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修羅界遠征

心象結界。


 三柱の悲鳴が空へ響いていた。


「実戦って何ですか?」


 ガルザが震えながら尋ねる。


 フォリエラも青ざめていた。


 ゴルドに至っては涙目だった。


「卒業したんじゃないんですか!?」


 ラックは不思議そうな顔をした。


「卒業したぞ。」


 三柱は少し安心した。


 しかし。


「だから次は就職だ。」


 三柱は固まった。


「……え?」


「就職?」


「どこに?」


 ラックは笑った。


「戦場。」


 三柱は天を仰いだ。



 世界が揺れた。


 心象結界が解除される。


 宿屋の部屋。


 ベッド。


 机。


 壁。


 現実世界。


 しかし三柱からすれば数千年ぶりである。


 ガルザは窓から外を見た。


「うわぁ。」


 フォリエラも感動した。


「本物の空です。」


 ゴルドは泣いた。


「窓の外を見て! 女の子たちがいるよ! 」



 ラックは三柱へ向き直る。


「これから修羅界へ行く。」


 三柱は同時に首を傾げた。


「修羅界?


死んでもないのに地獄に?


もう地獄は十分すぎるくらい味わいましたよ?


本気っすか。


絶対、治安がめちゃくちゃ悪いっすよ! 」


 ラックは頷く。


「兵力集めだ。」


「お前ら将軍は育った。」


「だが兵がいない。」


 ガルザが腕を組む。


「確かに。」


「将軍だけでは戦争になりませんな。」


 フォリエラも同意した。


「最低でも数万は必要でしょう。」


 ゴルドは言った。


「いや百万欲しい。」


 ラックは満足そうだった。


「うん。」


「だから修羅界だ。」



 ラックは宿屋の馬小屋近くで心象結界を開いた。


エービンスを左目から召喚。


エービンスは手のひらサイズの丸い胴体に大きな一つ目。


申し訳程度の蝙蝠の羽。雑魚っぽい悪魔である。


「エービンス。修羅界の門を開け。」


紫色の魔法陣が展開されて巨大な門に変形。


 空間が裂けた。


 その先は暗黒。


 血の色をした空。


 黒い大地。


 遠くで雷鳴が響いている。


 修羅界。


 地獄の戦場。


 三柱は息を呑んだ。


「ここが。」


「修羅界。」


 ラックはひょいっと


天馬に跨ると天馬は一歩踏み出した。


「行くぞ。」



 修羅界。


 第一層。


 赤骨平原。


 見渡す限り荒野だった。


 地面には無数の白骨。


 巨大な武器。


 朽ちた旗。


 そして。


 戦っている。


 数万の修羅たちが。


 今この瞬間も。


 意味もなく。


 延々と。


 殺し合っていた。



 一体の修羅が叫ぶ。


「死ねぇぇぇ!」


 別の修羅が斧を振り下ろす。


 さらに別の修羅が首を飛ばされる。


 しかし数秒後。


 再生する。


 また戦う。


 永遠の戦場だった。



 ガルザは顔を引きつらせた。


「なんだここ。」


 フォリエラも呟く。


「地獄ですね。」


 ゴルドが言った。


「修羅界だからな。」


 ラックが頷いた。


「うん。」


「地獄だ。」



 その時だった。


 一人の巨漢が歩いてくる。


 身長五メートル。


 全身傷だらけ。


 巨大な刀を担いでいる。


 周囲の修羅たちが道を開けた。


 強者だった。


 巨漢はラック達を見下ろした。


「人間?」


 そして笑う。


「珍しい。」


 ガルザが前へ出た。


「誰だ?」


 巨漢は胸を叩く。


「赤骨平原統括者。」


「赤鬼将軍ザンガ。」


 周囲がどよめいた。


 かなりの大物らしい。


 ザンガはラックを見た。


「人間。」


「ここへ何しに来た。」


 ラックは即答した。


「侵略。」


 沈黙。


 数秒後。


 修羅界全体が笑いに包まれた。


「侵略だってよ!」


「四人で!?」


「頭おかしいだろ!」


 誰も本気にしない。


 当然だった。



 しかし。


 ラックだけは笑っていない。


「ガルザ。」


「はっ。」


「アイツ倒してこい。」


 ガルザは頷いた。


「承知しました。」


 ザンガは笑った。


「お前が?」


「面白い。」


 巨大な刀を抜く。


 地面が震えた。


 周囲の修羅たちは歓声を上げる。


 戦いだ。


 修羅界で最も歓迎される娯楽。


 殺し合い。


 ガルザは拳を握った。


 数千年の修行。


 数万回の敗北。


 数万回の勝利。


 その全てを背負って。


 魔猴将軍ガルザは一歩前へ出た。


 ラックは腕を組む。


 そして静かに笑った。


「さて。」


「修羅界征服を始めるか。」


 こうして。


 紫帝ラックによる地獄侵略が始まった。

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