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枯れゆく豊穣

玉座に置かれた羊皮紙を、私は拳で握りつぶした。


白の魔王の加護『豊穣』。

かつて三ヵ国を黄金の地へと

変えたその権能が、今、死に体となっている。

収穫量は三分の一に激減するだろう。

実のところ、加護が失われた結果としての

平年並みに戻ったに過ぎない。

しかし、その現実はこの国にとって絶望的な宣告だった。

この土地の社会基盤は

すべて加護による過剰な供給を前提に組まれているからだ。


「陛下。ゴイゼロ様よりの通達です」


側近の声は、ひどく冷淡だ。


『加護の減退は、統治者の怠慢によるものと見なす。

よって、白の魔王への献上ノルマは

加護全盛時の数値を維持するものとする』


私は思わず笑みを漏らした。

死刑宣告を受けた囚人が浮かべるような、空虚な笑いだ。

魔獣が王都を蹂躙した際

その身に纏っていた異常な魔力に反応して

加護の効果を焼き切ったのだという。

ゴイゼロの報告によれば

その魔力の性質はあまりに特異で

白の魔王の加護そのものを根絶やしにした。

魔獣問題の全貌が解明されぬ限り、加護が戻ることはない。

ノルマを達成すれば国内から食糧が消える。

達成できなければ、白の魔王の怒りによる粛清が待っている。

どちらを選んでも、ゴルドリアという名の泥舟は沈む。


「……民から奪えというのか」


獅子の獣人であり

元ベルリック王のもと大将軍の地位にいた男。

ゴルドリア国の国王ライオ・ド・ゴルドリアの独り言が

冷えた玉座の間に空しく響いた。

ゴルドリアは農業国家だ。

民の生活は収穫と直結している。

この飢餓は単なる物理的な苦しみではなく

民の信頼を失墜させ

王家に対する最後の一撃となるだろう。

30年前、ベルリック王家を裏切ってまで

守ろうとした「民の平穏」が

今、我が手によって根こそぎ刈り取られようとしている。

これは、他国勢力が我々を飢えさせることで

侵略を企んでいるのか。

あるいは、30年前に犯した裏切りに対する、遅すぎた裁きか。


「陛下、冒険者ギルドより一報が。

魔獣事件の調査のため

白狼姫ヴァルカ一向が調査へ向かったそうです。

新たにラックという新人冒険者が調査に

協力するため同行するそうですが

……このラック、ゴイゼロ様の調べでは

デスト家の縁者ではないかと」


デスト家――モルドベン帝国屈指の名門であり宰相家。

デスト家の当主は

ベルリック王家の生き残りであるブリジットを妻に迎えた。

三ヵ国を取り戻そうとする彼らの動きが

今この地へ及んだとしても必然の摂理だ。

私は立ち上がり、窓の外の王都を見下ろした。

民はまだ知らない。数日後にはパンの価格が跳ね上がり

いずれは食卓から芋さえ消えることを。

彼らはただ、明日も冒険者たちが

魔獣を倒してくれると信じ、祈りを捧げている。


もし、このラックという少年が

かつて私が裏切った王家から

差し向けられた「清算」であるというのなら。


「……ノルマは履行する。

だが、その代わりとして、ゴイゼロにひとつ要求を通せ」


「どのような要求でしょうか」


「……この魔獣事件が収束した暁には

ゴルドリア全土の『食糧調達』に関する全権を

王家へ一時的に返還させよ。

飢える民を前に、余はただ手をこまねいているだけの

無能で終わりたくはない」


ゴイゼロがそれを飲むとは思えない。

だが、死にゆく獅子が最後に爪を立てる先は

ゴイゼロが敷いた冷徹な論理の網でなければならない。


私は再び玉座へ腰を下ろした。

腹をすかせた民の足音が

もうすぐそこまで迫っている気がした。

加護なき豊穣の地で

私は今、王としてではなく、ただの罪人として

滅びゆく国の最期を数えている。

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