Day.6-3 魔導少女は女体化させたい
「グゴオォォ」
「ゴアオォォ」
いびきの不協和音が鳴り響く中、俺はジュークと対面していた。
筋肉コンビは相変わらず起きる気配もなく、隅っこでゴロゴロしている。
場所は相も変わらず食堂である。しかしこの場にいるメンバーに変化があった。
まずイリヤさんがサンロメリア城へ行ってしまったので不在。
ホーリィさん、チコ、シトリの3名はバタバタと調理場や客室を動き回っている。
入れ替わりに食堂へ顔を見せたメンバーは以下の通り。
ヤン・ヤンティ。
古城シコ。
野見作次郎。
ケイ・ザ・ウェスト。
いずれも異世界転移者達である。
そしていずれも、俺の顔を見た時に驚きのリアクションを取っていた。
異世界転移者達は全員が城へ戻らず宿に泊まった。これもロメール王同様、こちらの方が安全であり居心地も良かった為だろう。
念の為整理しておくと、この宿から出て行ったメンバーは、
ソラリオ王子とロクス王子、ディジーさんとヨハネ大将、そしてさっき城へ向かったイリヤさんの5名。
その他は全員がまだここに残っていることになる。
「なぁるほど、そういう事があったわけね。で、イリヤが嫉妬して出て行っちゃったんだ」
ちょうど今朝の出来事のあらましを、俺がジュークに説明し終えたところである。
他の転移者達も「んんwww」「へぇ~」「ほぅ」「ふむ」などと言いながら話を聞いていた。
「怨念ていうのは厄介だよね。魔物とはまた違って、元が人間なだけに魔術で簡単に祓ったり出来ないし、放置しておくと結構しつこく付きまとうよ」
「え?そうなの?悪霊の類いも魔術でどうにかなるもんだと思っていたけど」
「もちろん、魔術が全く効かないわけじゃないよ。ただ、魔物やそれに準ずる邪気なんかと悪霊とでは存在している場所というか、領域が違うから、対処するには別の方法が必要になってくるね。だから魔導師の中にも、祓い屋とかいって霊を鎮める専門の人間もいるわけ」
そういうことか。専門が違うということなんだな。
「ジュークは悪霊とか怨念は専門外なのか?」
「うーん、無理じゃないけど得意科目ってほどじゃないね。祓えないこともないけど、特別強力な奴を相手にするのは骨が折れるかな」
ジュークは自他共に認める天才魔導師だが、そんな彼女にも苦手分野は存在するらしい。そして魔術というやつも、意外と細かなジャンル分けがあるんだな。
「おっと、そういう話をしに来たんじゃ無かったね。今日はあんまり時間が無いから、本題に入るね」
「本題?そういえば俺に用があるんだったな」
「うん、例の能力を使って、探ってほしいことがあってね」
新たな仕事の依頼か。
俺は昨晩酒を全く飲んでいない。そして睡眠時間も充分に確保できた。気力体力共に申し分ない。どんな依頼であれ、問題なく遂行できるだろう。
……なぁんてこの時は思っていたのだ。
「これから、“女の子になって”魔法女学院へ潜入して欲しいの」
「……は?」
一瞬、俺が聞き間違えたのかと思った。“女の子になる”とは一体どういう意味だ?女装か?しかし俺の女装なんか通用するのだろうか。
「っと、説明が足りなかったね。これから、あなたに女体化魔術を施して性別を女の子に変えるから、魔法女学院に学生として潜入して調査して欲しいことがあるんだよ」
「……は、はぁ!?女体化!?」
「うん、そう」
「いやいや、ちょっと待ってくれよ!そんなこと……可能なの!?」
「うん」
「マジかよ!」
何でもアリだな、魔術って!
さっき細かいジャンル分けがあるんだなーなんて思い改めたところなのに、結局万能じゃねぇか!
まぁジュークだからこそ魔術で何でもかんでも出来るんだろうが。
「本来なら今日くらいゆっくりしててもらっていいかなって思ってたんだけど。昨日の事件ではすごく動いてくれたしね。私としても事件の余波で王都全体が揺らいでいる現時点で迂闊な行動は控えたいなと思ってはいるんだけど、どうにも元老院からの突き上げが強くてね」
「元老院?」
「ざっくり言っちゃうと王に近しい貴族連中だね。元老院というのは名目上は王の助言機関だけど、その実態はロメール帝国成立以前からこの一帯で大勢力を築いていた富豪たちの寄合だよ。ロメール王が帝国樹立の際に貴族たちに取り入って支配制度の中に編成したのが元老院ね。
30名ほどの構成員から成っているんだけど、いずれもロメール帝国指折りの富豪たちで、彼らの影響力は侮れないんだよ。だから王も私も、随時彼らの意見には耳を傾けているし、彼らの意向を汲むときもあるってわけ」
なるほど、“上級国民”というやつか。それは、めんどくさそうな連中だな。
「帝国の実権を握っているのは軍部だけど、大将たちも元老院を無視して勝手な行動をとることは出来ないよ。なぜなら軍部の人間にも多くのコネを、元老院は持っているからね」
結局のところ、国家は富める者達の意向に沿う形でしか存続できないのだ。やれ民主制だ、国民主権だと言っても、それを認可するのは一部の権力者たちなのだ。そして権力とはイコール、金である。
「なんか、変わんねぇなーって思ってきたよ。俺のいた世界も、こっちの世界も」
「そりゃそうだよ、どっちも同じ人間なんだもん。けど、今自分がいる場所で、出来ることを少しずつやっていくしかないからね」
「あぁ、その通りだな」
俺に出来ることというのはつまり、アルコール・コーリングである。
「で、一体何をそんなに突き上げられてるの?」
「魔法女学院で最近頻発している事件について」
「魔法女学院って言ったら、あれだろ?ロメール帝国一の名門とかいう……」
「イリヤに聞いた?」
「うん、一昨日だったかな」
「なら話は早いね。魔法女学院パドラ・アイギス。ロメール帝国の最高学府、私やシトリを始め多くの魔導師を輩出した名門中の名門。そこで今、奇妙な事件が頻々として起こっている……」
そしてジュークは語り始めた。
魔法女学院パドラ・アイギス。
そこを舞台として巻き起こる恐ろしい事件の陰に蠢く存在について、この時点で俺には知る由も無かった。
全てはまだ、凝る闇の奥深くに閉ざされていた……。




