魔将誕生
心象結界。
紫色の雷雲が空を覆っている。
魔猴、水蜥蜴、牛頭の三柱は今日も地面に正座していた。
もはや地獄にも慣れていた。
慣れたくはなかったが。
ラックは玉座に腰掛けている。
腕を組みながら三柱を見下ろした。
「第三段階を始めて何年経った?」
魔猴が答える。
「三千七百二十六年です。」
水蜥蜴が続く。
「国家運営演習は四万八千三百十二回目です。」
牛頭も答えた。
「胃が痛くなってから三千年です。」
ラックは頷いた。
「よし。」
三柱は震えた。
ラックが「よし」と言う時は大体ロクなことがない。
「卒業試験だ。」
三柱は目を見開いた。
「卒業!?」
「終わるんですか!?」
「週休二日制が来る!?」
ラックは首を横に振った。
「来ない。」
牛頭は泣いた。
◇
世界が変わった。
今度は巨大な大陸。
東西南北に四つの国家。
中央には大帝国。
総人口一億。
軍勢二千万。
複数種族。
複数宗教。
複数言語。
三柱は顔面蒼白になった。
「無理です。」
「絶対無理です。」
「前の方が簡単でした。」
ラックは笑顔だった。
「安心しろ。」
三柱は少し安心した。
「お前ら三人でやる。」
三柱は絶望した。
◇
こうして最後の試験が始まった。
魔猴は軍務担当。
水蜥蜴は内政担当。
牛頭は外交担当。
「なんで俺が外交!?」
「一番人当たり良さそうだから。」
「そんな理由!?」
ラックは真顔だった。
「重要だぞ。」
「外交は相手に好かれなきゃ始まらん。」
牛頭は少し嬉しかった。
「(地元では愛されキャラで通ってたんだよなぁ。)」
◇
最初の百年。
帝国は崩壊した。
内乱。
反乱。
飢饉。
戦争。
全部起きた。
ラックは言った。
「やり直し。」
三柱は叫んだ。
「またですか!?」
◇
二回目。
三回目。
十回目。
百回目。
千回目。
何度も失敗した。
しかし今までと違った。
三柱は学んでいた。
何千年もの経験。
何万回もの敗北。
それらが蓄積されていた。
◇
一万回目の挑戦。
魔猴は敵国を武力だけで制圧しなかった。
敵将を説得した。
水蜥蜴は税率を調整した。
反乱が減った。
牛頭は各国との同盟締結に成功した。
しかもモテた。
「やった!」
牛頭は泣いた。
「ついにモテた!」
しかし。
ラックは言った。
「浮かれるな。」
牛頭は真顔になった。
◇
さらに数千回。
さらに数万回。
やがて。
世界は安定した。
百年。
二百年。
三百年。
国家は繁栄した。
民は幸福だった。
反乱は起きない。
戦争も起きない。
外交も安定。
経済も安定。
全てが理想的だった。
三柱は玉座の前に跪いた。
「終わりました。」
「やれることは全部やりました。」
「もう頭が働きません。」
ラックは立ち上がった。
ゆっくりと三柱の前へ歩く。
そして。
それぞれの頭に手を置いた。
「合格だ。」
その瞬間。
天地が震えた。
紫色の雷が世界を埋め尽くす。
膨大な魔力が三柱へ流れ込んだ。
魔猴の身体が巨大化する。
筋肉が膨れ上がる。
瞳に王者の威厳が宿る。
【魔猴将軍ガルザ】
水蜥蜴の肉体は蒼い光に包まれた。
巨大な水竜へと進化する。
【水竜将軍フォリエラ】
牛頭の身体は黄金の光を放った。
巨体はさらに大きくなる。
圧倒的な怪力と覇気。
【牛魔将軍ゴルド】
三柱は別格の存在へ進化した。
◇
三柱は涙を流した。
「ありがとうございます。」
「ここまで育てて頂き。」
「本当に。」
ラックは少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「別に。」
「お前らが頑張っただけだ。フン。」
三柱は首を横に振った。
違う。
自分たちは知っている。
何万年。
何十万年。
見捨てずに導いた者が誰なのか。
紫帝ラック。
その背中を。
三柱は深く頭を下げた。
「我ら三柱。」
「今後いかなる時も。」
「紫帝陛下の覇道に従います。」
ラックは満足そうに笑った。
「よし。って、人間界の将軍様になるおまえらの外見が
人外すぎるじゃん。
外見だけでも人化してくれ。できるよな。」
三柱は自分が強そうな容姿で自分の強さを
実感してしばらくは味わいたかった。
しかし、陛下の命令は絶対。
三柱は試行錯誤して人化をした。
ガルザは健康的な美女に。
フォリエラは知的な美少女に。
ゴルドは普通のおっさんに。
ラックは不敵に笑う。
「じゃあ次は実戦だ。」
三柱は固まった。
「……え?」
「実戦?」
「まさか今まで全部前座?」
ラックは頷いた。
「当たり前だろ。」
三柱は天を仰いだ。
心象結界の空に。
三柱の悲鳴が響き渡った。




