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牛魔将軍ゴルドの初陣

修羅界第一層。


 黒鉄城前。


 牛魔将軍ゴルドは震えていた。


 目の前には黒斧将軍ヴァルド。


 修羅王軍四大将軍。


 歴戦の怪物。


 対して自分は――。


「無理だろ……」


 思わず本音が漏れた。



 ヴァルドは巨大な戦斧を肩に担ぐ。


「来い。」


 ゴルドは動けない。


 足が重い。


 心臓が痛い。


 胃も痛い。


「やっぱ無理。」


「陛下ぁ……」


「人選ミスじゃないですか?」



 ラックは腕を組んだ。


「そうか?」


「そうですよ!」


 ゴルドは叫ぶ。


「ガルザの方が強いし!」


「フォリエラの方が頭良いし!」


「俺だけ普通じゃないですか!」



 修羅達が笑った。


「なんだアイツ。」


「将軍か?


どうみても普通のおっさんだろ。」


「うむ。たしかに弱そうだな。」



 ゴルドの胸が痛んだ。


 昔からそうだった。



 牛頭族だった頃。


 誰よりも体が大きかった。


 誰よりも力もあった。


 でも。


 臆病だった。



 戦えば負けない。


 それは分かっていた。


 だが怖かった。



 だから逃げた。


 だから笑われた。


 だから馬鹿にされた。



 そして。


 好きになった女の子達にも。



「ごめんなさい。」


「ゴルドさん良い人だけど。」


「そういうのじゃない。」



 百回。


 千回。


 いやもっとだ。



 思い出したくもない。



「なんで俺モテないんだろ……」



 その呟きに。


 後ろから声が響いた。



「ゴルド。」



 振り返る。


 フォリエラだった。



「行きなさい。」


「あなたは強いわ。」



 ガルザも笑う。


「あたしより強い部分もある。」



「え?」



 ゴルドは固まった。



 さらに。


 ザンガが豪快に笑う。


「自信持て。」


「お前、普通に化物だ。」



 後方。


 数万の修羅達。



 昨日まで敵だった連中が。


 叫んでいた。



「行けぇぇぇ!」


「牛魔将軍!」


「やっちまえ!」



 ゴルドは呆然とした。



 応援されている。



 人生で初めて。


 こんなにも。


 大勢に。



 期待されている。



「……あ。」



 気付いてしまった。



 自分は。


 モテたかったんじゃない。



 認められたかった。



 必要とされたかったんだ。



 誰かに。


 期待されたかった。



 ずっと。


 ずっと。


 ずっと。



 その時。


 最後の声が聞こえた。



「ゴルド。」



 ラックだった。



「はっ。」



「お前は弱くない。」



 たった一言。



 それだけだった。



 しかし。


 数千年の修行。


 数万回の敗北。


 全てが蘇る。



 ラックは一度も。


 自分を見捨てなかった。



 逃げても。


 泣いても。


 弱音を吐いても。



 何万年も。


 育て続けてくれた。



 なら。



 応えなければならない。



「――そうだな。」



 ゴルドは笑った。



 震えが止まる。



 恐怖が消える。



 いや。


 消えたわけではない。



 恐怖を抱えたまま。


 前へ進めるようになった。



 それが勇気だった。



 黄金の魔力が噴き上がる。



 大地が震える。



 空が割れる。



 修羅達が息を呑んだ。



「な……」


「なんだこの魔力……」



 ゴルドは拳を握る。



 牛魔将軍。


 ゴルド。



 今この瞬間。


 真の将軍として覚醒した。



「黒斧将軍ヴァルド。」



 ヴァルドが戦斧を構える。



「来い。」



 ゴルドは笑った。



「終わったら聞いてくれ。」



「何をだ?」



「俺がモテる方法。」



 ヴァルドは盛大に吹き出した。


「モテるモテないと言ってる時点で


現実にモテていないことに気付くべきだ。」



 次の瞬間。


 黄金の閃光が戦場を駆け抜けた。



 牛魔将軍ゴルド。


 その伝説が今始まる。

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