表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホテルの使い方〜観光はそこそこにホテルでまったり過ごしたい〜  作者: 一年目の平凡な中小企業の社長


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/29

第23話:なにわ一水③

「さあ、着いたよ。やっぱり空港から近くていいね」  


 マークXを駐車場に止め、外に出ると、そこはもう異界の入り口だった。


「わあ、鬼太郎の銅像がいっぱい! ツカサ、あっちにはねずみ男がいるよ!」  


 サトミが子供のように声を弾ませる。


「水木しげる記念館があるみたいだね。行ってみようか」


「うん、行きたい!」  


 笑顔で頷くサトミと一緒に、僕たちは不思議な静寂に包まれた館内へと足を踏み入れた。


「ツカサ、見て! 鬼太郎の原画がこんなにたくさん……あ、ツカサ、これ! 鬼太郎と背くらべができるよ」  


 展示の前で楽しそうにはしゃぐ彼女を見て、僕は自然と目を細めた。


「サトミ、本当に楽しそうだね。……うん、来てよかった。僕も小さい頃にアニメで観たことはあるけど、漫画の原画は初めてだ。これは貴重だね」


 妖怪たちの世界を堪能しているうちに、潮風とともに空腹がやってきた。


「ちょっとツカサ! そろそろお腹空いてきたよ」


「あ、そうだね。じゃあ、近くの『和泉いずみ』で海鮮丼を食べよう」


「賛成! そこ行こう!!」


 お店に着くと、平日の昼下がりということもあって、行列に捕まることなく席へ案内された。


「どれも美味しそう……私、普通の海鮮丼にしようかしら? でも、この『味覚丼』も捨てがたいわ……」  


 メニューを凝視するサトミを横目に、僕は決めていた。


「僕は潔く、海鮮丼にするよ」 「じゃあ、私も一緒のにする!」


 運ばれてきた器を見て、サトミが感嘆の声を漏らした。


「わあ……! きた! すごいよ、これ、宝石箱みたい!」  


 艶やかに輝く地元の魚介が、これでもかと盛り付けられている。


「境港の海鮮は裏切らないからね。……いただきます」


 二人はしばし言葉を忘れ、黙々と北の海の恵みを堪能した。  食後、サトミは満足げに息をつきながら、再び『るるぶ』を開く。


「次は……いよいよ、出雲大社ね!」


「その前に、稲佐いなさの浜は行かなくていいのかな? あそこも神聖な場所だよ」


「あ、そうね! それもセットで行かなきゃ」



 マークXに乗り込み、エンジンをかける。  出雲へ向かう道中、僕たちの前にはあの有名な急勾配――『ベタ踏み坂』が待ち構えていた。


「あっ、ベタ踏み坂の手前まで来たよ」  


 境港の街を抜け、視界が開けた瞬間、僕はアクセルを緩めた。フロントガラスの向こう、江島大橋が信じられないような角度で空へと突き刺さっている。


「……うそ、本当にあれを登るの? 本当に『ベタ踏み』しなきゃダメなの?」  


 サトミが不安そうに、けれど興奮を隠せない様子で身を乗り出した。


「結構、勾配がキツそうだね……」


「すごい! これ、本当にツカサ行けるの? この車で大丈夫? ツカサのいつものポルシェじゃないと無理じゃない?」


 サトミの必死な心配に、僕は思わず吹き出した。


「あはは、多分大丈夫じゃないかな。テレビのCMなんかで有名になったけど、実際は遠近法のマジックなんだよ。……とはいえ、こうして目の当たりにすると、やっぱりすごい迫力だね」


 シルバーのマークXは、僕の足の動きに忠実に、グングンと坂を登り始めた。エンジンの回転数が上がり、シートにわずかな重力がかかる。


「わあぁ……! 景色がすごい! 空しか見えないよ!」  


 頂上に達した瞬間、視界を遮るものが消え、青い世界が広がった。


「いい眺めだね。この坂を越えれば、いよいよ島根県だ」


「私、初めて来たけど……鳥取も島根も、本当になんて素敵なところなの!」  


 サトミは車窓に張り付くようにして、移りゆく景色を追いかけている。坂を慎重に下りきると、左手には鏡のように穏やかな水面が見え始めた。


「見て、サトミ。あれが宍道湖だよ。今日泊まる宿は、あの湖が一番綺麗に見える場所にあるんだ」


「あの広いのが宍道湖……。なんだか、空と繋がってるみたい」


 マークXの静かなエンジン音とともに、僕たちは水辺の街・松江へと滑り込んでいく。  神々の気配をかすかに含んだ風が、車内へと流れ込んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