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Day.6-2 淫乱じゃないんです!怨念の所為なんです!

「あの……すみません、私、何てことを……」


 狼狽したホーリィさんが視線をうろうろと彷徨わせている。


 食堂には現在、俺の他にホーリィさんとチコと、イリヤさんにシトリ。

 それと隅っこの方でマスキュラさんとガリアーノさんの筋肉コンビがいびきをかいて爆睡している。

 この二人、結局あのまま飲み続けてここで寝たのか……。


 昨晩の宴会は夜遅くまで続いた。


 自宅へ帰る者達は警備兵によって随時送り届けられたが、宿の空き室が解放されていたので、休みたい者はこの宿で一眠りしている。

 ロメール王も、生きていることがみんなにバレたにも関わらずまだこの宿に居座っている。居心地よくなってしまったのかな。もっとも、サンロメリア城が昨日の事件によって酷い状態になっている今、こちらにいる方がより身の安全が保証されているとも言える。


 あの後、俺は何とか漢気を見せてホーリィさんをなだめすかし、食堂へと連れてきた。

 朝食の支度をしていたシトリが驚いて食器を落とすくらいには、俺の状態は酷かったようだ。


 トイレの鏡で確認したところ、首筋はもとより顔中にキスマークが点在していた。

 それほど、ホーリィさんの吸引力は凄かったのである。あと舐め方が絶品だったね。


「一体、どういうことなんでしょう?」


 シトリが隣に座る厳しい表情のイリヤさんに恐る恐る声をかけた。殺気のこもった視線を感じる。恐ろしい……。


「ホーリィさん、あなたのせいではないと始めに言っておこう。だからそうやって畏(かしこ)まる必要はないし、こんな奴に罪の意識を感じる必要もない」


「こ、こんな奴!?」


 と俺が不平を述べた瞬間、殺気のレーザービームが飛んできた。ヒエッ。押し黙るしかない。


「え?それは……どういう意味でしょう?」


「ホーリィさん、あなたは長時間魔獣の体内に囚われていた。その影響で意識の深いところで、あのデストリアを形成していた怨念達と繋がってしまっていた。これがまず、前提条件だ」


「はい」


「魔獣から切り離された後も、あなたの意識の中に怨念の残滓(ざんし)は残っている。あなたは知らないだろうが、デストリアが倒される直前、怨念はそこの男へ乗り移ろうとしていた」


 それは俺がデストリアの中からホーリィさんを救い出そうとした時のことだ。魔獣の肉身に触れた瞬間に、脳内へ戦慄すべき映像が流れ込んできて、奴らが俺を浸食しようとしてきた。

 イリヤさんが俺の意識を繋ぎ止めてくれなかったら、あの時、俺は怨念の新たな憑代となっていたに違いない。


「結果的にそうはならなかったわけだが、怨念達は霧散する前に強烈な想いを抱いていたはずだ。この男を喰らって、生き永らえると。あなたの今朝の奇行は、そのせいだ」


「あぁ……そうなんですね。私、この方のお顔を見たらいてもたってもいられなくなってしまって……。怨念の、せいだったんですね」


「そうだ。そして時間が経過すれば、そういう衝動も起こらなくなるはずだ。だが今しばらくは、気を引き締めておいた方がいい」


「わかりました。ほんとうに、皆さんにはご迷惑をおかけしました」


 そう言ってホーリィさんは頭を下げた。慎ましい人である。


 魔獣デストリア、か。倒しても尚、その怨念はしぶとく残っているということか。俺はてっきり、ホーリィさんが俺に一目惚れしてしまっただけのことかと思っていた。やはり未亡人というのはいろいろと鬱積しているものがあるだろうし、最近の俺の活躍っぷりならば女性に惚れられても読者も納得してくれると思い込んでいた。


「私は特段、迷惑を被ってはいない。多少、不快な思いをしただけだ。ホーリィさん、あなたには娘がいる。彼女を悲しませることのないよう、慎重に行動されるといい。……だが、お前!」


 殺気!ビーム!


「は、はいっ!」


「お前はもっとシャキッとしろ。お前が優柔不断な態度を見せていると結果的にホーリィさんが無用の罪悪感を背負うことになる。彼女はまだ、本調子ではないんだ。気遣う心があるなら、毅然とした態度で臨め。わかったか?」


 すごい圧力だ。有無を言わさぬ迫力がある。この人に凄まれたらもう、俺にはYESと答える以外の選択肢は無い。


「イエス、サー……」


「本当に、わかったんだろうな?」


 念押し!?しかも若干身を乗り出してきている。これはヤバい。


「はい、もちろん、わかりましたよ。ホーリィさんの為に、俺が我慢することにしますぅ……」


「ふん、わかったならよろしい」


 イリヤさんが身を引いた。そして殺気が、消えた。

 ふぅ……これで一安心だ。


「あの……あなたには本当になんとお詫びしたらいいのか」


 ホーリィさんはわざわざ俺にまで謝罪してくれようとしている。なんて淑女なんだろう。こっちの世界の知り合いは大半がオラオラ系女子なので尚更、この控えめな態度に好感を覚えるなぁ。


 俺は出来るだけ爽やかに笑って、手をひらひらさせた。


「なんのなんの!ホーリィさんは全く気にする必要はありません!というか全然嫌じゃ無かったので大丈夫です!衝動が込み上げてきた時はどうか遠慮なく言ってください!男の責任として、ホーリィさんをしっかりと受け止めますよ!任せておいてください!また一緒に楽しみま」


 殺気!!


「……冗談です、ずいまぜぇん……」


「ホーリィさん、見ての通り、こいつは頭より下半身で物事を考えるような下衆だ。気を許さない方がいいと忠告しておく」


 ひ、酷い言い草……。待ってほしい、俺はこっちの世界では結構頭を使って行動していると思うぞ。それに男子たるもの、ブレーンは二か所に存在するのだ。脳と、下半身に。知能と、本能である。


「あの……私なんかで良ければ……」


「えっ!?」

「何っ!?」


「嫌じゃないと仰っていただけるなら……どうぞ、よろしくお願いします」


 ホーリィさんはチラッと俺を横目で見て、恥ずかしそうに目を伏せた。か、かわえぇ……。


 イリヤさんが放心したような表情で天井を見上げている。

 やったぜ、今回は俺の勝ちだ!救国の騎士、サイコー!


「ヘイヘーイ!豚さんいるー?」


 その時、ゴスロリ魔導少女が食堂へやってきた。

 そして、イリヤさんの表情とその場の空気を確認して、


「……これ、どういう状況?」


 ジュークはそう呟いたのだった。

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