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王城会議室の静かなる粛清

王城の深部、重厚な沈黙が支配する会議室。

かつてゴルドリアの威厳を象徴したその場所で

王国は今、音もなく解体されつつあった。


ベルリック旧臣たちにより

王城内は完全に徹底的にまでに武装解除され

ゴルドリアの王城は事実上、陥落した。

ゴルドリア王ライオは降伏を口にした。


長テーブルを挟み

老いたる獅子獣人の王ライオ・ド・ゴルドリアと

若き姿を取り戻した元同僚ベジュロウが対峙する。

かつてベルリック王家で肩を並べた戦友たちは

今や決定的な断絶の淵に立っていた。


「……お前ほどの誇り高い高潔な男が

なぜ他国から来た少年の手に

この祖国の行く末を委ねる?」


ライオの問いに

ベジュロウは自嘲気味に笑った。


「誇り、か。

白の魔王の軍門に降ったお前が

それを俺に問うのか。

ラック殿はブリジット王女の縁者だ。

正当なる王家の使者に従うことこそ

誇りあるベルリック臣下のありようではないのか」


その冷徹な宣言にライオは言葉を失う。

玉座の主が過去の亡霊に囚われる様を

ラックはあくびを噛み殺しながら眺めていた。


「さて、センチメンタルな同窓会は終わりですね。

ライオ王、あなたが懇願した件だ。

この国の最優先課題は食糧問題だったな。

原因を色々と、教えてもらったけれど

簡単に解決できるじゃないか。

君が北方連合国へ献上している食糧を

明日から全て停止すればいい。

そうすれば、いま、食糧危機の情報に釣られて

食糧の買い占めに走っている輩も

きっと、在庫を吐き出すだろう。」


会議室に衝撃が走る。

それは「白の魔王」への叛逆を意味していた。

真っ青になったのは

ギルド長でありながら

白の魔王の配下でもあるゴイゼロだ。


「お待ちください、ラック殿!

それは北方連合国との全面戦争を招く行為に他なりません!

備蓄を回せば辛うじて均衡は保たれておりますが

……上納を止めれば、北方は深刻な食糧危機に陥ります!」


ゴイゼロの額には脂汗が滲む。

白の魔王が飢えた時、その矛先が真っ先に向けられるのは

ゴルドリア国。

しかし、ゴイゼロは知っている。

白の魔王は紫の魔王に絶対に勝てない。

実力の次元が違う事を実際に見た現実で理解しているのだ。

白の魔王が治める北方連合国を守るには

ラックに尻尾を振って、地面に頭をこすりつけてでも

慈悲を請うしか道はない。

ゴイゼロは、ライオ王がかつて味わった苦渋の選択を

今まさに自分が強いられているという皮肉な現実に直面していた。


ラックは冷めた眼差しでゴイゼロを見下ろした。


「ゴイゼロ、君の立場など知ったことではない。

自国の人間が飢えているのに

他国のお腹を満たす義理がどこにある?」


「しかし、それは北方連合国の破滅を意味します!」


「いいえ、最適化です」

ラックの横で、シャノアが冷ややかに補足する。

シャノアは淡々とリストに×印を書き込んでいる。


「君たちが奪い合うなら

それは君たちの側の管理能力不足だ。

俺は自分の管理下にあるこの現場を救うために動く。

北方の民衆達が飢えて死のうが

俺の『現場』には関係のない話だ」


シャノアが冷笑と共に

次はゴルドリア国の王族貴族や

官僚の汚職リストを突きつける。

「内側のゴミ掃除は私がやるわ。

ゴイゼロ、あなたは北方への通達を頼む。

これは交渉じゃない、決定事項よ」


ゴイゼロは震える手で書類を握りしめた。

北方の主に背けばただの裏切り者。

だが、目の前のラックという「理」に逆らえば

即座に消滅させられる。

ゴイゼロはラックへの絶対的服従しか選択肢がない。


ラックは王都の地図から視線を上げると

絶望で顔が歪むゴイゼロを無視して

場違いな瑣末事を口にした。

「あ、そうだ。地図で気になることがあって

明日の朝からのゴミ出しですが

収集所の配置を現場の動線に合わせて変えてください。

こういう小さな改善が

国家支出のコストカットに繋がるんです。

……では、会議はこれで終わり」


北方の大飢饉という大惨事の引き金を引きながら

ラックにとってそれはあくまで「微調整」に過ぎない。

玉座という空虚な権威は残されたが

王城の中身は今や

魔神が管理する「ただの事務所」へと変貌を遂げていた。

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