を見ようとした」
伊織は測定具を焦げた部分へ当てた。
強い反応。
警告表示が点滅する。
「今も大量に流れています」
アリアが円筒へ近づく。
「触るな」
「分かっています」
彼女は手を止め、目を閉じた。
魔力を直接流し込まず、周囲の空気に残る揺らぎだけを読む。
「内部に複数の層があります。外側の殻。流れを安定させる層。その内側に……」
アリアの眉が寄る。
「何だ」
「空洞です」
「管か」
「いいえ。何もない空間を、力だけが通っています」
伊織は円筒を見る。
導線ではない。
少なくとも、金属線や管を通しているわけではない。
外殻が空間を固定し、その中へ力を流している。
「切るだけじゃ漏れないな」
「空間そのものが崩れます」
「何が起きる」
「分かりません」
「爆発は」
「可能性があります。流れが別の場所へ跳ぶかもしれません」
「塔以外へ?」
「近くにある同種の導線へ」
町の中心。
地下中継施設。
残る四本。
無闇に壊せば、塔へ送られる力が町の別の場所へ流れ込む。
「止める弁があるはずだ」
「どこに?」
「ここが保守区画なら、切らずに止める方法がある」
伊織は円筒の表面を調べた。
溝。
刻印。
継ぎ目。
どれも装飾ではない。
円筒を三層に分け、それぞれが別方向へ回転できる構造になっている。
「回すのか」
「力を加えれば壊れます」
「順番がある」
古い文字は読めない。
だが、刻印の配置には規則があった。
上段に六つ。
中段に三つ。
下段に一つ。
六本の導線。
三つの機能。
一つの供給源。
「六、三、一」
伊織がつぶやく。
「何ですか」
「観測所の構造と同じだ」
「どういう意味です」
「外から内へ絞ってる。六本から三つの機能へ、最後に一つの兵器へ送る」
「なら、止めるには逆?」
「一、三、六」
伊織は下段へ手を伸ばした。
アリアが腕を掴む。
「触らないでください」
「調べるだけだ」
「あなたの『調べる』は信用できません」
「俺も自分を信用してない」
「では、なおさら駄目です」
アリアは伊織の前へ立った。
円筒と伊織の間を塞ぐ。
「私が魔力の変化を見ます。あなたは指示だけしてください」
「危険だ」
「あなたが触るよりは安全です」
「根拠は」
「少なくとも、私は両腕が動きます」
伊織は黙った。
反論できない。
「下段を、少しだけ右へ」
アリアは円筒へ直接触れず、風を薄く巻きつけた。
下段の輪へ均等に力を掛ける。
動かない。
「もう少し」
「壊れます」
「止めろ」
すぐに風が消える。
伊織は焦げ跡を見た。
ヴェルナーは、ここを爆破した。
回せなかったからではない。
外殻を開き、内部へ別のものを入れようとした。
「鍵がいる」
「食堂の?」
「違う」
伊織は焦げた部分へ測定具を差し込んだ。
内部で何かに触れる。
金属ではない。
硬い石のような感触。
先端を動かすと、円筒の表面に一瞬だけ白い文字が浮かんだ。
日本語だった。
『権限照合』
アリアには読めない。
伊織は息を止めた。
続いて、別の文字。
『登録者不在』
「ヴェルナーが触った跡だ」
「何が見えたのですか」
「使う人間を選んでる」
『代替照合を開始』
白い光が測定具を伝い、伊織の左手へ走った。
「離れて!」
アリアが伊織の腕を掴む。
だが、光はすでに皮膚の上へ広がっていた。
痛みはない。
冷たい。
指先から腕へ、血管を逆流するように進んでくる。
クロが激しく吠えた。
円筒の表面に、新しい文字が浮かぶ。
『同系統兵装を確認』
地下の古代兵器と同じ言葉。
伊織の鋼鉄の具現を識別している。
『過去登録者との一致率、六十八』
「東さん、手を離してください!」
「離れない」
「なぜです!」
「ヴェルナーと照合してる」
アリアの表情が変わる。
『代替権限を一時付与』
円筒の三つの層が、低い音を立てた。
下段が回る。
続いて中段。
最後に上段。
一、三、六。
