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調査

ラックは裏路地のカフェでシャノアと合流した。

いつもの余裕に満ちた妖艶さは影を潜め

テーブルの下で彼女の指先がわずかに震えている。


「ラックくん……報告したいことがあるの。

ベルリック旧臣勢力の一部が

今夜、地下通路から

王城へ突入しようとしている」

「へぇ。ようやく溜飲を下げる時が来たってわけだ。

結構なことじゃないですか」

「……いいえ、無謀よ」


シャノアは唇を強く噛み締めた。

彼らは誇り高いが、組織としての

統制を完全に失っている。

小規模なグループが場当たり的に動いているに過ぎないのだ。

今の王城は魔獣騒ぎで警備が手薄とはいえ

練度を極めた正規軍の精鋭を前にすれば、それは自殺行為に等しい。


「彼らはこれからのゴルドリアに必要な存在なの。

……見殺しにはできない。説得もしたけれど

誰も聞く耳を持ってくれなかった。

私、今夜、体を張ってでも彼らを止めるつもりよ」


シャノアの瞳には、打算を超えた痛切な覚悟が宿っていた。

ラックはその眼差しに

彼女の本気を感じ取り、ふっと口角を上げる。


「それなら、ベルリック王女ブレジット様と縁が深く

デスト家の分家待遇である俺が説得する方が

彼らも耳を貸すはずだ。

旧臣たちのところまで案内してくれ。

俺が彼らを思い留まらせるよ」


午後一時。冒険者ギルド。

最強パーティー《銀牙の月》の四人が

ラックを待ち構えていた。


「……遅いぞ、新人!」

リーダーのヴァルカが、鋭い銀の瞳でラックを射抜く。


ラックはヴァルカに軽く一礼して横を通り過ぎて

ギルドカウンターに向かおうとする。


ヴァルカはムッとして、回り込んでラックの前に立つ。


「人を待たせておいて

無視までするとはラック、、見損なったぞ。」

ヴァルカは耳が前にたれて少し悲しげに見えた。


ラックは困った顔をした。

「すみません。どいてもらえます。」

「なんだと!!」

「時計を見て言ってます? 」

「ふん! なにを・・・12時半か。で? 」

「待ち合わせって13時ですよね。

待ち合わせ時間を決めたのってあなたですよね。

感覚だけで生きてるんですね。」

「はぅっ、、、ご・・ごめんなさい。・・でも!

早く集まれたんだからすぐ出発できるな! 」

「人の話も聞かない人なんですね。

薬草採取するって言ったじゃないですか。

納品くらいさせてくださいよ。

そのために30分も早く来たんです。察してください。」

「ううう。。。」


ヴァルカは身をすくめて仲間の元に行くと

ヴァルカを囲んで頭を撫でながら

「いい子、いい子、大丈夫だからね。」と慰めた。


ラックはカウンターで薬草を納品した。


「うっしゃ! 納品完了 実績1! 」


兎獣人の受付嬢が微笑して、ささやかに拍手してくれた。


リリスがラックの肩に腕を絡めて首に手をまわした。

冷徹に鼻で笑う。

「あんた、ヴァルカを泣かせて

置きながら受付嬢とは仲いいんだね」

「は? 優しい人には仲良くしますよ。何言ってんすか?」


ミュラはラックの背後から殺気を含んだ囁きを向ける。

「ヴァルカを泣かせておいて若い女にデレデレして

鼻の下伸ばす気に入らないね!

お前、調査の足を引っ張ったら、その場で喉笛を食い千切るからな」

「えッ!? 初日からパワハラ!? 」


ガストンだけが豪快に肩を叩き

「このガキは俺が守るからよ」と笑い飛ばした。

「このPTって味方からの攻撃を

味方が守るスタイルなんですね。」


四人と共に廃墟となった旧市街へ足を踏み入れると

そこには異様な空気が漂っていた。

ヴァルカの鼻がピクリと動く。

「……この匂い、魔獣だけじゃない。人間もいるな」


Sランクパーティーは戦闘態勢に入る。

怪しい家屋の中に扉を開けて踏み入る。


「う!? 魔物臭い!」

ヴァルカはハンカチで顔を押さえた。


リリスは何か感じ取ったような反応をした。

「この臭いってもしかして。」


ミュラは呼吸を止めて必死で耐えていたが

「オエ~ うぇ~ なんか目もしょぼしょぼする。」


ガストンは突然、大きく息を吸った。

「ハ~ックション! ハ~ックション!

くしゃみが止らん。は~っくしょん!」

ガストンの目はどんどん充血していく。


ラックはその様子を見て静かに建物を出る。

「猫でもいるんじゃないですかね。」


「猫の魔物か! 手ごわいかもしれん! 」

ヴァルカは奥の扉を蹴りやぶった。


奥の部屋には沢山の猫の魔物に囲まれた老婆が

ほうきを構えて足を震わせていた。

「なんだい! あんたたち! 盗賊かい? 」


ヴァルカは頭が真っ白になった。


猫獣人のリリスはたぶん気付いていた。

おそらく言っても仕方ないと思ったのだろう。


ミュラは気配を消して外に飛び出した。


ガストンはくしゃみが止らず

目も痛みで開けられなくなっていた。


部屋は生ゴミが山積みになって異臭も充満していた。


介護職を経験者のラックは

こういう現場になれていて

奥の部屋に入ると、優しい声と笑顔を向けて

「ごめん、おばあちゃん。

僕、猫が大好きなんだ。

一緒に遊ばせてもらってもいい? 」

「なんだい。ぼくちゃん。

猫が好きなのかい。しゃ~ないねぇ。

猫と遊んでやっとくれ。」

ラックは猫と遊びながら

老婆の話すことを目を見て頷く聞き役に徹した。

ラックは「楽しかった。ありがとう。」と

老婆に言うと立ち上がる。

老婆は寂しそうに

「そうかい。また、遊びにおいでよ。」


ヴァルカたちはだいぶ前から

家屋を出て、外気を思い切り吸ってリフレッシュしていた。


「ラック、あのおばあちゃんはなんだったんだ? 」

ヴァルカは困惑しながら訊いてきた。


ラックは肩をすくめた。

「彼女は元冒険者らしいですよ。話を聞いてみると

魔物使いのジェシカって通り名だったんですって。

彼女は誰からも

見て見ぬふりをされて生きているんじゃないですか。

人間ですし、魔物騒ぎでも獣人のご近所さんも兵隊さんも

彼女を避難させようとせず声もかけなかったのかも。」


「・・・」


ラックは何事もなかったような笑顔を見せた。

「今日でこの調査のお仕事を辞めます。

お世話になりました。

ギルドで俺を見かけても声をかけないでくださいね。」


ヴァルカは複雑な気持ちになった。

目を涙を浮かべてラックの腕に腕を絡めて巻きつけた。

「ラック! すまん! 私たちを見捨てないでくれ!」

「ごめんにゃ。」

「言い訳はしない! ゆるせ! 」

「猫の前では俺は無力だ。ラック、キミが必要だ。」


ラックは4人に抱きつかれながら

このポンコツたちがなぜSランクになれたのか。

これからどんなしょうもないことに巻き込まれるか。

お金の管理も怪しそうだし報酬は口約束だけでは

うやむやになる可能性があるとか考えるだけで憂鬱になった。

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