12.甘味
「魔族?」
以前読んだ本には書いてなかった。
そういえばオルスのようなツノを持った種族はいなかった。
「ああ、体内には魔石があるからわざわざ杖を持つ必要がないのだ。あえていうならツノが代わりと言えなくもない。」
「そうなんだ。山の向こうから来たって言ってたけど、コリーヌの辺りに住んでるの?他にも魔族っているのか?」
「北の山ではなく、西にある山の向こう側だ。火山があるのは知っているだろう。」
「え!?荒地の向こうの火山って相当遠いんじゃ…それを簡単に行き来できるってことか!」
「驚くのはそこなのか。我にはそれだけの力があるのだ。」
「そっか、だからいつも畑の方から帰っていたんだな。…実は俺も移動の魔法が使えるんだ。」
「人間としてはすごいのではないか?」
「うん、多分ね。だから実はリッシュの町にもすぐ行けるんだ。」
「2人は知ってるのか。」
「マスターだけが知ってる。」
「そうか、別に隠すようなことでもないだろう。」
「人間は普通、杖や詠唱無しに魔法を使えないって聞いたから不気味に思われるかなって…。」
「まあ気持ちはわかるが。我も人間の前では姿を変えているからな。それにしてもそんな魔法が使えるならここに引き篭もる必要もないだろう。」
「リッシュは行けるけど…俺は行ったことがある場所しか行けないから。」
「そうか、なら我が連れて行ってやろう。夕食前には帰って来れる。」
そういうとオルスは俺を横向きに抱え上げると外に出た。
「慣れるまでは目は閉じて後方を向いていた方がいい。」
「わかった。」
次の瞬間すごい風圧が襲ってきた。
まるで高速道路で車の窓を開けた時のような感覚だ。
一瞬で荒地に着き、火山を横目に見ながらしばらくすると見慣れぬ植生の森に入った。
「少し飛ぶぞ。」
ふわりと浮遊する感覚は未だに慣れない。
しかしこの速度で移動すればきっと王都や海まで1日もかからないだろう。
時折森の中に集落のようなものが見えたが、魔族の集落だろうか。
「着いたぞ。」
そういうとオルスは俺を下ろした。
足元に地面があることに安心するとその場にへたり込んでしまった。
1時間くらい移動しただろうか、いやもっと長かったかもしれない。
「なんだ、腰でも抜けたか。仕方がない。」
そう言うとオルスは再び俺を抱え上げ建物の中に入っていった。
何やら豪華で広い場所だが誰もいなかった。
「ここが我の部屋だ。」
「すごい…豪華な部屋だ。」
天蓋付きのベッドや趣向の凝った家具や小物だらけだ。
「ここは私室だが執務室とも奥の扉に繋がっている。大抵はどちらかにいる。これでいつでも我に会うことができるだろう。」
「そ、そうだね…。というかオルスって実はすごく偉い人なの…?」
「そこそこね。」
「俺みたいな平民が気軽に話して大丈夫だったのか…?というか俺の料理なんかより良いものたくさん食べてそうだけど…。」
「全部気にするな。今まで通りにしてくれ。」
「ああ、わかった…。」
「今日はとりあえず一旦戻ろうか。」
「そうだな、帰りは俺の魔法でいい?」
今の状態であの移動はキツすぎる。
「うむ、やってみろ。」
「テレポート」
俺達は自分の部屋に帰ってきた。
「ほう、本当に一瞬だな。」
「たまにこれでリアンに隠れてこっそり町にバゲットを買いに来てる。」
「はっはっは、たいそうな魔法使っておいてやることがパン買うだけって。」
オルスは心底おかしそうに笑っている。
…こんな風に笑う姿は初めて見たな。
「朝焼きたてのバゲットが僻地に住んでても手軽に買えるって結構贅沢なことなんだからな。
」
「それはそうなんだろうが…くくっ。そんなムキになっていうことじゃ…ないだろ。」
「そんなに笑うことでもないだろ。」
「はは、そんなセージすら愛おしいな。こんなに笑って穏やかな気持ちになれるのはセージの前だけだ。」
