牛魔将軍ゴルドの初陣
修羅界第一層。
黒鉄城前。
牛魔将軍ゴルドは震えていた。
目の前には黒斧将軍ヴァルド。
修羅王軍四大将軍。
歴戦の怪物。
対して自分は――。
「無理だろ……」
思わず本音が漏れた。
◇
ヴァルドは巨大な戦斧を肩に担ぐ。
「来い。」
ゴルドは動けない。
足が重い。
心臓が痛い。
胃も痛い。
「やっぱ無理。」
「陛下ぁ……」
「人選ミスじゃないですか?」
◇
ラックは腕を組んだ。
「そうか?」
「そうですよ!」
ゴルドは叫ぶ。
「ガルザの方が強いし!」
「フォリエラの方が頭良いし!」
「俺だけ普通じゃないですか!」
◇
修羅達が笑った。
「なんだアイツ。」
「将軍か?
どうみても普通のおっさんだろ。」
「うむ。たしかに弱そうだな。」
◇
ゴルドの胸が痛んだ。
昔からそうだった。
◇
牛頭族だった頃。
誰よりも体が大きかった。
誰よりも力もあった。
でも。
臆病だった。
◇
戦えば負けない。
それは分かっていた。
だが怖かった。
◇
だから逃げた。
だから笑われた。
だから馬鹿にされた。
◇
そして。
好きになった女の子達にも。
◇
「ごめんなさい。」
「ゴルドさん良い人だけど。」
「そういうのじゃない。」
◇
百回。
千回。
いやもっとだ。
◇
思い出したくもない。
◇
「なんで俺モテないんだろ……」
◇
その呟きに。
後ろから声が響いた。
◇
「ゴルド。」
◇
振り返る。
フォリエラだった。
◇
「行きなさい。」
「あなたは強いわ。」
◇
ガルザも笑う。
「あたしより強い部分もある。」
◇
「え?」
◇
ゴルドは固まった。
◇
さらに。
ザンガが豪快に笑う。
「自信持て。」
「お前、普通に化物だ。」
◇
後方。
数万の修羅達。
◇
昨日まで敵だった連中が。
叫んでいた。
◇
「行けぇぇぇ!」
「牛魔将軍!」
「やっちまえ!」
◇
ゴルドは呆然とした。
◇
応援されている。
◇
人生で初めて。
こんなにも。
大勢に。
◇
期待されている。
◇
「……あ。」
◇
気付いてしまった。
◇
自分は。
モテたかったんじゃない。
◇
認められたかった。
◇
必要とされたかったんだ。
◇
誰かに。
期待されたかった。
◇
ずっと。
ずっと。
ずっと。
◇
その時。
最後の声が聞こえた。
◇
「ゴルド。」
◇
ラックだった。
◇
「はっ。」
◇
「お前は弱くない。」
◇
たった一言。
◇
それだけだった。
◇
しかし。
数千年の修行。
数万回の敗北。
全てが蘇る。
◇
ラックは一度も。
自分を見捨てなかった。
◇
逃げても。
泣いても。
弱音を吐いても。
◇
何万年も。
育て続けてくれた。
◇
なら。
◇
応えなければならない。
◇
「――そうだな。」
◇
ゴルドは笑った。
◇
震えが止まる。
◇
恐怖が消える。
◇
いや。
消えたわけではない。
◇
恐怖を抱えたまま。
前へ進めるようになった。
◇
それが勇気だった。
◇
黄金の魔力が噴き上がる。
◇
大地が震える。
◇
空が割れる。
◇
修羅達が息を呑んだ。
◇
「な……」
「なんだこの魔力……」
◇
ゴルドは拳を握る。
◇
牛魔将軍。
ゴルド。
◇
今この瞬間。
真の将軍として覚醒した。
◇
「黒斧将軍ヴァルド。」
◇
ヴァルドが戦斧を構える。
◇
「来い。」
◇
ゴルドは笑った。
◇
「終わったら聞いてくれ。」
◇
「何をだ?」
◇
「俺がモテる方法。」
◇
ヴァルドは盛大に吹き出した。
「モテるモテないと言ってる時点で
現実にモテていないことに気付くべきだ。」
◇
次の瞬間。
黄金の閃光が戦場を駆け抜けた。
◇
牛魔将軍ゴルド。
その伝説が今始まる。




