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ホテルの使い方〜観光はそこそこにホテルでまったり過ごしたい〜  作者: 一年目の平凡な中小企業の社長


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第22話:なにわ一水②

 高度が安定し、ポーンという音とともにベルト着用サインが消えた。


「あ、サインが消えたね」


「本当だ。空の旅が本格的に始まるって感じ」  


 サトミが窓の外の青空に目を細める。そんな彼女に、僕は微笑んで付け加えた。


「そろそろ機内食が配られるよ」


「えっ? 国内線なのに機内食が出るの?」  


 驚く彼女の元へ、プレミアムクラス担当のCAさんが優雅な所作で近づいてきた。


「お飲み物はいかがなさいますか?」


「僕はコーヒーを」


「私は、温かい紅茶をお願いします」  


 注文を終えると、ほどなくしてトレイに乗った食事が運ばれてきた。


「わあ……! 飛行機の中でご飯を食べるなんて、初めてかも」


「プレミアムクラスだと、時間帯によってメニューが変わるんだ。今は軽食の時間だけど、それでも結構しっかりしているよ」  


 トレイの上には、色鮮やかなサンドイッチがきれいに並んでいた。


「あ、これサンドイッチだね! 美味しそう」


「そうだね。まずは温かいコーヒーで一息つこうか」


 サトミは「美味しい!」と嬉しそうに頬張っている。


「でもツカサ、これ、のんびり食べてて大丈夫? もうすぐ着いちゃうんじゃ……」


「はは、確かにね。羽田から米子まではあっという間だから、もう少しで着陸態勢に入るよ」


 案の定、食後の余韻を楽しむ間もなく、機内には再びベルト着用サインが点灯する合図が鳴った。


「あ、サインがついちゃった。急いで食べなきゃ!」


「ゆっくりでいいよ。ほら、見てごらん、サトミ。街が見えてきた」


 降下を始めた機体の窓からは、弓ヶ浜の美しい曲線と、米子の街並みがはっきりと見え始めていた。


「わあ、本当だ……。鳥取に来たんだね」  


 サトミが感嘆の声を漏らす。


「そうだね。ここから県境を越えて、目的地の松江に向かおう」


 タイヤが滑走路を叩く軽い衝撃とともに、逆噴射の音が響く。  事務員としての忙しい日常を完全に脱ぎ捨て、僕たちは新たな旅のスタートラインに降り立った。


「プレミアムクラスは最初に降りられるから、もう準備しないとね」


「うん!」  


 僕の声に合わせ、サトミも手荷物を整える。

 ターンテーブルの前で待つこと数分。『PRIORITY』の赤いタグがついた僕の鞄が真っ先に流れてきた。


「あ、あれだ。僕の鞄」


「あ、私のも来た!」  


 スムーズに荷物をピックアップし、僕たちはレンタカーの送迎バスへと向かった。


「ねえ、レンタカーは何を借りたの?」


「今回はトヨタレンタカーだよ」


「トヨタかぁ。車種は何だろうね?」  


 ワクワクしているサトミに、僕は少し苦笑いしながら答えた。


「ちょうど手頃なサイズが空いてなくてね。セダンにしちゃったよ」


「そうなんだ。でも、なんでトヨタなの?」


「ああ、このレクサスカードがあると安くなるんだよ」


 財布から取り出した黒色のカードを見せると、サトミが今日一番の驚き顔で僕を凝視した。


「えっ……ツカサ、まさかレクサスも持ってるの!? しかもそのカード、真っ黒なんだけど……」


「いや、これは違うよ。僕の名義でお父さんとお母さんにレクサスを一台買ってあげたんだ。その時に営業の人に勧められて作っただけで」


(……一体、この人何台車持ってるの? それに、親にレクサスをプレゼントして、こんな黒色のカードを持ってるなんて……)  


 サトミの心の中のツッコミが聞こえてきそうだったが、僕は気づかないふりをして受付に向かった。


「ツカサ様ですね。お待ちしておりました。本日のお車は『マークX』でございます」


「そうか、了解。まあ、足があれば何でもいいよ」  


 鍵を受け取ると、サトミが横からクスクスと笑った。


「マークXって……なんだかお父さんが乗ってそうな車だね」


「……まあ、否定はできないな」


 外に出ると、手入れの行き届いたシルバーのマークXが鎮座していた。


「たまにはこういう、落ち着いたセダンもいいもんじゃない?」  


 サトミの荷物をトランクに積み込みながら言うと、彼女は少しだけ口を尖らせた。


「私は、ツカサのポルシェの方が好きかなぁ」


「あはは、贅沢を言わない。……さて、それじゃあ出発しようか。どこへ向かう?」


 サトミは膝の上の『るるぶ』をパラパラとめくり、一枚のページを指差した。


「ツカサ! 水木しげるロードに行きたい!」


「水木しげるロードか。米子空港からならすぐそこだ。よし、行き先は決まったね」


 マークXの静かなエンジンを始動させ、黒いカードの余韻を置き去りにするように、僕たちは妖怪たちが待つ境港の街へと走り出した。


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