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第12章:愛する人を見つけて

【SIDE:大河内蔵之介】


 思えば僕があの日から彼女に惹かれていたのかもしれない。

 初めて僕らが出会った、最初の日から――。

 日野先輩は美人で大人の女性だ。

 けれども、時折見せる純粋さは年上をあまり意識させない可愛さもある。

 出会ったときから不思議な魅力を感じて、あの事件もあって……。

 昨夜、不審者に狙われた時、僕を頼ってくれた先輩。

 今日のデート、僕にとってはこんなにも誰かを意識したのは初めてだった。

 

「あのね、大河内クン。私、やっぱり貴方の事が好きみたい」

 

 紅潮する頬、どことなく緊張しているのが見て取れる。

 先輩は僕に告白をする。

 

「大河内クンは私にあわせてくれたり、優しくしてくれるじゃない。こう見えて、男の子との付き合いがあんまりない私には新鮮だったのよ」

 

「それが今でも信じられないんですが。日野先輩は正直、モテますよね?」

 

「……うっ、それは」

 

 彼女は恥ずかしそうな表情を浮かべていた。

 美人ゆえに男性から言い寄られることもあるはず。

 

「前にも言ったかもしれないけれど、男の子って苦手なの。弟とは仲がいいけれど、他の異性って怖いイメージもあったから。告白とかされたことも、人を好きになりかけたこともあるけど、何も進展したことはないわ」

 

「僕と似たようなものということですか」

 

 僕もそうだった。

 女性との接点がなかったわけではないが、自分から付き合いを求めることはなかった。

 けれど、今は先輩に興味を抱いてこんな風にデートまでしている。

 

「私は大河内クンのこと、最初は古風で気配りのきく男の子なんだって思ってたの。貴方とは気があいそうだなって感じてたんだ」

 

 彼女は夜景へと視線を移す。

 僕も再びそちらに視線を向ける。

 

「昨日のことがなくても、私はきっと貴方に惹かれていたわ。でも、今日のデートで私は想いがはっきりと自分にあるんだって自覚したの」

 

「僕も……今日、日野先輩とデートをして感じたことはあります。女性とこんな風にふたりっきりで出かけることは今までありませんでしたから」

 

 彼女とすごしたこの長くも短いように感じた1日。

 僕の傍で笑みを見せてくれた彼女。

 お互いをよく知るために、それが趣旨だったこのデートは成功だったといえる。

 

「ねぇ、大河内クン。もう一度言うわ。私は貴方が好きなの。私の恋人になってほしい。年上の私が言うのもなんだけど、大河内クンって寄り添いたくなるっていうか、甘えたくなるの。こんなお姉さんじゃ嫌かな?」

 

「……」

 

 彼女の告白を受けて僕は考える。

 日野先輩と僕は似ている。

 性格的にも相性はいいし、何よりも僕自身が彼女に惹かれている。

 初めて女性として誰かを意識している自分に驚いていた。

 これが人を好きになるということならば……。

 僕はその感情を認めざるを得ない。

 なぜならば、僕が返事を言う前に身体が先に反応していた。

 

「……大河内クン?」

 

 僕は日野先輩の手を握りしめていた。

 女性らしい細い指の感触。

 絡めあうように彼女はそっと握り返してくれる。

 

「男の子の手だわ。大河内クンの手って大きいのね」

 

「先輩の手は思ったよりも小さなものです」

 

「大河内クン。返事、してもらえるかな?」

 

「はい。いろいろと僕も考えてみました。先輩と出会ってからまだ日は浅いですが、僕は日野先輩が好きなんだと思います」

 

 相手を意識した時点で恋は始まる。

 いつだったか、久瀬がそんなことを言っていた。

 彼女はとっくに意識する存在になっている。

 ならばこそ、僕はその気持ちを認めなければいけない。

 

「本当に?」

 

「今日のデートはとても楽しいものでした。何気ないことすらも、楽しく感じるのは日野先輩が傍にいたからだと思います」

 

「私もとても楽しかったわ。こんなの初めての経験だもの。今もそう、すごく心が満たされているの」

 

「僕は誰かを好きになる自分を想像なんてしたことがなかったんですが……人を好きになるのは不思議なものなんですね」

 

 彼女のウェーブのかかった長い髪がなびく。

 こちらを見上げていた先輩は少し涙ぐんでいた。

 

「よかった……。これでも、ふられたらどうしようってドキドキしていたのよ」

 

「僕でいいのなら、よろしくお願いします」

 

「ありがとう、大河内クン。私も貴方が好き」

 

 周囲の目を気にせずに抱き合う。

 他のカップル連れも似たような感じなので気にらない。

 

「嬉しい。今、すごく嬉しいわ」

 

 微笑みを見せる日野先輩は子供のように可愛く見えた。

 

「先輩の笑顔は可愛いですよね」

 

「可愛い?可愛いって私には似合わない表現じゃない?」

 

「そんなことはありませんよ。先輩はとても可愛らしく見えます」

 

 僕の言葉に彼女は照れてしまった。

 そういう仕草も可愛いと思えてしまうのは、僕は本当に彼女が好きらしい。

 一度好きだと認めると、人は不思議なもので、それが当たり前のことのように思えてしまう。

 目の前で笑う彼女が愛おしい、と。

 

「……うぅっ。恥ずかしい。でも、恥ずかしいついでにお願いしてもいい?」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「あのね、私って……結構、甘えたがりなんだけど……いいかな?」

 

「もちろん。好きな人に甘えられて嫌がる男はいないでしょう」

 

 寄り添ってくる彼女を抱きとめながらふたりで夜景を見つめる。

 恋人同士として、この場にいられることの幸せ。

 

「とてもいい夜になったわ。綺麗な夜景を大河内クンと見られるなんて」

 

「……僕もですよ」

 

 望むのならばこの二人っきりの時間がもう少しだけ続いて欲しい。

 初めて好きな人ができた。

 大切な人で、時に可愛らしく、とても魅力的な女性。

 今日という日を、この夜を僕は忘れないと思う。

 日野先輩と僕はかけがえのない恋人同士になれたのだから――。

 

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