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49 第4章:候補3・トレーナー陸斗の社会的抹殺(SNS拡散)

第4節:ジムからの解雇と炎上


港区の高級タワーマンション、その最上階ペントハウスのリビングルーム。

壁際に設置されたペットカメラのライブ配信によって、パーソナルトレーナー・陸斗が妻・愛華の髪を掴み、暴力を振るいながら隠し金を要求して脅迫する醜態のすべては、瞬く間に大手動画配信サイトやSNSなどの主要プラットフォームへと飛び火し、日本中を巻き込む空前の大炎上を引き起こしていた。


「視聴者数:100万人突破……! コメントの流速が限界を超えています……!」


ネットの海に放り出されたその生々しい暴力的ドキュメンタリーは、もはや一つの歯車が狂った程度では済まされない、巨大な社会的津波となって陸斗の足元を容赦なく呑み込んでいった。

数百万人のネットユーザーたちが彼の顔、名前、そして身につけていた特徴的なウェアを瞬時に特定。画面の向こう側では、怒りと軽蔑に満ちた無数のネットリンチの炎が、音を立てて燃え盛っていた。


そして、その炎はデジタルな仮想空間にとどまらず、現実世界における最も痛烈な「実弾」となって、陸斗の人生を支えていた基盤を根底から粉々に叩き壊し始めた。


リビングの床に崩れ落ち、頭を抱えて震える陸斗のポケットの中で、彼の私用スマートフォンが、これまでにないほど狂ったような激しいバイブレーションを響かせた。

それは、彼が誇りとし、自らのステータスとなっていた「勤務先の高級フィットネスジム」の本社、および店舗の代表番号からの緊急直通着信だった。


「っ……!」


陸斗は血走り、恐怖に引きつった目でそのスマートフォンを見つめた。画面には、勤務先である有名プレミアムジムの公式ロゴマークと、総支配人(オーナー)の名前が冷酷に表示されている。


電話に出なければ、さらに最悪の事態が待っているのは明白だった。しかし、出たところで救いなど一欠片も存在しない。

震える指で、陸斗はおそるおそる通話ボタンをスワイプし、耳元へと端末を押し当てた。


「もしもし、り、陸斗です……!」


その声は、かつてジムのエースインストラクターとして会員たちに爽やかな笑顔を振りまいていた男のものとは似ても似つかない、すがりつくような哀れなうめき声だった。


『――陸斗君、君ね。今、どこにいる』


電話の向こうから聞こえてきたのは、日頃から温厚で知られていた総支配人の、凍りつくように冷え切った、感情の一切排された低い声だった。

怒鳴り声すらない。だが、その底知れぬ怒りと失望の重みが、電話の回線を通じてダイレクトに陸斗の鼓膜を打ち据えた。


「そ、総支配人……! あれは、違います! あれはネットの連中が勝手に編集したフェイク動画であってですね、私はただ、その、家庭内のちょっとしたトラブルに巻き込まれて――」


『言い訳はいい!』


支配人の冷徹な一言が、陸斗の弁解を容赦なく切り捨てた。


『今、我がジムのカスタマーセンターおよび本社代表回線には、日本全国から抗議の電話やメールが数千件単位で殺到している! 「女性に暴力を振るう危険な男にトレーニングを教わっているのか」「即刻クビにしろ」「こんなジムには二度と通わない」――。我がジムが長年築き上げてきたブランドイメージと社会的信用は、君のたった一度の醜態によって、一瞬にして地に落ちたんだ』


「そ、そんな……! お願いです、支配人! 私にはこの仕事しかないんです! 見捨てないでくれ!」


『見捨てるも何も、君はすでに我がジムの人間ではない』


冷徹な宣告が、陸斗の頭上へとハンマーのように振り下ろされた。


『たった今、緊急の役員会議が招集され、満場一致で決定した。――陸斗君、君を本日この時刻をもって「即時解雇(懲戒解雇)」とする。同時に、ジムの公式ホームページおよびSNSアカウントにおいて、君の解雇処分と不祥事に関するお詫びの声明を正式に発表した。今後、君のこれまでの勤務態度や過去の顧客トラブルについても徹底的な内部調査を行い、会社に与えた莫大なブランド損害に対する「損害賠償請求の訴訟」を正式に準備する。……二度と、ジムの敷居を跨ぐな』


プツッ――と、容赦のない切断音が響いた。


「あ……あぁ……っ……!」


陸斗はスマートフォンを取り落とした。

高級な端末が床のフローリングの上を滑り、虚しく転がっていく。彼はその場にひれ伏すように倒れ込み、声を上げて泣き叫んだ。

自分が築き上げてきたキャリア、若い肉体への過信、客を言いくるめて得ていた優越感――そのすべてが、ネットの炎上とジムからの即時解雇という現実の前に、文字通り木端微塵に砕け散ったのだ。


だが、地獄の釜の蓋は、まだ開いたばかりだった。


ジムからの解雇通知を受け取り、絶望の淵で打ち震えていた陸斗の耳に、タワーマンションの廊下から響く、重々しくも規則正しい「足音」が飛び込んできた。


ザッ、ザッ、ザッ……。


その足音は一つではない。複数の屈強な男たちが、迷いのない足取りで最上階のプライベート・エレベーターを降り、このペントハウスの玄関へとまっすぐに近づいてきている。


「っ……!?」


陸斗の全身の産毛が一斉に逆立った。

彼は恐怖に引きつった顔で玄関の方角を振り返る。


――ピンポーン……!


