紫帝の地獄訓練
心象結界の砂漠。
三柱の悪魔たちは目を輝かせていた。
魔猴、水蜥蜴、牛頭。
三柱は紫帝ラックを見上げる。
「力が欲しいか?」
その言葉に三柱は同時に叫んだ。
「欲しいです!」
「強くなりたいです!」
「将軍になりたいです! あと、モテたいです! 」
ラックは満足そうに頷いた。
「よし。では修行だ。」
三柱は安堵した。
強力な魔術を授かれるのだろう。
秘宝を貰えるのだろう。
そう考えた。
しかし次の瞬間。
世界が変わった。
砂漠が消えた。
目の前には巨大な山脈。
空は赤黒く染まっている。
「まず山頂まで走れ。」
三柱は固まった。
「え?」
「え?」
「おもってたのと違う?」
ラックは笑顔だった。
「走れ。」
その一言だけだった。
こうして地獄が始まった。
◇
一日目。
三柱は山を登った。
転び。
滑り。
落下し。
死にかけた。
しかし心象結界内では死なない。
傷も再生する。
だからラックは容赦しない。
「死なんから死んでも続けろ。」
それだけだった。
◇
百日後。
魔猴は岩を素手で砕けるようになった。
水蜥蜴は百メートル級の滝を逆流して登れるようになった。
牛頭は巨大な岩石を背負ったまま走れるようになった。
しかしラックは首を横に振る。
「うそやろ?
国宝から出てきた悪魔ちゃうん? マジ弱い。」
三柱は絶望した。
◇
さらに修行は続く。
今度は雪山。
猛吹雪。
氷点下。
悪魔である彼らですら凍える環境。
「精神力を鍛えろ。」
ラックはそう言った。
三柱は一年以上を吹雪の中で過ごした。
怒り。
苦しみ。
恐怖。
弱音。
全てを乗り越えた。
無理やり乗り越えさせられたのだ。
◇
次に現れたのは大海原。
「泳げ。」
三柱は泳いだ。
何年も。
何十年も。
何百年も。
時間の概念が存在しない世界だからこそ可能な修行。
やがて水蜥蜴は海流を支配できるほどの能力を得た。
魔猴は海上を走れるようになった。
牛頭は海底を歩いて移動できるほどの怪力を得た。
◇
しかし。
ラックが最も重視したのは戦闘ではなかった。
「将軍になるなら兵を率いろ。」
そう言って心象結界に軍勢を作り出した。
一万。
十万。
百万。
無限の兵士。
三柱は指揮を学ばされた。
補給。
統率。
陣形。
撤退。
伏兵。
陽動。
外交。
占領統治。
ありとあらゆる戦争技術を叩き込まれた。
失敗すれば全軍壊滅。
そして最初からやり直し。
何千回も。
何万回も。
繰り返した。
◇
やがて。
三柱は変わり始めた。
魔猴は知略を学んだ。
短気だった性格は落ち着いた。
水蜥蜴は冷静な判断力を身につけた。
牛頭は恐怖を克服し勇気を得た。
そしてある日。
ラックは玉座に座りながら三柱を見下ろした。
「お前たちは何のために強くなる?」
三柱は迷わなかった。
魔猴が答える。
「仲間を守るためです。」
水蜥蜴が続く。
「民を守るためです。」
牛頭が拳を握る。
「陛下の理想を実現するためです。
あと、モテたいからです。」
ラックは初めて満足そうに笑った。
「よし。」
世界が揺れる。
空が割れる。
心象結界全体に紫の雷が走った。
三柱の身体から膨大な魔力が噴き上がる。
魔侯族は大猿王に匹敵する魔力を。
水蜥蜴は上位水魔族に匹敵する力を。
牛頭は魔将級の怪力を。
それぞれ獲得していた。
ラックは立ち上がる。
「これで最低限だ。」
三柱は震えた。
これだけの力を得ても。
紫帝にとっては最低限。
その事実に畏怖を覚える。
ラックはニヤリと笑った。
「さて、第二段階に入るぞ。」
三柱の顔から血の気が引いた。
「え?」
「まだあるんですか?」
「うそだろ……モー帰りたい……」
ラックは笑顔のまま言った。
「当然だ。
っていうかまだまだ弱すぎッて気付けよ! 」
こうして三柱の本当の地獄が始まった。