俺は気づくとベッドの上にいたオルスに引っ張られた。
「オルス…んっまだ明るいのに…。」
俺はオルスに覆い被さる格好のままキスされていた。
「暗かったらしてもいいってことなのか?明るい方がよく見えるだろ。」
「…あっ。いぁ…えへお。」
抗議しようとするがオルスの舌が口の中に入ってきてうまく話せない。
俺手を掴まれるとそのままオルスの黒いぴっちりとした服の中に導かれた。
レザーのような見た目に反して意外と伸縮性があるようだ。
硬くなっているソレを握らされるとオルスも俺のを握って扱いてくる。
「まっへっ…。」
オルスは全く止まる気配はなく次は空いてる方の手をオルスの尻に持っていかれた。
服の上からでひんやりしているが柔らかくて気持ちがいい…。
上も下も蹂躙されている俺はもう抵抗出来ず、オルスのなすがままにされていた。
ずっとキスされているせいで漏れる声も抑えられない。
「んっ、もぉ…いぅ。」
…俺が先に果てた後、オルスは俺に握らせた手ごと扱いて出した。
他人のソレが脈打つ感覚を掌で感じていた…。
そうしてようやく俺は解放された。
「はぁ、はぁ…待ってって言ったのに…。」
「待ったところでどうするんだ。今日は軽い触り合いだったんだからいいじゃないか。」
今日のこれが“軽い”触り合いなのか!?
「せめて夕食の仕込み終えてから…。」
「この我をさしおき、また食べ物のことか。見かけによらず余裕があるようだな?」
「いやいや、だって夜は肉をって言ったのに全然準備してないから。」
「…そういう話ではない。いざというときは魔法で町に食べに行ってもいいだろう。」
「オルスがそれでもいいなら。」
「よくはないな。」
「なんだよそれ。とりあえず俺は夕食の準備してくる。」
「その格好でか。」
…俺は服もよれよれでぐちゃぐちゃになっていた。
「クリーン」
「これでいいだろう。できたら呼ぶから風呂に入ってていいよ。」
「…あ、ああ。」
俺はキッチンに向かうと急いでフォークで刺した鶏肉2枚を香草や調味料をまぶして冷蔵庫に戻した。
スープは水と具を足して煮込む。
ラタトゥイユは塩胡椒を足して味を濃いめにしさらに煮詰める。
トマトとチーズは角切りでマリネしたら食べる直前まで冷蔵庫で馴染ませる。
一通り準備ができたら鶏肉の皮目を下にして並べてから火入れをする。
フライ返しで押さえつけながら焼き、火が通ったら裏返す。
「そろそろできるよ!」
肉が焼けるまでにスープ、マリネ、テリーヌを先にテーブルに並べる。
野菜を盛って置いた皿に鶏のソテーを乗せると仕上げにラタトゥイユをソースとしてかけた。
「お待たせ。」
「仕込んでいないと言いながら十分な量じゃないか。」
「マリネとソテー以外は使い回しだよ。」
「そうか?言われてもピンとこないな。」
「あ、バゲットもいる?出すの忘れてた。」
「ああ、もらおう。」
収納から取り出したバゲットをスライスして皿に乗せた。
「それじゃ、いただきます。」
「この鶏のソテーは皮の食感がとてもいいな、ソースとも合って美味だ。」
「ラタトゥイユはだんだん煮崩れるからそのままソースにしたよ。」
「スープも昼とは違うようだが?」
「玉ねぎもじゃがいもも煮溶けるから新しく足したんだ。溶け多分スープ自体の旨味が増すし、新旧野菜の食感の差が真新しく感じるんだ。まあ手抜き料理ではあるんだけど。」
「なるほど、我は毎回同じでも気にならないのだが。…はは、そうか。」
「どうした?」
「セージは毎回違う刺激を欲しているということか。食と性は繋がりがあると昔からよく言われている。…3人いてよかったな。」
「いやいや、食だけだから!」
「無意識のことは取り繕えないからな。いずれわかることだ。」
