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魔将への道

 心象結界。


 空は紫色の雷雲に覆われていた。


 魔猴、水蜥蜴、牛頭の三柱は地面に倒れ込んでいる。


 何百年、何千年という修行を積み重ねた。


 身体も。


 精神も。


 知識も。


 かつてとは比べものにならない。


 それでも――


 ラックは不満そうだった。


「立て。」


 三柱は反射的に立ち上がった。


 もはや身体が勝手に動く。


 紫帝の命令は絶対だった。


 ラックは腕を組む。


「お前らに足りないものが何かわかるか?」


 魔猴が答えた。


「力です!」


 水蜥蜴が答えた。


「知識です!」


 牛頭が答えた。


「モテ力です!」


 ラックは牛頭の頭を拳骨で殴った。


 ゴンッ!


「ぎゃああああ!」


「違う。」


 ラックは真顔だった。


「お前らには覚悟が足りない。」


 三柱は息を呑んだ。


「将軍とは何だ?」


 誰も答えられない。


 ラックは続ける。


「将軍とは兵士を死地へ送る者だ。」


 三柱の顔色が変わる。


「部下を守りたいだけなら隊長でいい。」


「民を守りたいだけなら英雄でいい。」


「将軍は違う。」


 ラックの声は静かだった。


「百を救うために十を捨てる。」


「千を救うために百を捨てる。」


「国を守るために軍を犠牲にする。」


 三柱は言葉を失った。


「それができるか?」


 沈黙。


 そして魔猴が拳を握った。


「できます。」


 水蜥蜴も頷く。


「やります。」


 牛頭も震えながら答えた。


「逃げません。物理的にも逃げれません。」


 ラックは初めて満足そうに笑った。


「よし。」


 その瞬間。


 世界が変わった。


 三柱は巨大な城壁の上に立っていた。


 眼下には数百万の軍勢。


 敵軍だった。


 さらに後方を見る。


 守るべき都市。


 百万人以上の民。


 そして補給は三日分。


 絶望的状況だった。


「さぁ、未来の名将諸君。戦え! 」


 ラックの声だけが響く。


「この国を守れ。」


 三柱は顔を見合わせた。


 そして。


 地獄の戦争が始まった。



 一度目。


 三柱は勇敢に戦った。


 そして敗北した。


 都市は陥落。


 民は虐殺。


 国は滅亡。



 二度目。


 慎重に戦った。


 それでも敗北。



 三十回目。


 百回目。


 千回目。


 何度やっても滅ぶ。


 三柱は狂いそうになった。


 しかしラックは許さない。


「やり直し。」


 その一言だけ。


 世界は巻き戻る。


 また戦争。


 また敗北。


 また戦争。


 また敗北。



 やがて。


 何万回目かの挑戦。


 魔猴が敵将を討ち取った。


 水蜥蜴が補給線を切断した。


 牛頭が最後の防衛線を支えた。


 都市は守られた。


 民も生き残った。


 勝利だった。


 三柱は歓喜した。


「やった!」


「勝った!」


「あ、これ戦後に町娘たちにモテモテになるやつだ!」


 ラックは首を横に振った。


「違う。」


 三柱は固まった。


「え?」


「今のは勝っただけだ。」


 ラックは玉座に座りながら言う。


「将軍は勝つだけじゃ駄目だ。」


「勝ったあとも考えろ。」


 世界が再び変わる。


 今度は占領地。


 反乱。


 飢饉。


 疫病。


 難民。


 税制。


 宗教問題。


 外交問題。


 三柱は絶望した。


「まだあるの!?」


「終わったと思ったのに!」


「モテる暇ないじゃないですか!」


 ラックは笑顔だった。


「将軍とはな。」


「戦争が終わってからが本番なんだ。」


 三柱は膝から崩れ落ちた。


 そして紫帝は立ち上がる。


「さぁ第三段階だ。」


 空が紫雷で染まる。


 魔猴は涙を流した。


 水蜥蜴は現実逃避を始めた。


 牛頭は地面に額を擦りつけた。


「お願いです陛下!」


「休憩を!」


「せめて三日!


いや、三日が無理なら週休二日制導入を! 」


 ラックは笑顔のまま答えた。


「却下。」


 こうして。


 三柱の地獄はさらに深くなっていくのだった。

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