白い導線の光が弱まった。
「止まった?」
「完全には」
アリアが魔力の流れを読む。
「塔へ向かう量が半分以下になっています」
遠くで響いていた打撃音が遅くなる。
間隔が伸びる。
鋼鉄を打つ音が、一度。
長い沈黙。
もう一度。
「成功だ」
伊織が測定具を抜こうとした。
抜けない。
白い光が左手を固定している。
『一時権限の継続条件を確認』
文字が変わる。
『接続者の生命反応を供給源として登録』
アリアが息を呑んだ。
「何と書いてあるのです」
伊織は答えなかった。
円筒から伸びた光が、腕を伝って胸へ入ってくる。
吸われている。
魔力ではない。
もっと深い。
身体を動かすための力そのものが、ゆっくりと抜けていく。
膝が崩れた。
「東さん!」
アリアが身体を支える。
クロが円筒へ飛びかかろうとする。
「クロ、待て!」
黒い身体が止まる。
「触るな。繋がる」
アリアが伊織の左手を両手で包んだ。
「切ります」
「壊すな」
「あなたが死にます」
「まだ死なない」
「それを決めるのはあなたではありません!」
アリアの魔力が流れ込む。
背中からではない。
左手を通して、円筒へ吸われる力を押し返す。
白い光が強く明滅した。
『複数生命反応を確認』
「やめろ、アリア」
「嫌です」
「お前まで繋がる」
「あなた一人に払わせるよりはましです」
「これは作戦じゃない」
「なら、今から作戦にします」
アリアは歯を食いしばり、円筒を睨んだ。
「止める方法を考えてください。あなたの仕事でしょう」
伊織は薄れていく意識の中で、円筒の刻印を見た。
一。
三。
六。
流れを止める順番。
だが、一時権限を解除するには、別の操作が必要だ。
ヴェルナーはここを爆破した。
照合を受けたあと、逃れるために。
焦げ跡は、内部を調べるためではない。
接続を切るためだった。
「焦げた場所」
「どこです」
「下、左から二つ目」
アリアが風を集める。
「壊します」
「表面だけだ。中へ通すな」
「細かい注文ばかりですね」
「得意だろ」
「今は褒められても嬉しくありません」
風の刃が走った。
円筒下部の外殻だけを切り裂く。
隙間が開く。
内部に、白い石が見えた。
伊織は測定具を捨て、左手を隙間へ入れた。
「東さん!」
石を掴む。
冷たい。
強く引く。
動かない。
アリアの手が伊織の手へ重なる。
二人で引いた。
クロが伊織の外套を咥え、後ろへ身体を引く。
石がわずかに浮く。
『権限接続の異常を確認』
「もう一度!」
アリアの風が背中から押す。
伊織は左腕へ残った力をすべて込めた。
白い石が外れた。
光が消える。
三人の身体が後方へ倒れ込んだ。
円筒の内部で、何かが空回りする音が響いた。
塔へ向かう導線が暗くなる。
完全に止まった。
同時に、地下全体が大きく震えた。
天井から砂が落ちる。
遠くで、金属が軋む。
「走れ」
伊織は立ち上がろうとした。
足に力が入らない。
アリアが腕を肩へ回す。
「私が運びます」
「無理だ」
「話している時間が無駄です」
クロが先へ出る。
保守区画の外で、白い導線が次々と消えていく。
だが、塔の方角からは別の音が近づいていた。
足音。
四本ではない。
細かく、速い。
壁の向こうを、何十もの金属脚が走っている。
「向こうも気づいた」
伊織が言う。
「何が来ます」
アリアの問いに答える前に、塞いだ石壁の向こうで赤い光が灯った。
一つ。
二つ。
三つ。
人間の腰ほどの高さ。
狭い地下通路を進むために造られた、小型の個体。
壁を隔てたまま、金属音が増えていく。
伊織は動かない右腕を見た。
左手には、円筒から抜き取った白い石。
銃を構えることはできない。
それでも、口元がわずかに上がった。
「補給を切った」
アリアが双剣を抜く。
「ええ」
クロが低く身を沈める。
石壁の隙間から、細長い金属の爪が突き出した。
「今度は、こっちの番だ」