食後、俺は常備菜のストックをたくさん準備していた。
日持ちするコンフィは鶏だけでなくじゃがいもや野菜でも大量に作っておく。
確かに俺は毎食何かしら変化が欲しくなってしまい手間が増えているが、決まった常備菜があればそれも抑えられるはずだ。
数日前に漬けておいたキャベツがちょうどいい具合になってきたので発酵が進みすぎないよう冷蔵庫に移しておく。
明日ソーセージを買えたら猪肉や野菜と煮てシュークルートを作ろう。
「セージ。」
「なに?」
「明日なんだが、天人族が去ったら海に行くか。」
「え、海!?」
「まだ我は行ったことがないが、王都の南、ここから南東にある海沿いのリヴィエールという町は大きな川が流れ込むため多種多様な魚介が手に入るらしいぞ。」
「魚介か!魚や貝もコンフィにすると美味しいだろうな。鮮魚をそのままマリネにしてもいいし、ムニエルやブイヤベースにしても…。」
「ここから我が城までの距離より倍以上あるが、飛ばせば2時間ほどで着くだろう。」
「行く!」
健全な添い寝で迎えた翌日。
俺はオルスに伝えたうえでマスター、シーナの家にある俺の部屋に来ていた。
寝顔を見たらバゲットや朝食用のサンドイッチ、肉屋でハムやソーセージを買いに行くつもりだ。
足音を殺しながらこっそり枕元に向かった。
…寝顔もダンディだ。
きっとまだ寝入ってからそんなに時間が経っていないだろう。
起こさないように後ずさる。
「…約束は?」
「うわぁ!」
「人の寝顔を見るだけ見て黙って帰るとはな。」
「え?いつから起きて…。」
「セージの部屋に現れたときからだ。この家は私の縄張りだから気配があればすぐにわかる。」
「そうだったんですか…もうびっくりしましたよ。」
「早く来い。安心しろ少しだけだ。」
ベッドに招き入れられる。
「前みたいに手を借りてもいいか?すぐ終わるから…。」
シーナは前と同じように俺の上に馬乗りになると俺の両手でアレを握らせた。
すぐ終わるという言葉通り、前回より確かに果てるまで早かった。
俺の服はコップをひっくり返したかのようにびしょびしょだ。
「…実はあれからひとりでもしていないのだ。セージの前以外ではしないと決めたからな。」
「せめてひとりではしてもいいんじゃないでしょうか…。」
「心配ならここに通ってくれ。」
俺は魔法で綺麗にした後、パン屋や肉屋で買い物を済ませ家に戻った。
「ただいま。朝食も買ってきたよ。」
「おかえり。朝焼きたてのバゲットサンドとコーヒーが家で満喫できるのは確かに贅沢だな。」
「でしょ?このバゲットサンドは特にバター多めでハムも美味しいから毎朝食べたいくらいだよ。」
「そういえばセージはあまり甘味は食べないのか?今まで果物以外で見たことないが。」
「好きだよ。でも確かに買いも作りもしてないね。リアンに前貰ったクッキーくらいかも。食が安定してきたのは最近だし、今まで余裕がなかっただけかな。」
「そうか。甘味目当てでリッシュに来る旅行者も多いと聞くのに、パンもバゲットばかりだし意外だなって思ったのだ。」
「確かに。言われるまで気が付かなかったよ。ブリオッシュや菓子パン類も好きなんだけどね。」
オルスも硬いバゲット以外も食べたいのかもしれない。
今度クロワッサンやパンオショコラとかも買っておこう。
夕食用のシュークルートを仕込んでると今日もジルがやってきた。
対応はオルスがする。
「どうも、こんにちは。あ、今日はセージさんもいるんですね!」
オルスの牽制も気にせずこちらに手を振っている。
「セージさん!お久しぶりです!」
たった数日ぶりで大袈裟な…。
大声でうるさかったので俺も玄関に向かう。
「ジルさん、こんにちは。」
「よかった、名前覚えていてくれたんですね!突然違う人が出てきて驚きましたよ。最近町の方に行ってたんですか?」
