滅びが近づくゴルドリア
老人たちを置き去りにして
王城の地下から石段を駆け上がるラック。
「王様、一体、どんな人だろう。」
階段を上ると大きな扉が横たわる。
「鍵とかかかってないかな。」
ラックは、そっと、ドアノブをひねった。
「この扉・・・開くぞ。」
音を立てないように気を使って開けようとした。
ゴギギイギイギイイィィ・・・
扉と床とのしっかりした摩擦で大きな音が反響した。
ラックは「もうええわ! 」と
覚悟を決めて思い切り扉を開ける。
大広間に出た。・・・誰もいない。
しばらく王城を歩いていると、一人の衛兵に遭遇する。
衛兵はギョッとした表情をして「侵入者だ! 」と叫んだ。
衛兵たちが続々と集まってくる足音が聞こえた。
5人の衛兵が到着した。
「捕えろ! 抵抗するようなら殺せ! 」
衛兵たちは足並みを合わせてラックに向けて槍を突き立てる。
槍はラックの体に触れる前に消滅していく。
ラックは右拳を左手にで包み込みコキコキと間接を鳴らす。
「俺は優しい。だから、君達を殺めたりしない。」
衛兵がどんどんと集まり、50名ほどになった。
ラックをジワジワと取り囲む。
衛兵が「侵入者は魔法か何かで防御している! 」と
大声で叫び仲間で情報を共有した。
ラックはダルそうな顔で、両拳を胸の前で合わせた。
「心意気功術『覇撃』! 」
気のエネルギー衝撃波が円周状に発せられた。
取り囲んでいた衛兵たちは
肉体を何かが通り過ぎた感覚はあった。
その瞬間に兵士たちは意識が
刈り取られ白目をむき床に沈み痙攣している。
ラックは衛兵たちに見向きもせず歩き出す。
「王様はいますか~! 偉い人、誰かいませんか~!」
広い廊下の向こうに人影が突如現れる。
空間の切れ目から次々と人が現れる。
100名を超える漆黒の鎧の羅刹部隊だった。
一人の羅刹が口を開いた。
「新人冒険者のラックくんじゃないか。
いや、ラック・デストと呼んだ方がよいか。」
「あんただれ? 」
「失礼。君とこうして相対するのは初めてだな。
この国の冒険者組合のギルド長をしているゴイゼロだ。
君は怪しすぎたので見張りをつけておいたのだ。
まさか、王城に乗り込んでくるとは思わなかった。」
「で? ギルド長様が何しにここへ来たんだ? 」
「フッ・・そりゃあ、王城の防衛のためだ。」
「あんたは防衛できると思うか?
なぁ、ゴイゼロ・イアドよぉ~。」
ラックは左目からエービンスを召喚した。
ゴイゼロの顔から血の気が引いていく。
「なんだそれは・・あ。エービンス様!!!
・・・って、へ。まさか!まさかぁ!
陛下! 紫帝陛下であらせられるのですか!? 」
ゴイゼロは過去に羅刹の将の一人として
紫帝に拝謁した過去があった。
『六道界』迷いと苦しみの絶えない6つの世界である。
天界、地獄界、畜生界、
餓鬼界、人間界、修羅界)を創造神とともに
創造に関わった神の一柱。魔神アッシュベルク。
通称、紫の魔王。紫帝。
ラックは微笑む。
「地獄界のゴイゼロかぁ。懐かしい。
お前は東方断罪府の主将の地位だったか。
今は昔よりも昇格しているかと思えば
冒険者のギルド長になっているとはなぁ。
人間界での役職が追加されたって考えれば出世か。
で、どうすんの?
俺に相対したお前の選択とやらをすごく訊きたいなぁ。」
さすがのゴイゼロも思考を巡らせても答えがすぐに出ない。
相手の強さとかそういう次元の話ではない。
そもそも、顔を合わせてはいけない存在なのだ。
かつての紫帝の傍若無人っぷりを知るものからすれば
言葉を交わすだけでどんな厄災が降り注ぐかわからない。
ゴイゼロは震える口から言葉を絞り出す。
「陛下・・・ご復活、謹んでお慶び申し上げます。」
ラックは興ざめと言って表情を返した。
「うむ、大儀である。
この国の王のところまで案内せよ。」
ゴイゼロは膝から崩れ落ちるようにして
土下座をして頭を床にこすりつけた。
「はは! かしこまりました。すぐに案内仕りまする。」
ゴイゼロに案内されて王の間へ向かう。
王の間。突然、深夜にゴイゼロが訊ねてきた。
ゴルドリア王は、目の前の光景に絶句する。
冷酷な支配者として君臨していた冒険者ギルド長・ゴイゼロが
あろうことか這いつくばり、震えている。
そんな男を従え、漆黒の羅刹たちがひれ伏す廊下の先に
一人の少年が立っていた。
「……何の冗談だ、これは」
年老いた獅子の獣王は掠れた声で呟き立ち上がった。
その玉座の冷たさなど
今の状況の異常さに比べれば些末なことだった。
王はラック――いや、目の前にいる「何か」の気配を悟り
直感で理解する。これは人間が持ちうる気配ではない。
「清算の使者、か……あるいは救世主か。……貴殿、何者だ」
ラックは肩をすくめると、その背後でいまだ震えるゴイゼロを一瞥した。
「名前か。ラック。
ラック・デストだ。この国の『管理者』と話がしたい」
ラックは玉座の階段を一歩ずつ、音もなく登っていく。
衛兵はいない。もうこの城に戦える衛兵は1人も残っていない。
王は玉座の肘掛けを強く握り、あえて退くことはしなかった。
「デスト家か、
貴殿はブリジット王女殿下の手のものなのか。
……かつての裏切者を断罪しにきたのか。
しかし、もはや、白の魔王の加護を失い
北方連合国に搾取され、明日をも知れぬ有様だ。
もしも、貴殿が救世主を名乗るなら
まずはこの飢餓をどうにかしてみせろ。
できなければ、貴殿はただの闖入者だ」
王の問いかけには、最後の一手にかけるという気概がこもっていた。
ラックは玉座のすぐ手前まで歩み寄る。
「(へ? もしかして、すでに断罪してたのか。
俺・・・もうすでに王様を追い詰めていたのか? )」
「どうした。返答やいかに。」
ラックは少しの沈黙とともに、自分の仕事ではない感を感じた。
「あ。うん。・・・・今、しばしの保留としよう。
あなたに合わせたい人達がいる。もう、いた(過去形)に
なっている可能性もあるがその人達を連れてこよう。
そして、改めて、返答をすることといたしましょう。」
ラックは急ぎ足で王の間を出た。
王城の地下で戦っている老人たちのもとへ走り出した。
「お爺ちゃんたちにはシャノアがついているから
たぶん、全滅はしてないよな。生きててくれよ。
俺、政治とかややこしい交渉とか苦手なんだよ」
想像以上にゴルドリア国に深いダメージを与えていたことに
ようやく気付いたラックは考える時間を稼ぐためにも
老人たちの存在価値が跳ね上がった。
ラックはゴルドリア国よりも白の魔王と戦う方向で嫌がらせ程度に
動いていたつもりが
いつの間にかゴルドリア国のライフゲージが0になっていた。
その事実がラックの焦りを生み
駆ける足は音速を超えて光速へと至らせる。




