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羅刹部隊

魔獣たちによるボヘカの蹂躙は、

既に限界を超えていた。

都市の半分が紫の魔炎に飲み込まれ、

正規軍が壊滅する中、

ゴルドリア国王は窮余の策として禁忌の救援要請を発した。

その先は、

この地を影から庇護する北方連合国盟主ウィカラ王家の現女王テラ。


天を裂いて現れたのは、

漆黒の甲冑を纏った羅刹の精鋭軍「絶拳」から

派遣された百名であった。

彼らは「白の魔王」の加護による完全再生能力と、

理を歪め対象を弱体化させる権能を併せ持つ、

大陸屈指の武力組織である。

神速の拳で魔獣を討伐し、

ボヘカの秩序を即座に奪還する――誰もがそれを疑わなかった。


「魔の霧を纏う害獣どもめ。根絶やしにしてくれる」


絶拳の隊長が冷徹に言い放ち、

一斉に神速の拳が叩き込まれる。

百名が放つ一撃は大地を揺るがし、

紫の魔力を纏った魔獣たちを瞬時に粉砕した。

だが、それが彼らの死の入り口だった。

紫の魔力は全属性耐性を誇り、

触れた存在の魂を直接削り取る「死の霧」そのものだったからだ。


「な、なんだこの力は……っ!? 防御を貫通してくる……!」


精鋭たちが驚愕の声を上げる。

彼らの誇る「完全再生」の加護が、皮肉にも災いした。

傷を負うたびに肉体を修復しようとするその執着が、

紫の魔力を魂の奥底まで引きずり込み、

存在の根源から燃やし尽くす燃料となってしまったのだ。

再生すればするほど魂は摩耗し、

存在の輪郭が薄れていく。

それは「再生」を是とする羅刹たちにとって、

最も残酷な「緩やかな消滅」へのカウントダウンであった。


広場の片隅で、ラックはその惨状を冷ややかに眺めていた。


「面白いね。再生能力という『命への執着』が、

そのまま魂を燃やす燃料になっているんだから」


最強の精鋭部隊が、

チンピラのなれの果てを始末するために次々と瓦解していく。

ラックの眼下で、絶拳の隊長が膝をつく。

その腕は再生することなく、紫の煙とともに虚空へ溶け出していた。


「……何が起きたんだ? 敵は、最初から自分たちで燃え尽きていたのか?」


隊長の震える呟きに、答える者はいない。

ラックはルナの肩に手を置き、静かに告げた。


「魔獣はもう倒されたし、みんなも心配しているさ。帰ろう」


「……あの魔獣って、一体……」


「考えても答えが出ないこともあるさ。


世の中には、不思議なことがたくさんあるから」


「でも、ラックさんがあのとき……何か、唱えて……」


「ちょ! それ以上は言っちゃいけない!


口にしてはいけないよ」


ラックの表情は穏やかだったが

その声には一切の拒絶が込められていた。

彼は慈父のような笑みを浮かべ、ルナを諭す。


「むやみに他人を疑うのはよくない。


人同士はお互いを信じる心を持たないと


人に寄り添えなくなる。


君にはそんな人間になってほしくはないんだ」


その言葉は、聖人のように優しく響いた。

ルナは震えながらも、ラックの言葉に縋り付くしかなかった。


ゴルドリア王国の威信は、今日完全に地に落ちた。

ラックは紫煙の舞う瓦礫の中、悠然と歩みを進めた。

この国の秩序は、ラックという理外の手によって

今まさに塗り替えられようとしていた。

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