チャイムの音が鳴ると同時に、重厚な玄関のドアノブがガチャリと音を立てて回された。

前もって管理権限を持つ捜査機関によって開錠されていたその扉が、押し開けられるようにしてガチャンと大きく開いた。


そこに立っていたのは、東京都警視庁の捜査員たち、そしてサイバー犯罪対策課の制服警官たちだった。その先頭には、冷徹な眼光をたたえた捜査一課の警部補が、確実な足取りでリビングの高級カーペットを踏みしめて入ってきた。


「陸斗だな」


静まり返ったリビングに、一切の感情を排した硬質な声が響き渡る。


「な、何の用だ……! 私は何も悪いことは――!」


「とぼけるな。お前が先ほどまで行っていた女性に対する暴行、恐喝未遂、およびプライバシー侵害を伴う悪質な撮影・配信行為――そのすべての決定的な動画データが、すでに全国の警察およびサイバー犯罪対策課のサーバーに証拠として保全されている。」


捜査員の一人が、冷ややかにその一枚の用紙を陸斗の目の前へと突きつけた。

そこに書かれていた容疑の項目を見た瞬間、陸斗の顔から最後の血の気が失われた。


『被疑者・陸斗に対する逮捕状』

・暴行および傷害の疑い

・強要未遂(金銭要求と脅迫)の疑い

・迷惑防止条例違反および不当撮影拡散の疑い


「うそだ……! そんなはずはない……! 俺はただ、少し頭に血が登って――」


「取調室でたっぷりと弁明の機会は用意してやる。おとなしく従ってもらおう」


ガチャン、と重く冷たい金属音が響いた。

屈強な捜査員たちが陸斗の両腕を左右からガシッと掴み上げ、無理やりその身体を引き起こす。


「やめろ……! 離せ! 私はまだ若いんだ! こんなところで人生終わりたくない……! 嵌められたんだ、あの女に……いや、あのガキに……!」


陸斗は狂ったように暴れ、見苦しい叫び声を上げながら抵抗した。しかし、日頃からジムで鍛え上げていたはずの彼の肉体も、極限の恐怖と絶望のなかで萎えきっており、現役の捜査員たちの圧倒的な制圧力に敵うはずもない。

彼は両腕を背中にねじり込まれ、冷たい手錠をしっかりと掛けられた。


「暴れるな。連行する」


「いやだ……! 離してくれ……!」


捜査員たちに両脇を抱えられ、床に足を擦り付けながら、陸斗は引きずられるようにしてエレベーターへと連行されていく。そのトレーニングウェアは破れ、かつて会員たちに持てはやされていた甘いマスクは、涙と鼻水と泥にまみれて見る影もなく歪み切っていた。


ガチャン、とエレベーターの扉が閉まる。

こうして、パーソナルトレーナーとしてのキャリア、社会的信用、そして自由のすべてを剥ぎ取られた第三の男・陸斗は、暗いパトカーの待つ警察署へと、文字通りの「現行犯逮捕」の末に連れ去られていったのだった。


――静まり返ったタワーマンションのリビングルーム。

嵐が去った後のような圧倒的な静寂のなかで、取り残された妻・愛華は、もはや恐怖すら超えた虚無のなかで、床にへたり込み、うつろな目で天井を見上げることしかできなかった。

弁護士の神条は逮捕され、上司の陣内は失踪し、トレーナーの陸斗もまた逮捕されて連行された。彼女の周りに築かれていたすべてのハイエナたちは、その姿を消し去った。


だが――。

そのすべての修羅場の只中で、ベビーベッドの特等席に横たわる俺(佐藤一真)は、冷徹なまでの冷静さを保ちながら、小さな唇の端を美しく、そして冷やかに吊り上げて微笑んでいた。


(弁護士・神条、上司・陣内、そしてトレーナー・陸斗。前世の俺を食い物にし、死後もその遺産と妻を貪ろうとした三人のハイエナたちの社会的・法的抹殺、これにて完璧に完遂された)


泥沼の人狼ゲームの勝者は、ベビーベッドの中からすべてを操り続けた「小さな復讐者」――佐藤一真、ただ一人。

復讐の第一幕は、こうして見事な大団円(そして完全なる破滅劇)をもって、その幕を閉じるのだった。

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