表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホテルの使い方〜観光はそこそこにホテルでまったり過ごしたい〜  作者: 一年目の平凡な中小企業の社長


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

第24話:なにわ一水④

シルバーのマークXは、潮風を切りながら軽快に海岸線を走る。


「あっ、稲佐の浜だよ。サトミ!」


「わあ、本当だ ……ねえ、あの岩の上に小さな社があるよ?」  


 サトミが指差したのは、波打ち際にそびえる『弁天島』だ。


「あそこは確か……砂をいただく儀式があるんだよね?」  


 僕がうろ覚えの知識を披露すると、サトミが熱心に『るるぶ』を読み上げた。


「そうそう、これよ!ここで砂を汲んで、出雲大社にある砂と交換するの。その砂を家に持ち帰ると、お清めや厄除けの効果があるんだって」


「ほーん、そうなのか……(正直、観光の作法には疎いから知らなかったな)」


 僕は心の中で呟きながらも、彼女の楽しそうな様子にハンドルを握る手が緩む。

 浜に降り、二人でさらさらとした砂を掬い上げる。


「途中のコンビニでレジ袋をもらっておいて正解だったね」


「本当ね!これで準備万端。じゃあ、次はいよいよ出雲大社に行こうか」


 再びマークXを走らせ、数分で出雲大社の駐車場に滑り込んだ。


「平日だから、駐車場もすんなり停められて助かるね」


「そうだね。……あ、そういえばサトミ。さっき境港で海鮮丼を食べたばかりだけど、出雲といえば『出雲そば』も有名なんだよね。ちょっと食べたかったかな、なんて」  


 僕がぼやくと、サトミの目がキラーンと輝いた。


「えっ、出雲そば!? ……ちょっと食べたい!」


「えっ? さっき海鮮丼を食べたばかりだし、お腹いっぱいじゃないの?」


「それはそれ、これはこれ! ちょっとだけよ、ちょっと!」  


 彼女の勢いに押され、僕は苦笑いしながら頷いた。


「じゃあ、『荒木屋』に行ってみようか」


「そこ、有名なの?」


「確か、テレビなんかでもよく紹介されていた老舗だよ。ここから歩いてすぐのはずだ」


 お清めの砂を大事に抱えたまま、僕たちは出雲の古い街並みを抜け、香ばしいそばの香りが漂う方へと歩みを進めた。

 老舗『荒木屋』の暖簾をくぐると、店内は活気ある賑わいに包まれていたが、運良くすぐに席へ通された。


「出雲名物、三段重ねの『割子(わりご)そば』でいいよね?」


「うん! それにしよう」  


 運ばれてきた朱塗りの丸い器を見て、サトミが「わあ!」と声を上げた。


「なんか見たことないスタイルのお蕎麦ね!」


「江戸時代に、四角い重箱に入れて持ち歩いていたのが由来らしいよ。それがいつしか、この丸い器になったんだって」


「へぇ~、お弁当箱がルーツなんだ。そう聞くと面白いね」  


 出雲の歴史を一口ずつ噛みしめるように、二人はツルリと蕎麦を平らげた。


「さあ、サクサク食べて、いよいよ大社へ行こうか」


 出雲大社の入り口。鳥居をくぐる前、二人は示し合わせたように足を止め、深く一礼した。  祓社はらえのやしろで心身の穢れを落とし、手水舎で清らかな水に触れる。参道を進むごとに、空気がどこか凛と澄んでいくのがわかった。


「わあ……大きなしめ縄!」  


 拝殿の前に立つと、その圧倒的な存在感にサトミが息を呑んだ。


「ねえ、あっちに見えるのも大きくない?」


「向こうは神楽殿だね。でもまずは、こっちでお参りしよう」


「ええと、るるぶによると、ここは『二礼・四拍手・一礼』なのね」  


 サトミの言葉に従い、二人は並んで手を合わせた。

 静寂の中で響く、四つの柏手。二人が何を願ったのか――それは、この広い境内の神様と、二人の心の中だけが知っている秘密だ。

 その後、国宝である御本殿を裏側から拝み、最後に向かったのは素鵞社そがのやしろ。 稲佐の浜で大切に運んできた砂を納め、代わりに清められた砂を袋に詰める。


「よし、これで一通りのお参りは終わりかな?」


「そうね。砂も無事に交換できたし、なんだか背筋が伸びた気がするわ」  


 サトミの顔には、どこか清々しい笑みが浮かんでいた。


「じゃあ、松江に戻って今日の宿にチェックインしよう。……お疲れ様、サトミ」


「うん、行こう!」


 マークXの助手席で、サトミは大切そうに砂の袋を膝に置いた。  夕暮れに染まり始めた島根の道を、車は一路、宍道湖のほとりにある極上の宿へと走らせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