「はい、畑だけでは食料は賄えないので買い物によく行ってますよ。」
「そうでしたか、てっきり何か怒らせるようなことして避けられたのかと…。」
「そんなことはないです。俺だけの家でもないので他の人が出ることもありますよ。」
「そのようですね…。」
「…。」
今日も素直には帰ってくれなさそうだ。
どうしようか考えているとオルスが口を開いた。
「用事が済んだのであれば帰っていただけますかな?」
「あ、はいっそうですね…失礼します。」
オルスの威圧に負けたのか帰っていった。
「さすがだなオルス。」
「馴れ馴れしくセージの名前を何度も呼ぶのは許せん。」
「すんなり帰ってくれてよかったよ。」
「ああ。昼食食べたらリヴィエールに向かおうか。」
「そうだな。」
軽めに昼食を済ませた後、俺はオルスに抱えられて高速移動していた。
2回目だがいまだに慣れずずっと後ろを見ている。
木や岩といった遮蔽物がある場所では飛ぶが俺が酔うため極力陸路で移動してくれている。
前回より移動時間が長いがオルスは疲れたりしないんだろうか。
…それにしても道中人や町どころか魔物すら見当たらないな。
結局3時間以上移動してようやくリヴィエールに着いた。
「オルス、ありがとう…お疲れ様…。」
ずっと抱き上げっぱなしのオルスの方が絶対俺より疲れているんだからと労いたかったが、俺はまた立つのがやっとな状況だった。
「まるで生まれたての動物みたいでかわいいぞ。」
「オルスは何でそんなにピンピンしてるんだよ…。」
「魔法で強化してたからね。時間の感覚はゆっくりだったから多分体感時間は2、3倍はあるかな。等速だと人が万が一いた時に避けられないから。」
「なるほど…。」
いつのまにかオルスは冒険者モードの格好になっていた。
俺はせっかくの海が目の前にあるのにそれどころじゃなかった。
「市場を見るか?屋台もいっぱい出てるぞ。動けないならまた抱えようか。」
俺も何か魔法で回復できないかな…。
疲労回復…丸1日は眠ったようなイメージ…。
「リフレッシュ」
一瞬で疲労感や船酔いのような感覚が消え去った。
「もう大丈夫だよ。この時間でも魚の市場ってやってるのかな?」
「とりあえずひと通り見て回ろう。」
市場はどこも屋台骨だけで魚も貝も売ってなかった。
屋台も無人でタイミングが悪かったのかもしれない。
「うーん、やっぱり来るなら朝かな?」
「だろうな。飲食店類は営業してるみたいだ。」
「あ、あれが気になるな。名物クリームサンド。」
「おお、ついに甘味に目覚めたか。」
「元々好きなんだって。…すみません、このトロペジェンヌを2つください。」
「はいよ、銅貨8枚ね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ありがとう、また来てね!」
「はい、オルスの分。」
「ああ、ありがとう。」
「ここで食べていく?一旦帰る?」
「せっかくだからここで食べよう。海沿いのベンチが空いてる。」
「先に場所取ってて。」
俺は近くのカフェスタンドでコーヒーとカフェオレを頼んだ。
「オルスは牛乳ありとなしどっちがいい?」
「なしかな。どちらでもいいが。」
「それじゃ俺がカフェオレの方ね。」
俺は朝はコーヒーだけど日中は無糖のカフェオレ派だった。
「よし、それじゃいただきます。…なにこれすっごく美味いな!ブリオッシュの柑橘の香りとしっかり目で濃厚なクリーム、上に乗ったパールシュガーの食感もアクセントになってていい。」
「ああ、確かにこれは美味だな。コーヒーにも合う。」
「これはリヴィエールに来るたびに買わないとな…。」
「そうだな。」
「…。」
「…。」
「…海が…綺麗だな。」
「…ああ。」
食べ終わった後も、しばらくの間オルスと2人並んで海を眺めていた。




