赤鬼将軍
修羅界第一層。
赤骨平原。
数万の修羅たちが円を描くように集まっていた。
修羅にとって戦いは祭りだ。
強者同士の決闘など最高の娯楽である。
歓声が響く。
怒号が飛ぶ。
武器を打ち鳴らす音が大地を揺らしていた。
中央。
赤鬼将軍ザンガは巨大な刀を肩に担いでいた。
身長五メートル。
筋骨隆々。
全身を覆う古傷。
数え切れぬ戦場を生き抜いた証だった。
対するは。
魔猴将軍ガルザ。
紫帝ラック直属。
三千年以上の地獄訓練。
数万回の戦争演習。
数十万年にも等しい経験。
その全てを積み重ねた魔将である。
ザンガは笑った。
「お前、本当にやるのか?」
ガルザは拳を握る。
「もちろんだ。」
ザンガはさらに笑う。
「良い目だ。」
「昔の俺を見ているようだ。」
次の瞬間。
ザンガの姿が消えた。
ドゴォォォォン!!
衝撃。
大地が吹き飛ぶ。
観客の修羅たちが歓声を上げた。
「速ぇぇぇ!!」
「ザンガ将軍だ!」
「潰せぇ!」
しかし。
ガルザはいなかった。
ザンガの頭上。
ガルザが拳を振り下ろしていた。
「遅い。」
轟音。
ザンガの頭が地面へ叩き込まれる。
赤骨平原に巨大なクレーターが出現した。
修羅たちは静まり返った。
「……は?」
誰も理解できなかった。
ザンガが吹き飛ばされた。
それだけでも異常だった。
だが。
ザンガは笑っていた。
「ははははは!」
「面白ぇ!!」
刀を振るう。
巨大な斬撃。
山を断ち切るほどの一撃。
ガルザは避けない。
拳を振るう。
斬撃が砕け散った。
修羅たちが悲鳴を上げる。
「素手だぞ!?」
「馬鹿な!」
「何者だ!!」
ラックは腕を組んでいた。
「まぁ。」
「最低限だな。」
フォリエラが苦笑する。
「陛下の最低限は基準がおかしいです。」
ゴルドも頷く。
「修羅界の基準が壊れそうです。」
◇
戦いは続いた。
ザンガは本気になる。
鬼気。
覇気。
膨大な魔力が噴き上がる。
空が赤く染まった。
「鬼王解放!!」
巨大化。
十メートル。
二十メートル。
三十メートル。
鬼神の如き姿。
修羅たちが歓声を上げた。
「将軍だ!」
「ザンガ将軍の本気だ!」
しかし。
ガルザは溜息をついた。
「陛下。」
「なんだ。」
「殺していいですか?」
ザンガの額に青筋が浮いた。
「誰をだコラァ!!」
ラックは首を振る。
「駄目だ。」
「兵が減る。」
「半殺しで我慢しろ。」
ガルザは頷いた。
「承知しました。」
その瞬間。
ガルザの魔力が爆発した。
黒い雷。
紫帝直属の魔力。
大地が沈む。
空間が軋む。
修羅たちは恐怖した。
「なんだあれ……」
「将軍級じゃない……」
「修羅王クラスだ……」
◇
一分後。
ザンガは地面に埋まっていた。
全身ボロボロ。
刀は折れ。
角は砕け。
白目を剥いている。
完全敗北だった。
修羅界が静まり返る。
誰も声を出せない。
絶対強者だった。
赤鬼将軍ザンガ。
その存在が。
たった一分で敗北した。
ラックは立ち上がった。
ゆっくり歩く。
そして。
ザンガの前に立つ。
「選べ。」
ザンガが顔を上げる。
「何をだ。」
ラックは笑った。
「部下になるか。」
「もう一回負けるか。」
修羅たちは息を呑んだ。
ザンガは数秒沈黙した。
そして。
豪快に笑った。
「ははははは!!」
「面白ぇ人間だ!」
ザンガは片膝をついた。
「赤鬼将軍ザンガ。」
「今日より陛下って呼ばれてるアンタに忠誠を誓う。」
その瞬間。
赤骨平原が揺れた。
修羅界侵略。
最初の将軍が陥落したのである。
ラックは満足そうに頷いた。
「よし。」
「次は修羅王を落とすぞ。」
ザンガは固まった。
「……え?」
ガルザも固まった。
「もう行くんですか?」
フォリエラが頭を抱える。
「普通は勢力を固めてからでは?」
ゴルドが震える。
「休憩は!?」
ラックは不思議そうな顔をした。
「なんで?」
その一言で全員が黙った。
こうして。
紫帝軍は赤骨平原を制圧し、
修羅王討伐への進軍を開始した。




