修羅界遠征
心象結界。
三柱の悲鳴が空へ響いていた。
「実戦って何ですか?」
ガルザが震えながら尋ねる。
フォリエラも青ざめていた。
ゴルドに至っては涙目だった。
「卒業したんじゃないんですか!?」
ラックは不思議そうな顔をした。
「卒業したぞ。」
三柱は少し安心した。
しかし。
「だから次は就職だ。」
三柱は固まった。
「……え?」
「就職?」
「どこに?」
ラックは笑った。
「戦場。」
三柱は天を仰いだ。
◇
世界が揺れた。
心象結界が解除される。
宿屋の部屋。
ベッド。
机。
壁。
現実世界。
しかし三柱からすれば数千年ぶりである。
ガルザは窓から外を見た。
「うわぁ。」
フォリエラも感動した。
「本物の空です。」
ゴルドは泣いた。
「窓の外を見て! 女の子たちがいるよ! 」
◇
ラックは三柱へ向き直る。
「これから修羅界へ行く。」
三柱は同時に首を傾げた。
「修羅界?
死んでもないのに地獄に?
もう地獄は十分すぎるくらい味わいましたよ?
本気っすか。
絶対、治安がめちゃくちゃ悪いっすよ! 」
ラックは頷く。
「兵力集めだ。」
「お前ら将軍は育った。」
「だが兵がいない。」
ガルザが腕を組む。
「確かに。」
「将軍だけでは戦争になりませんな。」
フォリエラも同意した。
「最低でも数万は必要でしょう。」
ゴルドは言った。
「いや百万欲しい。」
ラックは満足そうだった。
「うん。」
「だから修羅界だ。」
◇
ラックは宿屋の馬小屋近くで心象結界を開いた。
エービンスを左目から召喚。
エービンスは手のひらサイズの丸い胴体に大きな一つ目。
申し訳程度の蝙蝠の羽。雑魚っぽい悪魔である。
「エービンス。修羅界の門を開け。」
紫色の魔法陣が展開されて巨大な門に変形。
空間が裂けた。
その先は暗黒。
血の色をした空。
黒い大地。
遠くで雷鳴が響いている。
修羅界。
地獄の戦場。
三柱は息を呑んだ。
「ここが。」
「修羅界。」
ラックはひょいっと
天馬に跨ると天馬は一歩踏み出した。
「行くぞ。」
◇
修羅界。
第一層。
赤骨平原。
見渡す限り荒野だった。
地面には無数の白骨。
巨大な武器。
朽ちた旗。
そして。
戦っている。
数万の修羅たちが。
今この瞬間も。
意味もなく。
延々と。
殺し合っていた。
◇
一体の修羅が叫ぶ。
「死ねぇぇぇ!」
別の修羅が斧を振り下ろす。
さらに別の修羅が首を飛ばされる。
しかし数秒後。
再生する。
また戦う。
永遠の戦場だった。
◇
ガルザは顔を引きつらせた。
「なんだここ。」
フォリエラも呟く。
「地獄ですね。」
ゴルドが言った。
「修羅界だからな。」
ラックが頷いた。
「うん。」
「地獄だ。」
◇
その時だった。
一人の巨漢が歩いてくる。
身長五メートル。
全身傷だらけ。
巨大な刀を担いでいる。
周囲の修羅たちが道を開けた。
強者だった。
巨漢はラック達を見下ろした。
「人間?」
そして笑う。
「珍しい。」
ガルザが前へ出た。
「誰だ?」
巨漢は胸を叩く。
「赤骨平原統括者。」
「赤鬼将軍ザンガ。」
周囲がどよめいた。
かなりの大物らしい。
ザンガはラックを見た。
「人間。」
「ここへ何しに来た。」
ラックは即答した。
「侵略。」
沈黙。
数秒後。
修羅界全体が笑いに包まれた。
「侵略だってよ!」
「四人で!?」
「頭おかしいだろ!」
誰も本気にしない。
当然だった。
◇
しかし。
ラックだけは笑っていない。
「ガルザ。」
「はっ。」
「アイツ倒してこい。」
ガルザは頷いた。
「承知しました。」
ザンガは笑った。
「お前が?」
「面白い。」
巨大な刀を抜く。
地面が震えた。
周囲の修羅たちは歓声を上げる。
戦いだ。
修羅界で最も歓迎される娯楽。
殺し合い。
ガルザは拳を握った。
数千年の修行。
数万回の敗北。
数万回の勝利。
その全てを背負って。
魔猴将軍ガルザは一歩前へ出た。
ラックは腕を組む。
そして静かに笑った。
「さて。」
「修羅界征服を始めるか。」
こうして。
紫帝ラックによる地獄侵略が始まった。




