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歩き出すツワモノたち

王城の地下、冷たい石床には血の海が広がり

ベルリックの旧臣たちは

もはや武器を握る力すら残されていなかった。




ただ一人、くの一シャノアだけが

ボロボロの装束を纏って立ち塞がっていた。

荒い息が、静まり返った地下通路に響く。

「……みんなを守りながらじゃ、

これ以上は無理ね。どうやら、私の運も尽きたみたい」




余裕の笑みを湛え、近衛騎士団長『豹人』パテシが

長剣を肩に担いで歩み寄る。

その瞳には、獲物をいたぶる獣の残酷な光が宿っていた。

「粘るじゃないか、女。お前、かなりの手練れだな。

だが、もはや立っているだけで精一杯だろう。

その命、ここで終わりだ」


シャノアは力なく微笑み、最期の力を振り絞る。

「そうね。

でも、あんたを倒せば……まだ可能性は、ゼロじゃない」




パテシが鼻で笑い、長剣を振り上げた。

「なんの可能性かは知らんが、

その可能性が『最初からゼロだった』ことを

地獄の底で教わるといい」


その剣が振り下ろされる直前――空気が、凍りついた。



「……なんかごめん・・・帰ってきちゃった」


気まずげな声と共に、パテシの長剣がピタリと止まる。

パテシが目を凝らすと

そこには先ほどまでの新人冒険者・ラックが

所在なさげに立っていた。


シャノアは驚きに目を見開き、そして深く安堵のため息をついた。

「ラック……? どうして。

王城の警備が厳重で引き返してきたの? 」




ラックは困ったように眉を下げ、頭をかいた。

「いや、王様とは面会したんだけどね。

……どうにもこうにも、交渉って奴は性に合わないだ。

難しい交渉なんてしていたらストレスで

自分を抑えられなくなりそうで、たまらなくなってね」

「……何言ってるのよ」

「分からない。

王国の状況が色々と

意味がわからなくて俺にもさっぱりだ」


ラックはシャノアに歩み出ると、静かに言った。

「でも、これだけは確かなんだ。

今の俺には、君たちが必要なんだよ」




「小僧、邪魔だ! いますぐ死んどけ!」

怒声を上げ、パテシが稲妻のような速さで長剣を突き出した。

それは音速を超えた必殺の一撃だった。……はずだった。


――ドズン。


鈍い音が響き、パテシの長剣が石床に落ちた。

パテシは目を見開いたまま

松明の淡い光に照らされたラックの顔を凝視した。

その瞳の奥には

人間離れした、禍々しい紫光が揺らめいている。




「お前……何者だ。その目はなんだ!

お・・お前、人間じゃないな……!」




ラックの瞳から放たれた紫の魔光。

それを見た瞬間、パテシは本能的な恐怖に支配された。

心臓が早鐘を打ち、全身が粟立つ。

見ると、自分の両手の指が、

ありえない方向へぐにゃりと歪んでいた。

アドレナリンで痛みに気付けていなかったが

指を見るとパテシの感情は冷静になり

脳に激痛が波のようにどんどん大きくなり押し寄せる。


「うわぁぁぁぁぁッ!!」

パテシの悲鳴が地下通路を震わせる。


ラックは、動揺するパテシの肩に優しく手を置いた。

「君は、この国では強い方なのかもしれない。

だが、それだけだ。

……自分で言うのは少々恥ずいのだが

神の領域に達した者と闘うことの『厳しさ』

その一端を見せてあげようではないか。」


「神……だと……?」



パテシの絶望をよそに、ラックは両手を高々と頭上に掲げた。

「朽ち果てた者たちよ。

かつての勇姿へ回帰せよ。『人体錬成』!」




地下通路全体が、妖しくも神々しい紫光に包まれた。

床に倒れていた老人たちの体が、紫の炎に浄化されながら

凄まじい勢いで再構成されていく。

背筋が伸び、皮膚の皺が消え、折れた骨が音を立てて繋がる。

数瞬後、そこに立っていたのは

命の炎を燃え盛らせる二十人の若き戦士たちだった。

「回復魔法か!? これでまだ戦える! 」

「……な、体が軽い。腰の痛みが消えているだと!?」

「視界が……ぼやけない! 再び目を細めずに遠くや近くの物を

見えるようになったのか!」

「膝が、膝が笑わない。

もう君は笑わないんだね 」


「腕がある……右腕が、再生している……!」

老将ベジュロウは、若返った右拳を力強く握りしめた。

その漲る力に、彼らは歓喜の雄叫びを上げる。


「おおぉおおおおお!!!」



パテシは青ざめた。

目の前で起きている奇跡は、人の理を超越している。

逃げ出したいという本能を必死に抑え込みんでいたが

その感情は彼らの雄叫びにより限界に達した。

彼は己の武器すら拾わず、王城の奥深くへ向けて全速力で逃走を開始した。



背後では、若き力を取り戻したかつての英雄たちが

地鳴りのような咆哮を上げて王城内に向け、軍靴を鳴らしていた。

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